第八話 神託
あの日からユウとセツキは、パースに稽古をつけてもらっていた。教会の手伝いが終わると直ぐにパースの下へと向かい、お師匠さんと慕う。そんな様子にセンはニコニコしながらも、怪我をしないか心配でしょうがないようだった。稽古をつけてもらってから一月が過ぎた頃、物覚えの良い二人はあっと言う間に成長していった。その小さな体では考えられない程に力強く、逞しくなっていく。身長も少し伸びたのか、前より頼もしくなったように見えるが、中身はまだまだ幼い子供みたいだった。
「よし、今日はこれでおしまーい。」
「ありがとうございました!」
「あー、疲れたー。俺、もうお腹ペコペコ―。」
「僕も。今日のご飯は何かなぁ?」
余程お腹が空いてるのか、二人はワイワイと食事について話す。そんな二人を見ていたパースの身体に、急に衝撃が走った。頭を思い切り殴られぐらりと揺れる。すぐに後ろを向き臨戦態勢をとったが、相手を確認すると困惑した様に目を泳がせた。
「こんの、バカ神父!いつまで此処に居るんだ!」
「あ、あらあらー。どうして此方に?」
「一週間程のはずが、一月経っても戻って来ないので、何かあったのかと思ったのですが…。」
「一体いつまで油売ってんだ。さっさと戻って来ないと、こっちが大変だろう。」
「…カンナ様、ヒリト様。申し訳ございません。」
パースの後ろに居たのは、以前共に旅をした神使のカンナと憑代のヒリトだった。二人に気が付いたユウとセツキは声を上げて勢いよく抱きついた。
「ヒリト兄ちゃん!カンナ姉ちゃん!」
「えへへ、久し振りー!」
「おう、二人共元気にしてたか―。」
「お久し振りです、ユウ君、セツキ君。」
「…コラ、逃げようとしない。」
「あ、あははー…。」
四人が話している後ろでコッソリとその場から離れようとしていたパースに、カンナは声を掛けた。バレたパースは苦笑いをして誤魔化そうとする。
「全く、君は…。この街の神父を見習ってほしいくらいだね。」
「も、申し訳ありません…。」
「パース神父、貴方が居ないと私達も困ります。ですから、早々に戻って頂けますね?」
「ハッ、勿論です。直ぐにでも準備して参ります。」
「…師匠さん、居なくなっちゃうの…?ヒリト兄ちゃん達も、もうバイバイ…?」
三人の会話を聞いていたユウとセツキは、寂しそうに目を潤ませながら声を掛けた。今にも泣きだしそうなその瞳に、三人は驚いたように慌てた。
「あー、えっと、その…。」
「ま、まぁ、今直ぐにではなくてだな…。」
「ご挨拶もまだですし、取り敢えず、その…もう少しくらいは…。」
「…ほんと?」
彼等の言葉にユウとセツキは目を擦ると、ニコリと笑って嬉しそうに良かった、と呟いた。三人は揃ってふぅ、と小さく息を吐く。ホッとしたような空気の中、神父がユウ達を呼びに来た。
「ユウ、セツキ、パースも。一体、いつまでやっているんだい…?」
「神父様!」
「あー、ごめんね。そのー、ちょっと来客が…。」
「久し振りだね、神父。」
「神父殿、こんばんは。」
「これは神使様方…!直ぐに気付けず、申し訳ありません。」
「いや、気にしなくていいさ。此処まで来る予定ではなかったからな。この馬鹿神父がいつまでも戻って来ないから…。」
「…面目ありません。つい長い事居座ってしまって…。」
ヒリトとカンナに気が付いた神父は慌てて頭を下げた。そんな神父に気にしなくていいと、カンナが声を掛ける。パースは申し訳ないとカンナに謝罪をした。
「宜しければ中へ、外に居たままではゆっくりお話も出来ませんので。」
「うむ、そうだな。」
「僕達、シャワー浴びてくるね!ヒリト兄ちゃん達、居なくなっちゃヤダよ!」
「お師匠さんも、ほら!一緒に行こう!」
「あー、いや、俺は…。」
「構わない、サッサとその汚らしい格好を綺麗にして来い。」
「は、はい…。」
パースの手を握って、二人は教会の中にあるシャワー室へと向かった。残された三人は神父の案内で、教会の中にある一番綺麗な部屋へとやって来た。神父は二人を椅子に座るよう促し、直ぐにお茶を用意してヒリトとカンナの前に差し出す。二人は軽くお礼を言うと出されたお茶を飲んだ。そのまま暫く待つと、身体を洗い流してきたユウ達が戻って来た。
