黒鷲とお嬢様の終わりと始まり
さあ、黒鷲と殿下の対決はどうなったのでしょうか?
「そう簡単に捕まるつもりはありませんよ。私を甘く見すぎですよ。殿下」
黒鷲が不適に笑った。
「それはどうかな……。相手をするのは私ではない。君にはもっと適任者がいる。それに私は君を捕まえるほど暇ではない。あとは任せたよ。ロナウ警部補殿」
アンジュー殿下はその場から一歩さがり、ロナウ警部補に前を空けた。
後ろに控えて一連の出来事を見ていたロナウ警部補は黒鷲の前に進み出た。
「久しいな。黒鷲。やっとこの手で捕まえられそうだ。観念しろ!」
ロナウ警部補はそう言うなり、拳銃を取り出し黒鷲に銃口を向けてかまえた。
「なるほど。またロナウ警部補あなたですか。懲りませんね。一度、私に逃げられているのに……」
「なんの冗談だ。私は見逃してやっただけだ。断じて逃げられたのではない!」
「はは、ならもう一度証明するまでだ。今度は完璧に君から逃れて見せよう!」
「寝言は寝てから言え!。起きながら寝言をほざくとは貴様も器用なものだな」
黒鷲とロナウ警部補はお互いに睨みあった。
「それではIt's show time!」
黒鷲はそう言いながら何かをロナウ警部補の前に放った。
それは黒い玉で地面へ触れた途端に黒い煙が吹き出した。
教会の中は黒い煙に包まれた。
するとどこからか誰かの悲鳴が聞こえた。
「キャーっ、ちょっと私をどうするつもりなんですの!放すのですわ!」
「クリスティーヌ嬢……少し黙っていて貰えませんかね。これではすぐにバレてしまうではないですか」
「それはこっちのセリフですわ。宝石だけを盗めばいいのに何故、私まで担いでるんですの!」
「これは失礼。確かにレディにしては扱いが雑だった。紳士として謝罪しよう。ではこれならどうかな」
黒鷲は笑いながら、クリスティーヌ嬢を肩に担いでいたのを、腕に抱きあげ直した。
とたんにクリスティーヌ嬢は赤面した。
「なっ、なんでそうなるんですの!」
「いやいや……そう暴れないでくれないかな。今、君を放したらまずい事になると思うんだよ。周りを見てごらんよ」
「え!どういうこ……と……なんですの……」
クリスティーヌ嬢は周りを見て、急に赤い顔が青い顔になった。
咄嗟にクリステーヌ嬢は黒鷲の首に腕を回し、しがみついた。
自分が今どういう状況下にいるのかが分かったからだ。
そのとき一発の銃声の音が聞こえた。
弾丸が黒鷲の顔の数センチ隣をすり抜けた。
そして後ろのステンドグラスを貫き、空の彼方へ弾丸は飛んでいった。
すでに教会の中の黒い煙は霧散していた。
「いつまでそこで話をしている!貴様はどこまで警察を馬鹿にするつもりだ!」
ロナウ警部補は上を見上げながら、言い放った。
拳銃の銃口は黒鷲に向いたままだ。
ロナウ警部の周りにいた兵隊共も上を見上げた。
「なっ!いつの間に2階の手摺の上に移動したんだ!どうやって!」
皆、驚きの顔で2階の手摺の上にいる黒鷲を見つめていた。
「衛兵ども。驚くな。あれはたんなるマジックだ。種も仕掛けあるな……。そうだろう。黒鷲」
「さあ~。それはどうかな……」
「とぼけるな。仕掛けがお前のいる手摺の下に残っているぞ」
クロウ警部補の目線の先にあった物へ教会にいた全員が目を見開いた。
手摺の下にあったのは人二人分あるだろう錘があった。
そう黒鷲は目に見えない糸(細いワイヤーみたいなもの)を手に持ち、手摺にあらかじめ通しておいたワイヤーの先に錘をつけて、手摺を滑車に見立てて錘を下に落とし、その重さで黒鷲たちは2階に移動したのだ。
「はは……まいったな。君は後ろにいる殿下より手強そうだ……」
