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記憶の海  作者: 薮野真崎
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目覚め

 目覚めは決して気持ちの良いものではなかった。意識がはっきりするのと並行して、頭痛が押し寄せてくる。


「痛ってぇ……」


 少年、祐也は痛みと太陽の眩しさに目を細めながら起き上がった。そして自分が外に寝そべっていたことに気付く。

 どうして外で寝ていたのか。いつもだったら。いつもだったら。


「あれ……?」


 いつもだったらどうだったのだろうか。その問いに祐也は答えを出すことができなかった。目が覚める前のことを何も思い出せないのだ。どうしてここに寝ているのか、寝る前は何をしていたのか、そもそも一体自分はどこから来て、一体ここはどこなのか。

 焦りとともに、頭が空回りし始めているのを感じ、祐也は頭に手を当てた。それと同時に髪の毛が固まっていることが分かった。それが血であることもすぐに理解した。

 どうやら記憶喪失になってしまったらしい。頭から出血していることから推測するに、この頭へのダメージが脳に何らかの影響を及ぼしたのかもしれない。頭を打って記憶喪失だなんて、何だそのアニメみたいな展開は。ちっとも笑えない。


 何かしらの情報を集めなければならない。祐也はふらふらと立ち上がり、周囲を見渡した。そしてすぐに自分のいる場所が、「壁」の近くだと分かった。


 この大陸は中心に大きく穴が開いている。その穴は海だと聞いているが、実際のところはどうなっているかわからない。何故ならば遥か昔から、その穴は高い高い「壁」によって囲われ、中の様子を見ることは叶わないからだ。

 「壁」と呼んでいるそれも、果たして「壁」が正式名称かどうかもわからない。そのくらい昔からそれは存在しているのだ。


 祐也は目の前に広がる巨大な「壁」を見つつ、少し安心した。どうやら基本的な知識などは抜け落ちてはいないらしい。

 祐也はゆっくりと「壁」に向かって歩き出した。その巨大な姿はとても視界に全貌を収めることはできない。近付くことによって、祐也は水の流れる音に気付いた。そちらに目をやると、「壁」から流れ出る川に気が付いた。川には簡素な船着き場が設けられている。

 「壁」の中と行き来する船など、存在するのだろうか。そんなこと記憶にはない。もちろん、記憶を失ったせいだとすればそれまでだが。少なくとも政府などの上位の人々が使う場所なのだろう。

 川の透明な水で頭をすすぎ、顔を上げて、祐也は「壁」に扉がついていることに気付く。それは川の上にあり、おそらく船で「壁」の中に出入りする時に、そこを開いて通行できるようにするのだろう。


 祐也は扉に手を伸ばす。もちろん、開くはずがないとわかっていたが、何せ記憶を無くしてしまった今、何かをしていないと落ち着かない。


 しかし、扉は驚くほど簡単に、呆気なく開いてしまった。


「えっ……どうすんだよこれ」


 思わず声が出た。遥か昔から守られてきたはずの秘密が、こんな簡単に解明できていいのか?

 胸が高鳴るのを感じながら、中を覗くと、噂通り、そこは海のようだった。川に流れ出ていた水と同じ、透明度の高い水は空を美しく反射し、今まで見てきた景色の何よりも美しいと思った。もちろん、比較する記憶などないのだが。


 祐也はその美しい景色に吸い寄せられるように、船を「壁」へと漕ぎ出した。

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