「ただいま、神父様!」
「はい、お帰りなさい。」
「ヒリト兄ちゃん、カンナ姉ちゃん!お待たせしました!」
「ふふふ、二人はいつも元気ですね。」
「本当にな。」
小走りで駆け寄ってくるユウとセツキに、ヒリトとカンナは優しく笑って頭を撫でた。嬉しそうな笑顔で二人は喜び、そのまま話し始める。
「ねぇねぇ、いつ帰っちゃうの?」
「あー、まぁ、こっちの街にも色々あるからなぁ。」
「明日には出ようかと思ってるんですが…。」
「明日…、そっか…。」
その言葉を聞いたユウとセツキは先程の笑顔から一転、寂しそうな顔をしてシュンと項垂れた。その様子に申し訳なさそうにするも、どうしようもないのでごめんね、と一言謝罪するヒリトだった。
「そう言えば、センさ……センとスイはどこに居るんだ?」
「あの二人でしたら、遣いに出しております。」
カンナの問いに、神父は直ぐに答える。それを聞いたカンナは少し考えるように黙った後、そうか、と返事をした。
「明日までには戻ると思うのですが…。」
「…センさんは、よく遣いに出ているのですか?」
「そうですね。この街には居ない事の方が多いです。」
「それは修道女としてどうなんだ?まぁ、以前連れ出したアタシが言うのもなんだけどさ。」
「……あの子は少々特別でして。街の外での奉仕活動の方が合っているのです。」
「フム…。」
ヒリトとカンナは不思議に感じる。本来、修道女と言えば神父と共に教会で日々祈りを捧げ、神に仕えるものだ。教会から離れる事はまず有り得ない立場であり、ヒリト達の教会でも、街の外に出る者は滅多に居ない。
「せめてご挨拶をと、思ったのですが…。」
「昼くらいまで待って、戻ってきたら話をするか。神父、センが戻ってきたら、話があるのだがいいか?」
「はい、勿論です。」
「すまないね、感謝するよ。」
「お姉ちゃんとお兄ちゃんに会えるといいね!」
「ふふ、そうですね。」
ユウの言葉に、ヒリトがニコリと笑って答えた。後ろでセツキがお腹空いた、と小さく言っているのが聞こえると、神父が食事にしましょうかと声を掛ける。はしゃぐユウとセツキは、久し振りにヒリト達とご飯が食べられるのが嬉しいようで、凄く喜んでいた。
食事が終わると、ヒリトとカンナは部屋へと案内された。ユウとセツキはそのまま二人の部屋に留まり、今までの事を楽しそうに話す。そんな様子にヒリト達は微笑んで話を聞いていた。ふと、思い立ったようにユウはヒリトに質問を投げ掛けた。
「ねえ、ヒリトお兄ちゃん。」
「何ですか?」
「神使憑って具体的には何をする人なの?お姉ちゃんや神父様以外の人は、僕に対して何か変な感じで…。お手伝いしてると止められちゃうんだ。何でなのかなぁ?」
お世話になっているのだから手伝うのは当然だといったような顔で、ユウはヒリトに聞く。セツキも同じように不思議に感じているのか、キョトンとした顔でヒリト達を見た。暫く考えた様に黙っていると、ヒリトに代わりカンナがその質問に答えた。
「そもそも、神使って言うのはその名の通り神の使いだってのは理解しているな?アタシ達は数多の神にそれぞれ仕え、言われた命に従う。その命を他者に伝えるのが神使の主な仕事だ。また、以前のアタシ達の様に何か異変が起きれば、それを調査する事もある。」
「だけど、お兄ちゃんは僕達に何も言わないよ?今回も、お姉ちゃんと二人で行っちゃったし…。」
「勿論、神には様々な方々が居る。アタシ達が仕えるアピュールエン様は他の神々よりもこの世界を気にしておられる。故に、アタシ達は色々とやる事が多いのさ。」
「神使って、本当は沢山やる事があるんだな。けど、普通のお手伝いは何でしちゃいけないんだ?」
セツキの言葉に、カンナは続けて話した。
「神様って言うのはアタシ等にとっても、他の奴等にとっても崇められる最上位の存在なのさ。鬼にも位があるのと同じ様なもんさ。そんな神様に仕えられるのはほんの一握りだけ。つまり、必然的に神使も崇められる対象になるって事さ。」