そう、黒鷲がクロウ警部補に向けて話したら、後ろから憤慨した声が聞こえた。
「お~い!黒鷲、私はクロウ君よりもできる男だぞ!」
「殿下……話の腰を折らないで頂きたいのですが…………」
クロウ警部補がどっと疲れたような声を出した。
「なんだ君は。君も私に逆らうのかね……」
アンジュー殿下はクロウ警部補に向かい薄ら笑いをうかべた。
「いえ……そう言う訳で言ったわけではないのですが……」
(はぁ~。この人と居ると何でか扱いに困るんだよな……。邪魔ではないが黙っていてほしい。見た目は完璧な皇太子なのに話し出すとこう残念な殿下になると思っているのはきっと私だけではないだろう)
「さてとではそろそろ王手を掛けさせてもらいますか。今、私の手の中には月の雫とクリスティーヌ嬢の両方が手の中にある。これがどういう事かわかるかね。クロウ警部補」
「それは脅しか……黒鷲!クリスティーヌ嬢を人質に取ろうというのか。それともクリスティーヌ嬢もお前の仲間か」
「ふふふ。面白い冗談だ。クリスティーヌ嬢は仲間ではない。人質だ」
その言葉を黒鷲が言ったとたんに殿下の後ろにいたある男が出てきて大声を出し始めた。
「黒鷲め!ワシのクリスティーヌを返せ!クロウ警部補!娘に傷をつけるなよ!黒鷲のみを捕まえろ。もし、娘に傷をつけたらただじゃおかんぞ!」
クリスティーヌ嬢の父親のリッチモンド公爵だ。
(はぁ……ここにも面倒な奴がいたか…………)
ロナウ警部補は頭を抱えたかったが、銃口を黒鷲から外すことはできないので心の中で今日の日を呪った。
「そうか……ではクリスティーヌ嬢と月の雫を返してもらおうか」
もう一発、弾丸を黒鷲に向けて発砲した。
もちろん黒鷲は軽く首を傾け弾丸を避けた。
「君は結構、短気な性格なんだな。ではそろそろ失礼するよ」
黒鷲はそう言うと後ろのステンドグラスの方へ向かい、そのままガラスを割り、外に飛び出した。
そのまま2階から1階に降り立ち、教会の敷地から疾走した。
「馬鹿なやつだ。外にも衛兵は多くいるのにあれでは捕まりに行くようなものだ」
ロナウ警部補は拳銃を腰のフォルダーにしまいこみながら言った。
周りにいた衛兵たちも咄嗟に気づきリーダー格の男が外にでた黒鷲たちを捕まえるように指示を出した。
だかその後、衛兵たちは二人を捕えるどころか見つける事もできずにいた。
教会の周りに多くの衛兵たちが居たのに誰一人として2人を見つけられなかった。
そうこうしているうちに一人の衛兵が教会の敷地の中の墓地の奥に2人分の衛兵の衣装が乱雑に捨てて置かれているのを見つけた。それを見たクロウ警部補はやられたと顔を顰めた。
クロウ警部補の後ろに報告を受けてやってきたアンジュー殿下が声を掛けてきた。
「どうやら黒鷲には完璧に逃げられたようだね。クロウ警部補」
「はっ、その様でありますな……」
どうやら二人は衛兵の衣装を来て、逃げて敷地の外に出たようだ。
どおりでいつまでたっても二人を見つけられないはずである。
そこらじゅうに同じ服を着たものたちがいるのだ。一人ひとりの顔など誰一人確認するものはいない。
クロウ警部補は苦虫を潰すような顔になった。
その頃、教会の敷地から逃げた二人は街中を急ぎ疾走し、途中で黒鷲が馬車を盗み、今はどこかに向かって馬車を走らせていた。
そんな馬車の中で二人は言い争いをしていた。
「ちょっと!どういうことですの!なんで私まで攫う必要があったんですの!」
クリスティーヌ嬢は黒鷲の襟元を両腕で絞めながら詰め寄っていた。
「い、いや……ちょ、ちょっと落ち着きたまえ。クリステーヌ嬢よ。けほっ!これ以上は息ができな……」
