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二、いただきます。

これでも、書こうと思ってるのは、サイコホラーなんです…。

やっぱり、難しい…。などと思いつつ、二話目です。


楽しんで読んでいただけたら幸いです!

「お兄さん。気持ち悪いなら、そこの布団で寝てていいよ。」

子供は、夏向かなたは僕に抱き着いたままそう言った。

「…え?」

「僕、まだこれからこれを解体するから、見てられないなら向こうの部屋に行ってて。」

邪魔にもなるし。

そう言って、夏向は僕から離れると、僕の手を引っ張った。

僕は引かれるままに、なんとか立ち上がって夏向に付いていく。

「はい。ここに居て。」

「…分かった。…ありがとう…。」

「どういたしまして。」

そう短くやり取りをすると、僕は布団にうつ伏せになって潜り込み、夏向は『仕事部屋』へと戻って行った。

パタン。とドアが閉まる音がすると、すぐに何の音も無くなる。

シン…。と部屋が静まり返る。

ー…気持ち悪い。

僕は、静かな部屋の中で、荒く息を吸って吐いた。

人の死体が切り開かれていくのを見てしまった。

滴る血、覗く赤ともピンクとも取れる何か、それから、

ーあぁ、ダメだダメだ!!考えちゃダメだ!余計気持ち悪くなる…。

僕は、ブランケットを頭まで引き上げた。

優しい柔軟剤の匂いが気分を落ち着けてくれる。

が、気持ち悪さは依然として残っている。

「………」

気分がある程度落ち着いた時点で、僕はもう一度考えた。

ーなんで、あれが人の死体だって分かったんだろう?

見たこと無いはずなのに。

ーなんで、見たことあるなんて思ったんだろう?

見たこと無い…はずだよな?

ズキン…と頭が痛んだ。

ーダメだ。寝よう…。

僕は、気持ち悪さと頭痛から逃げるように、音を瞑った。


バダンッ。

その音で、僕は自分が眠っていたことに気が付いた。

ハッとして起き上がると、気持ち悪さも、頭痛も取れていた。

そして、

「…お絞り…?」

パサッ。とブランケットに落ちたのは濡れたタオルだった。

「あれ?起こしましたか?」

ガチャッ。と洗面台の方の扉が開いて、中から夏向が顔を出した。

首からはバスタオルが掛かっていて、手には桶が抱えられていた。

「お風呂?」

「はい。さっき出ました。流石に、血濡れのままではと思いまして。」

そう言って、僕に近寄ってきた。

「このタオル、君が?」

「はい。途中でちょっと覗いたら、苦しそうだったので。」

僕、これくらいしか思いつかなくって。

そう言って夏向は頬を掻いた。

「いや。…ありがとう。」

僕は、そう言って笑った。

それから、マジマジと夏向を見た。

無邪気そうに笑う顔は、先程のように怖さは感じなかった。

「…ねぇ、話を聞かせてくれないか?」

だから、僕はそう訊いた。

「はい。いいですよ。…というか、何を貴方が訊きたいかは、なんとなく分かるので、もう答えますね。」

そえ夏向は返してきた。

「まず、あの死体と、僕について、」

夏向は、こっちに来てください。と僕の手を引っ張った。

「えっ?ちょっ、」

僕は、また手を引かれるがまま、しかし、多分あの部屋へ連れていかれるのだと思い身構えた。

しかし、

「…片付いてる…。」

「はい。仕事は終わりましたので。」

部屋は綺麗に片付いていた。

死体が乗っていた台も、元の色だろう白だった。

「まぁ、部屋を見せたい訳では無いんですけどね。」

夏向は、部屋の隅に置いてある冷蔵庫を開けた。

「っ!!」

僕は、ようやく落ち着いた吐き気にまた襲われかけた。

なんとか、気力で持ち堪えて、冷蔵庫の中身を見た。

「これは、さっきの死体の肉です。内蔵は洗わないとならないので、お風呂の方に置いてありますけど、肉は直ぐに冷蔵庫に入れてるんです。」

まぁ、時期じきに冷凍庫へ入れ替えますけど。

冷蔵庫の中身は肉だった。

綺麗にさばかれた肉。

夏向の言うことが正しいのなら、信じるのなら、人の肉だ。

「…君が?」

僕はそう訊く事しか出来なかった。

夏向は笑ってそうです。と答えた。

ーあぁ、この笑顔は怖い。

僕は、足元に冷気を感じた。

それが冷蔵庫の冷気なのか、それとも血の気が引いたせいなのかは分からなかい。

「あ、大丈夫です。僕は、」

夏向は笑って言った。

「僕は、『食べていいよ。』って言われた人の、死体しか食べないから。」

そう言って笑った夏向の顔は、子供らしくて可愛い顔のはずなのに。

「…っ!!」

僕には恐ろしくて仕方なかった。

「改めまして。僕は人間を専門に、肉を捌く仕事をしています。夏向です。」

お兄さんは?と訊かれる。

「僕は…、」

吐き気を飲み込むために、ゴクリ。と唾を飲み込んだ。

「僕は理人りひと。隣の、二〇三号室の人間だ。」

よろしく。

僕は、震える手を、なんとか差し出した。

よろしく。

夏向はそれに気づいているのかいないのか、手を握り返してきた。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「…理人君、何かあったの?」