「つまり、自分達よりも上の位の相手に小さな仕事は任せていたらお叱りを受けるのでは、って考えているんだ。神使にしか出来ない仕事があるのに、誰でも出来る仕事をさせられないって事だよ。」
「んー…、でも、僕達他に何にもしてないし…。どうしたらいいんだろう…?」
「此処の神父が許しているのなら、お前達は気にする事は無いさ。何か言われたらその仕事は任せて、他の事をすればいい。それだけだよ。」
「俺達にしか出来ない仕事って何だろう…。兄ちゃんは迫害されない様にって神使にしてくれただけだしなぁ…。」
うんうんと悩みだすユウとセツキを見、二人も考え込んだ。スイは神の中でも最上位に位置する四神一人であり、その在り方を知らない訳ではないはずだ。それが何故かは知らないが、一人の少女の憑物として、神がこの地へと降りてきている。普通ならば考えられない事ではあるが、以前に神憑きを騙った奴が居たように、全く降りてこない訳ではないのが神だ。きっと何かしらの理由があるのだろうとは思っているが、それを決して言葉には出さなかった。
「戻ってきたら聞いてみればいいさ。今は何も無くとも、いつか有事があった際には一番にお前達が動けばいい。」
「…そっか、そうだな!帰ってきたら聞いてみるよ!」
「えへへ、早く帰ってこないかなぁ。ヒリトお兄ちゃん達も、お姉ちゃん達に会えるといいね!」」
「そうだな…。ヒリトも会いたくてしょうがないだろうしな。」
「なっ、カンナ、一体何を…!」
「違わないだろう?」
「そ、それはそうだけども…。」
照れたようにどもりながらボソボソと喋るヒリトをカンナはニヤニヤと笑い、ユウとセツキは不思議そうな顔で見ていた。その後も色んな話をしていたが、夜も遅くなってきた所で神父が声を掛けてきた。呼ばれたユウとセツキは、彼等に手を振ってお休みなさい、と言葉を残して自分達の部屋へと戻っていく。
次の日、帰る支度を済ませた三人は教会のとある部屋でゆっくりとしていた。昼頃には出発しようと朝の内にやる事を終わらせた彼等は、センとスイが帰ってこないかと、部屋の中で他愛ない話をしながら待っていた。太陽が天辺を過ぎて幾らか経った頃、部屋の扉がノックされた。
「神父様、只今戻りました。」
「お姉ちゃんの声だ!」
一番最初に声を上げたのはユウで、直ぐにセツキと二人で扉の方へ走っていった。扉を開ければ、荷物を背負ったままのセンと、その首元に巻き付いているスイが居た。そのままセン達を中に招き入れると、部屋からお帰りなさい、と幾つもの声が掛かる。その中心に居る人物を見て、センは驚いた様な顔をして声を出した。
「ヒリト様!カンナ様!お久し振りでございます。」
「お久し振りです、セン…さん。」
「元気そうで良かった。」
二人に声を掛けたセンはニコニコと笑いながら近付く。
「お二方共、どうかなされたのですか?」
「アタシ達んとこの神父を連れ戻しに来たのさ。」
「中々帰ってこないので、何かあったのではと…。」
「パース様、ヒリト様とカンナ様の居られる街の神父様だったのですか。」
「俺からしたら、センちゃんが二人と知り合いだったってのに驚いたよ。不思議な縁もあるもんだねー。」
「ふふ、そうですね。」
楽しそうに笑う彼等だが、そんな中スイがピクリと何かを感じ取ったような素振りを見せた。そのままスイはセンの首元から背負っていた荷物の中へと姿を隠すと、どうかしたのかとセンが声を掛ける。スイは一言、疲れたというだけだった。それを聞いたセンはそれなら…と言葉を続けようとしたが、急に一瞬だけ、部屋が燃えてるように熱くなると、カンナが倒れヒリトが跪く。その後直ぐに神父とパースもヒリトの様に跪き、その様子に驚きセンはそちらへとを目をやり、ユウとセツキはその後ろに隠れた。
「…ヒリト、息災であるか。」
「はっ、アピュールエン様。皆共に穏やかに過ごしております。」
「そうか。さて、いつもと場所は違うが構わないか。」
カンナへと憑依したアピュールエンの言葉に、ヒリトはチラリと神父の方を見た。それに気付いた神父は、頭を下げたまま言葉を紡ぐ。