「それよりも私まで連れてきた理由を言うのですわ!これでは私まであなたの仲間に思われてしまいますわ!」
「そ、その前にく……くび……手を放してくれ!」
「あら、失礼いたしましたわ。わたしったら、興奮しすぎましたわ」
クリスティーヌ嬢は少し、落ち着きを取り戻し、黒鷲の首に掛けていた手を離し、向かいの席に座りなおした。
「まったく……あなたは口よりも手の方が早い方なのだな……。今後は気をつけよう」
「何か言いまして?」
「いや……別に……」
「何故、私まで連れてきたんですの」
「それはあなたを私の家に向かい入れるためだよ。月の雫はそのついでかな」
「どういうことかご説明願いますわ。月の雫を盗むように頼んだのは私ですが……誰が私まで攫えと言いましたの」
クリスティーヌ嬢は青筋を立てながら黒鷲に言った。
「このままあの場にいてもあなたは結婚を破断にはできないからですよ」
「それは…………月の雫がなければ結婚なんてできるわけが……」
「あなたはどこまで考えなしなんですか。いくら月の雫が盗まれたとしても、王が認めた結婚を簡単に破断になる訳がないでしょう。このままあいつと結婚してもきっとあなたは幸せにはなれない。だからほとぼりが冷めるまで私の家で匿うのですよ。それにあいつは捕まりましたし。もう結婚する意味もないでしょうしね」
クリスティーヌ嬢はその言葉を聞き、少し青ざめた。
確かに黒鷲が言った事は正しかった。
この王政の中で王が認めたことは絶対だ。
ならこのまま結婚してもリッチモンド家まで取りつぶしになる可能性の方が高い。
「そ、そうね……。わかったわ。で私達はどこへ向かって馬車を走らせているの?」
「決まっているではないですか。私の領地に向かって馬車を走らせているんですよ」
「そう。仕方がないわ。少しの間、あなたにお世話なるしか無い様ですわ」
「理解頂けましたか。それは良かった」
黒鷲はクリスティーヌ嬢へ向けて微笑んだ。
自分でも気付かずに愛おしそうな目を向けて……。
クリスティーヌ嬢はその顔を見てドキッとした。
黒鷲は普通の男性なのにどこか目を惹かれてしまって、目を見つめられると照れてしまうので誤魔化すように話しかけた。
「ところでそろそろあなたの本当の名前を教えて頂きたいものだわ。これからお世話になるのだし」
「あああ!そうでしたね。まだ名前を言っていませんでしたね。私はアラン=マンチェスターと申します。以後お見知りおきを……」
アランはクリスティーヌ嬢の手を取り、手の甲へ手袋越しにキスを落とした。
時代は変わって50年後、アランは自室でクリスティーヌと初めてあった時の事を思い出していた。
アランが椅子に座り、昔の事を振り返っていると部屋の扉からコンコンと音がした。
「入りなさい」
そうアランが言うと扉を開け、一人の年老いた女性が入って来た。
「あらアラン・・・ここにいたんですの。もうそろそろディナーになるわ。あなたを呼びに来たのよ。子供たちが来てあなたを待っているわ」
「ああ!!もうそんな時間かね。わかった。そろそろディナーにしようか」
アランは部屋の電気を消すとその老婆と一緒に部屋を出た。
やっと第1部が書き終わりました。長かった・・・これだけ書くのに1年かかってしまった。
第2部はもうちょっと考えるのでまた更新するには間が空くと思いますので一旦はこの話で終わりにします。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。後半はノロノロとした更新でしたがここまで書けて良かったです。