黒鷲と結婚式
さてどちらが黒鷲でどちらがフィリップ公爵なのでしょうか。
王太子アンジューは教壇の前に立ち、皆の前で話し出した。
「さて……では2人のフィリップ公には1つ質問をしよう。それでどちらかが本物か分かるだろう」
「それはどんな質問ですかな。アンジュー殿下。私は何を質問されても何でもお答えしますよ。それで私が本物のフィリップだと証明できるなら……」
花嫁の隣に居たフィリップが答えた。
続けて対峙しているもう一人のフィリップも答えた。
「私は何だって答えてやるぞ!私の方が本物なのだから!」
「そうですか。それは良かった。では私からの質問は…………」
(それにしても驚いた……。あの悪友が王太子だっていうのか!冗談にもほどがある。やられた!悪友あいつはきっと俺を黒鷲だと知っていて利用したのか!この私が抜かるとは……)
黒鷲はこの場に突然現れたフィリップ本人よりも悪友が突然目の前に現れた事のほうが驚いていた。
(それにしても……どうするか……。どうやって誤魔化そうか……。)
黒鷲が突然のアクシデントに対応しようと思案していたがその間にアンジュー殿下が質問した。
「新婦の体にあるホクロの位置を答えて貰おう。婚約者ならもちろん知っているだろう!」
周りに居る貴族たちが一気に騒がしくなった。
「え!ホクロの位置ですって!そんなの親しい間柄というよりも……夜を共にしないと分からないんじゃなくって?」
どこからともなく貴婦人の声が聞こえた。
また別のところからも声が聞こえてきた。
「そうだよな。それに見た目にはどこにホクロがあるかなんでわからんぞ」
(あいつは何を考えているんだ…………。そんなの婚約者なら当然に知っていることを聞いてどうするんだ?そんなの私もフィリップ公爵にも答えられるに決まっているだろうが。これでどちらが本物かなんで区別がつくのか…………お手並み拝見だな)
黒鷲は内心どう対処するか焦っていたのに、アンジュー殿下の質問を聞いた途端に余裕が出てきた。
もう一方の本物のフィリップ公爵は逆に慌てていた。近くにいる者へ聞きたそうに顔をキョロキョロ。目をキョロキョロさせていた。
(なんだと!ホクロの位置など分かるわけがないだろうが!何を考えているのだアンジュー殿下は!はっ!もしや……答えられない私を偽者扱いをして罠にはめる気か!いや……しかしアンジュー殿下には別に何も私との因縁など無いはず…………。わ、わからん!どうすればいいのだ!)
本物のフィリップ公爵はどうすれば自分が本物だと言う事を証明できるのかを考えていた。
(ちょ、ちょと!アンジュー殿下は何を考えていらしゃるですの!わ、私の体にあるホクロですって!そんなのあるわけ無いじゃないの!これはまずいわ。まだ月の雫を盗んでもいないのに黒鷲だと正体がバレるのは……。どうしたらいいの!どうにかして黒鷲に伝えないと!)
質問の課題にされた花嫁のクリスティーヌ嬢は顔を真っ赤にしたり、真っ青になったりと百面相をしていた。
アンジュー殿下は教壇のところから2人のフィリップ公爵に近づいて言った。
「さあ、まずは花嫁の近くにいるフィリップ公爵からお答え願おう」
「ふっ……そんな事でいいのですか?婚約者なのだから知っていて当然ですよ。クリスティーヌ嬢のホクロの位置は背中の右腰の近くにある」
花嫁の近くに居たフィリップ公爵はさも当然だという顔で言い切った。
フィリップ公爵の隣に居た花嫁のクリスティーヌ嬢は隣にいるフィリップが答えた途端に頭を抱えた。
「そうですね……。知っていいて当然ですね。いいでしょう……では向かいにいらしゃるフィルップ公爵はどうですかな?」
アンジュー殿下はフィリップ公爵の挑発には乗らず、向かいに居るフィリップへ質問した。
「そ、そんな事を私に聞くな!分かる訳がないだろう!まだ私はクリスティーヌ嬢とは寝ていないのだから!それにこんな質問をして、どちらが本物のフィリップだとどうしてわかるのだ!」
向かいにいるフィリップは考えが結局まとまらずにそのまま答えてしまった。
フィリップも話していてこれでは自分は偽者だと思われるのではないかと不安な顔をした。
「そうですね。これではっきり分かりました。どちらが本物のフィリップ公爵なのか。では皆にも分かるようにご説明致しましょう!」