「此処はケサニーの街の教会でございます。レーシャの街から北東に数日程度の距離にある場所です。」
「ふむ、そうか。教会ならば問題なかろう。このまま神託を伝えよ。」
「はい、アピュールエン様。」
「これよりカンナ、並びにヒリト。お前達二人は西へと進み、盗賊の討伐へと向かえ。」
「盗賊、ですか…?」
「うむ。神物ばかりを狙う賊が西の方で出没している。それらを討伐し、盗まれた物を取り返してくるのだ。」
その言葉を聞いたヒリトは直ぐに返事を返した。
「神託、確かにお受け致しました。この命に代えても必ずや果たしてみせます。」
「良き働きを期待している。それでは…。」
ヒリトの言葉を聞いたアピュールエンはそのまま離れようとしたが、驚いて立ったままのセン達の方を見ると、その動きを止めた。見られた事に気付いたセンは慌てて跪き、その後ろに居たユウ達もセンの真似をする。そんな三人の方に近付いて、不思議そうに声を掛けた。
「そこの小さき神使よ。そなた等は、まさかスイの…いや、ヴィズフォンスイの神使か?」
「あの、えっと、うん…。」
「カンナ姉ちゃんじゃない、よな…。誰…?」
「……我を知らぬか…。いや、まあ、それは良い。アイツは今どこに居るのだ?急に消えたと思えば、いつの間に神使なんて…。」
「それは、その…。」
何て言えばいいのか分からず、ユウとセツキの二人は口籠ってしまう。その様子にアピュールエンは一つ息を吐くと、もう良い、と口にした。怒られたのかと思ったのか、二人はごめんなさい、と目を潤ませながら言った。
「いや、お主等はまだ小さい。よく知らぬのも仕方のない事よ。問い詰めて悪かったな。…アイツに会ったら、一度戻ってこいと伝えよ。」
「うん、分かったよ。」
「ゆ、ユウ君…!」
神に対して、軽い言葉で返事をしたユウを止めるようにヒリトが声を掛けるが、アピュールエンは特に咎める事もなく、構わぬ、とヒリトに向かっていった。
「それではヒリト、先程の話、頼んだぞ。我はこれで戻る。」
「はい、アピュールエン様。直ぐに出発いたします。」
「うむ。」
再び、一瞬だけ部屋が熱くなると、カンナがふわりと浮かび、ゆっくりとそのまま床へと倒れた。直ぐにヒリトが近付いて、声を掛ける。
「カンナ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。主様は何と仰っていた?」
ヒリトは先程の内容をカンナに伝えると、ふらつく体を無理やり起こして街を出ようとする。その姿を見た神父は、旅に役立つものを持ってくるので少し待つように言う。多少の準備は必要だと思ったのか、二人はその言葉に甘え席へと座った。
「直ぐに戻ります、少々お待ち下さい。」
「すまない、助かるよ。」
神父は一人、その部屋を出て行った。座ったカンナの傍に、セン達が近付いた。
「カンナ様、お身体は大丈夫ですか?」
「問題ない。パース、お前は街に戻って、神託やアタシ達の事を伝えるんだ。」
「はっ、かしこまりました。」
「カンナお姉ちゃん、さっきのは、何…?」
カンナの命を受けたパースは直ぐに帰る支度をする為に部屋を出る。普段のカンナに戻った事にホッとしたのか、ユウとセツキは先程の出来事を聞く。
「アレは、神の降臨だ。本来、神はこの地より遥か遠くに居られるのだが、神使の身体や神物に憑依する事で此方へと現れる。先程のは、アタシの主様であるアピュールエン様がこの身体に降りてきていたのだ。」
「えっ、さっきの神様だったの!?」
「何かカンナ姉ちゃんじゃないのは分かったけど、あれが神様かぁ…。お兄ちゃんと全然違うんだね。」
「私も、スイ様以外の神様を見たのは、初めてです。」
アピュールエンが戻り、話を振られた事で、スイが荷物から姿を現した。
「今の私は、神としているわけではないからな。アイツのように気を配る必要がない。」
「そうなんだー。あ、神様だったら、もっとちゃんとした言葉で話さなきゃいけなかったのかな…?」
「…そうですね、出来ればもう少し丁寧な言葉で話すべきでした。」
