お嬢様と企み
黒鷲とお嬢様はどのようなお話をするのでしょうか。
リッチモンド家のとある客室に二人の男が居た。
一人は優雅に椅子に座りながら紅茶を飲んでいる。
もう一人は給仕をしているのでおそらく執事だろう。
「どうだ。クリスティーヌ嬢は宝石の在りかを話したのか?」
男は執事に問いかけた。
「いえ……まだ仲介役からは連絡が来ておりません。急がせますか?」
「そうだな。急がせろ。でないと苦労してクリスティーヌ嬢を攫った意味が無くなるからな。」
「畏まりました。では仲介役には事を急ぐように申しましょう」
「まったく……黒鷲にはしてやられたからな。こちらが事を起こす前に面倒事を起こしてくれたものだ。おかげで事を急ぐ事になった。もし、これでクリスティーヌ嬢が宝石の在りかを話さなければ、盗まれる前に式を早めなければならなくなる。忌々しいコソ泥め」
椅子に座った男は忌々しそうに言葉を吐いた。
それと同時刻、王城のある執務室に二人の男が居た。
一人はこの執務室の主で、もう一人は軍服を着た男だ。
「はっくしゅん!はっくしゅん!」
執務室の主は2回くしゃみをした。
「殿下!大丈夫ですか。お風邪でも召されましたか」
心配そうに部下が話掛けた。
「いや……大丈夫だ。誰かが私の噂をしていたのかなw」
「それならよろしいのですが……」
「それより、仲介役の男は捕まえたのか?」
「もりろんです。殿下。私の指揮のもと仲介役の男を捕らえて、今は特別な牢屋にて取り押さえております」
「やっと奴の尻尾を捕まえられたな。これで王室も少しは静かになるだろう。あいつは王室の権利を振りかざし少しやり過ぎたからな」
「まったくです。毎回、殿下が尻拭いをしておりましたから。これで面倒事が少なくなりましょう」
「そうだな。今回は友人のアランに助けられたな。まさかここまで私の筋書き通りに事が運ぶとは思っていなかったが……面倒事が片付いたのとリッチモンド家も潰されずにすむ。これでリッチモンド家と手を組むことができる」
「そうですね。味方は多いにこした事はないでしょう。それに殿下の王位を脅かすものは早々に片付けたほうが良いでしょうし」
「わかっている。まだ弟達がいるからな。気が抜けないからな」
「それにしても……アラン殿には何も話さなくて宜しいのですか」
「ああ……いつかは話すだろうがそれは今ではない。それにまだ黙っているほうが面白そうだろうw」
「殿下……また悪い癖が出ましたね。そうやって人をからかうから友人がアラン殿しかいないのでは?」
「ふん。黙れ。私は別にアランしか友人がいないわけでは…………。気が合うのやつはアランしか該当しなかっただけだ……」
「殿下……それ同じ意味ですよ……」
「もうよい。報告は終わったのだろう。次の準備に取り掛かれ!」
「はっ、畏まりました。ではこれにて失礼致します」
軍服の男は執務室から退出した。
一人、執務室に残った殿下は残っている業務に取り掛かった。
それから少し後にアランとクリスティーヌ嬢はパリス市内のとある建物の中に居た。
赤いソファーが2つ、真ん中にテーブルを挟み、お互いが向かい合いながら座っていた。
「それでどうして、急に月の雫を盗もうという気になったんですの?」
クリスティーヌ嬢から話し出した。
「そうですね。早く言えば、口止め料ですよ。あなたは私の素顔をご存知だ。それを宝石を盗むことで他には他言無用にして頂くということです」
「確かに素顔を知られては仕事はやり難くなりますわね」
「でクリスティーヌ嬢は何故、月の雫を盗んでほしいのですか?」
「ブルボン家との婚約を破談にするためですわ」
「やはり……そうでしたか。でも何故です……家にとっては良い縁談なのではないのですか?」
「そうですわね。家にとっては良い縁談だと思いますわ。でも私にとっては良い縁談ではないとだけ言っておきますわ」
「そうですか……要は婚約者のフィリップ殿はお好きでないと言う事ですね」