「アンジュー!本当か!今の質問でどちらが本物なのか分かったのだな!」
国王はアンジュー殿下の顔をマジマジと見ながら言った。
「はい。国王陛下。もちろんでございます。今からご説明させて頂きます」
「わかった。続けよ」
「はっ、ではご説明致します。今の質問は実に夫婦ならの質問だったのでないかと思います。そう……夫婦なら……。ですが、フィリップ公爵はまだ結婚式を終えていません。まだクリスティーヌ嬢とも寝てもいない。当然ですな。婚姻を交わしていない男女が寝ることは貴族として知られてはいけない。特に女性は。まあ……クリスティーヌ嬢が誰とも寝ていない場合に限ります。どうですかクリスティーヌ嬢?」
アンジュー殿下はクリスティーヌ嬢に質問をなけがけた。
「な!貴族としては当然ですわ!フィリップ公爵様とはまだ夜を共にしたことなど一度もございませんわ!そんなはしたない事を公衆の面前で言わせないで頂きたいですわ。殿下!それに私にホクロなんてございませんわ!」
クリスティーヌ嬢は顔を真っ赤にしながら答えた。
「クリスティーヌ嬢が言うのですからそうなのでしょう。ご令嬢にはちょっと失礼な質問でしたね。王太子ということでお許し下さい。さて……怪盗というものは本当に可笑しい者だ。普通なら特に気にしない事柄まで鮮明に記憶している。そうだろう黒鷲!」
アンジュー殿下はクリスティーヌ嬢の隣に居たフィリップ公爵へ声をかけた。
「はは!確かに盲点だったよ。アンジュー殿下。こんなにすんなり正体がバレるとは思いもしなかった。誤魔化せたと思っていたのに。さて、アンジュー殿下は何がなさりたいのかな?」
花嫁の隣にいたフィリップ公爵は顔に手をかけ首元からいっきにマスクを剥がし、ニヤリと笑った。
そして、花婿の衣装から一瞬で怪盗の黒鷲の服装へ変わっていた。
周りの貴族達が息を呑み、驚いた顔していた。
「当然。決まっている。衛兵どもまず、本物のフィリップ公爵を拘束せよ。そして黒鷲を捕まえよ!」
「はっ!殿下のご命令のままに!」
黒鷲とフィリップ公爵を取り囲んでいた衛兵がいっせいに動いた。
まずは本物のフィリップ公爵の近くにいた衛兵が動く、すばやくフィリップ公爵を拘束した。フィリップ公爵の周りにいた取り巻き達も次々と拘束されていった。
これに驚いたフィリップ公爵は喚いた。
「な!これはどういうことですか!アンジュー殿下!私が本物のフィリップだと証明されたのに何故、拘束をされないといけないのだ!」
アンジュー殿下はフィリップ公爵に近づいて言った。
「それはあなたが罪人だからですよ。やっとアナタの尻尾を掴んだのでね。色々とあなたの周りを部下に調べさせました。部下の報告とある民間人からの密告により、誘拐に殺人教唆、贈収賄に密輸と色々とあなたから埃が出てきましたよ。これだけ罪を重ねられると王家も流石に庇いきれない」
アンジュー殿下は人の悪い笑みを浮かべた。
フィリップ公爵の顔が真っ青になった。
「な!どこにそんな証拠があるというのだ!あるなら出して見ろ!アンジュー!」
「とうとう王太子を呼び捨てか…………いいだろうそこまで言うなら出してやろう。さあ、証人を連れて来い!」
アンジュー殿下の命令で教会の扉の方から証人が衛兵により連れて来られた。
フィリップ公爵は連れて来られた証人を見て、真っ青な顔がさらに白くなった。
「な!おまえは…………」
「フィリップ公にも見覚えがあるだろう。あの証人はお前がクリスティーヌ嬢を誘拐した際に使用した仲介人の男だ!」
アンジュー殿下はフィリップ公爵に止めを刺した。
フィリップ公爵は何も言えないまま項垂れた。
「衛兵よ、沙汰があるまでフィリップ公爵を牢に繋げ!」
アンジュー殿下の命令が下された。
「は!さあ、フィリップ公を牢まで連れて行くぞ」
衛兵はフィリップ公爵を牢まで引っ立てた。
「いや~お見事ですな。アンジュー殿下。こうも華麗にフィリップ公爵を捕まえられるとは……」
アンジュー殿下の後ろから声が掛けられた。
アンジュー殿下は後ろを振り返り、黒鷲に向けて言った。
「ふ!黒鷲よ・・・おまえも同じ道をだどる事となる。潔く捕まったらどうだ?」
更新がかなり遅れました。物語りも大詰めを迎えています。次回、一旦区切りを迎える予定です。