「神様、怒っちゃったかな?…。」
「その程度で腹を立てるような奴ではない、気にするな。」
ヒリトの注意にユウとセツキはどうしよう、と悩んでいたが、スイが気にする事は無いというので小さく息を吐きホッとしていた。暫く話をしていると、神父がパースと共に部屋へと戻って来た。
「お待たせ致しました。此方は幾何かの教会からの寄付でございます。」
「すみません、ありがとうございます。」
「お二方の荷物もまとめて参りました。直ぐにでも出られます。」
「ならば、今すぐにでも…。」
「お待ち下さい。」
荷物を背負い、今にも出発しようとした三人を神父は止めた。声を掛けられた三人は、どうしたのかと思い神父の方を見る。
「セン、それとユウ、セツキ。貴方達も同行して下さい。」
「えっと、それは…。」
「神物が狙われているとなれば、私達にも関係があります。早期解決を望むのであれば、人手はあった方が良いでしょう。」
「はい、神父様。ヒリト様、カンナ様。どうか私達にもお手伝いさせて頂けないでしょうか?」
「ぼ、僕達も!前よりは役に立てる筈だよ!」
「師匠に、色々教えてもらったから!それに、またヒリト兄ちゃん達といれるのは嬉しい!」
「…ですが、それは…。」
「スイ殿、三人の事、頼みましたよ。」
「構わぬ。センが望むならそうしよう。」
「……そうか、ならば、仕方ない…。宜しく頼むよ。」
スイにそう言われてしまうとヒリトとカンナは反対する事が出来ず、そのまま了承した。断る理由も必要もないのに、何故そこまでの拒否反応が出るのか、パースは分からずにいた。
「セン達の荷物もまとめておきました。これを持って、神使様方と共に行きなさい。」
「はい、神父様。行ってまいります。」
「行ってきまーす!」
「無茶はしないように。ヒリト様、カンナ様。どうか、お気を付け下さい。」
「…あぁ、行ってくるよ…。」
元気に手を振るユウとセツキに、神父は穏やかな顔で微笑んで手を振り返した。セン達が一緒な事に納得しきれないヒリトとカンナは、少し困ったような返事をする。勿論神父の言う事は正しいのだが、まさか神様であるスイに手伝わせるなんて、神使である彼等は素直にその提案を受け取る事が出来ないのだ。
「(…実際人手があった方が助かるが…流石にヴィズフォンスイ様に手伝ってもらうのは気が引けてしまう…。まぁ、セン様が居た方がヒリトのやる気にもなるし…、此処は割り切るしかないな。)」
「えっと、その、本当にいいんですか?センさん、帰って来たばかりですし…。」
「大丈夫です、ヒリト様。よくある事ですから、お気になさらず。」
「センもこう言ってるもんだし、気にすんなよ、ヒリト。それよりもほら、さっさと出発しよう。」
「か、カンナ…!…そうだね、早くいかないと、だね。」
ヒリトはカンナの言う通り早く出発した方が良いと、自分を無理やり納得させた。また皆で居られるのが嬉しいユウとセツキは、ずっとニコニコとしたまま。二人はセンの両手を捕まえて、まだかなまだかな、とワクワクとした表情だ。心を決めたヒリトは行きましょうか、と声を掛けて皆の前を歩き始める。元気よくはーい、と返事をしたユウとセツキに引っ張られて、センも歩き出した。
「まずはこのまま西に行こう。途中に村や街が幾つかあるから、補給と情報収集しながら進むんだ。」
「頂いた物にも限りがありますからね。節約しながら進まないといけませんね。」
「また色んなものが見れるね、セツキ!」
「楽しみだな、ユウ!」
ワイワイと話し合うユウとセツキに、センは軽く微笑んでから話しか掛けた。
「お二人共、遊びに行くのではないのですから、程々にですよ。」
「えへへ、はーい!」
注意されながらも楽しげな声に、ヒリトはつい一緒に微笑んでしまう。そんな様子を見たカンナは呆れた様に息を一つ吐く。これから神託を達成する為の旅に出るというのに、なんと緊張感の無い事か。カンナはそんな事を考えつつも、ヒリトが笑っているならそれも良いかと、心の中でそっと思う。
こうして彼等は、再び共に旅を始めたのだった。アピュールエンの命の下、盗賊を討伐する為に。