「そうですわ。確かに最初は良い方だと思っていましたわ。でもある事がきっかけでそれは夢物語と気がついたのですわ。だから月の雫が盗まれれば、縁談が破談になると思ったのですわ」
「わかりました。それなら喜んで盗みましょう。これで交渉は成立ですね」
「ええ……。でもどうやって盗むんですの?あの予告状でお父様が今までにないくらいにお怒りでしたわ。警備は今よりも厳重になりますわよ」
「それはまだ考え中ですが、お嬢様が味方なら容易くなりますよ」
「そう、では盗む段取りがついたら教えて頂けますわね」
「もちろんですよ。そのときは手紙でお知らせ致します。何かありましたら、こちらの私書箱にお知らせ下さい。それではクリスティーヌ嬢のお屋敷の途中までお送り致しましょう」
「ええ……そうして頂けるかしら」
クリスティーヌ嬢とアランはまた馬車に乗り、レイモンド家の前まで馬車を走らせ、途中でクリスティーヌ嬢を下ろした。
「では、私はこれで……またお会いいたしましょう」
「ええ……連絡をお待ちしておりますわ」
クリスティーヌ嬢はそう言うと自分の屋敷まで歩いて帰って行った。
クリスティーヌ嬢が自分の屋敷の前までくると門番の男が気づき、慌てて執事のところへ飛んで行った。
ハリソンはそのことを聞き、急ぎ門まで行き、クリスティーヌ嬢を向かい入れた。
「お、お嬢様!よくぞ……ご無事でなによりです」
感極まったのかハリソンは涙を浮かべながら喜んでいた。
「ええ……心配をかけましたわね。お父様はいらしゃるかしら」
「も、もちろんでございます。今もお嬢様を心配しておりますよ」
「そう。お父様へ会いに行く前にはお風呂と着替えを用意してもらえるかしら」
「畏まりました。すぐご用意致しますので、まずはお部屋に入りましょう」
「そうね。お父様には身支度が整ったら伺うと伝えてちょうだい」
「畏まりました。では準備してまいります」
ハリソンはすぐに屋敷に入り、お風呂と着替えの準備をしたのですわ。
私は、この3日間の汚れを落とし、新しい服に着替えて、お父様が待つお部屋へ脚を踏み入れたのですわ。
「お父様。心配をお掛け致しました。無事に戻って参りましたわ」
「おお!クリスティーヌ!良かった。無事で良かった。お前まで失ってしまうのではと気が気じゃなかったよ」
お父様は目に涙をためながら、私を力強く抱きしめましたわ。
「大丈夫ですわ。私は無事ですわ」
私の目にも少し涙が滲みましたわ。
「そうだな。だがこうなったからには一刻も早く式を挙げよう。今回はフィリップ殿も尽力してくれたんだぞ。それで二人で話したんだ……このままでは悪い噂が立つだろうということで早めに式の準備をすることにした。フィリップ殿も同意の上だ。式は3ヵ月後だ。準備に忙しくなるぞ」
お父様はにこやかにはなしたのですわ。
「ええ……そうですわね」
私は苦笑いでそうこたえましたわ。
(まずいですわ!これは黒鷲に連絡して、早めに計画を実行してもらわないといけませんわ)
リッチモンド家の客室では二人の男がコソコソと話をしていた。
「何っ!クリスティーヌ嬢が帰って来ただと!どういうことだ!」
「それが……仲介役と連絡を着けようとしたところ奴と連絡が取れず、代わりに門のところでクリスティーヌ嬢が立っておられたのです。私もどういうことか分かりませんが、仲介役は宝石の聞き出しに失敗して逃げたのでしょう」
「なんて役に立たない奴なんだ。もう、良い。奴は何がなんでも消せ。これはレイモンド公爵へ早めに式が挙げられる様に進言して正解だったな」
「そのようですね。では仲介役を消すように手配してまいります」
「ああ、急げ。面倒ごとはもういらないからな」
「畏まりました。事を急ぎます」
そう言うと男は部屋から出て行った。
今回はいろいろな企みが絡み合う話だったかと思います。そろそろこの話も佳境に入っていきます。
更新がすごく遅いですが、頑張ります。