夏向という子供と出会った翌日。

僕は、色々と考えてしまって、なかなか寝付けなかった。

そのせいで、酷い顔でもしていたのだろう。

講義がたまたま重なった紗加すずかさんに、指摘されてしまった。

ー恥ずかしい。

それから、

ー心配させてしまった。

と僕の中で二つの感情が生まれた。

「あぁ、ちょっと寝不足で…レポートが終わらなかったもんでさぁ。」

嘘ではないが、言い訳だ。

確かに寝付けなかったから、まだ期限のあるレポートに手を付けていたのは事実だ。

「そう?…なら、いいけど。…無理は禁物だよ?」

「うん。ありがとう。」

紗加さんはそう言ってくれた。

本当に良い人だ。

「…あの、」

ピーンポーンパーン…

紗加さんが何かを言いかけた時、校内放送が流れた。

『生徒の呼び出しをします。外崎とざきさん。外崎理人さん。至急、事務室までいらしてください。繰り返します。…』

「え?」

「理人君?」

何かしただろうか。

紗加さんも何をしたの?という目で見てくる。

「…取り敢えず、行ってきます。」

「はい。行ってらっしゃい。」

僕は、紗加さんと別れた。

「あ、やっぱり待って。」

と、紗加さんに止められた。

「?どうかしましたか?」

僕は振り返った。

「あ、あの…」

紗加さんは一度俯いてから、

「今度一緒に食事でもどうですか?」

「!」

そう言ってきた。

ーえっ!?何、デートのお誘い!?

なんて、僕は舞い上がってしまった。

「よ、良ければですけど…、」

そう言い淀む紗加さんに、

「そ、そんな!ぜひとも!」

僕はそう言った。

「そうですか。…よかった。」

紗加さんは嬉しそうに微笑んだ。

僕も、微笑んで、また今度話しましょう。と言って紗加さんに手を振った。

「はい。また今度。」

紗加さんも手を振り返してくれた。

そして、僕は事務室へと急いで走り出した。

「また…今度…」

後ろで、紗加さんが振っていた手を胸に当てて、握り締めた。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「す、すみません!遅く」

「やぁ、お兄さん。来ちゃった。」

事務室に入ると直ぐに目に入ったのは、ソファに座った夏向と、その前に出されたジュースだった。

「ごめんなさいね。いきなり呼び出しちゃったりして、この子、弟さんらしいですね。お迎えだそうですよ?」

可愛いですねぇ…。と事務室の若い女性がクスクスと微笑ましそうに笑った。

「あ、あぁ…。すみません、うちの弟が。僕、授業もう無いんで、連れて帰ります。」

「え?もっとゆっくりしてってくれても」

「いえ、急ぎの用事が今日はあるんで。」

事務の人の言葉を遮って、僕はそう告げると、夏向の手を引いた。

「迎えありがとうな。帰るぞ、夏向。」

事務の人にも、ありがとうございました。と言って事務室を後にする。

夏向も、バイバーイ。などと言いながら手を振っていた。

女性は、扉から顔を出してしばらく手を振っていた。

「…で?説明してくれ。どうしてここに僕がいると分かった。それからなんでここにわざわざ来た。んで、なんで君が僕の弟って事になっているんだ?」

本当に講義はもう無かったので、僕は夏向を連れて大学を出て、近くの、平日故人気ひとけのあまりない小さな公園に来た。

「そんなに一気に質問しないでよ、お兄さん。僕、案外馬鹿だから、そんな沢山の質問、処理しきれないよ。」

ベンチに座って、足をブラブラさせながらそう言って、夏向は笑った。

「えぇっと?まずは、どうして分かったか?だっけ?それはね、昨日捌いたお肉を、注文してきた人に届けに行ってた時に見かけたからだね。」

「は?今日は平日だぞ?学校は?」

僕は、そう訊いた。

「?僕は、学校通ってないんだ。」

「は?」

「だって、人しか食べられないから。」

「!!」

夏向は、全て、当たり前だ。というように答えた。

「…で、大家に注文してきた人の所に送って貰ってる時にお兄さんを見つけて、あぁ、ここなんだ。って思ってきた。」

「………」

「そしたら、大家が弟って事にすれば入れると思うよって言ってたから、弟です。って言ったら本当に入れた。」

「………」

あれじゃあ、殺人鬼も簡単に入れちゃうね。などと言って笑う夏向に、僕は始終無言だった。

簡単に、サラッと流されてしまったが、先程の言葉が僕の中でグルグルと回っていたからだ。

ー学校通ってないんだ。だって、人しか食べられないから。

そう当然のように言った夏向の顔が影法師のように目の前から消えない。

「お前は、…」

「え?何?」

夏向が僕を見た。

僕は、その真っ直ぐな瞳に、一瞬だけ躊躇ためらってから口を開いた。

「夏向は、どうして人しか食べられないんだ?」

ピタリ。

夏向が動きを止めた。

表情から笑顔は消えて、足の動きも止めた。

「なんで、そんなこときくの?」

ーなんで…?

そう言ってベンチから降りた夏向に、僕は何も答えられなかった。

「お兄さんには分かんないでしょ?おんなじ人間しか食べれない人間の気持ちなんて。」

怒るわけではなく、悲しそうな顔をするわけでもなく。

ただただ、まぁ、それが当たり前だよね。とでも言うように、夏向かなたは言った。

「………」

僕はただただ、黙っているしかなかった。

「………」

夏向も、黙る。そして、しばらくして、口を開いた。

「世の中にはね、一定数居るんだよ。そういう、社会から最初はじめからズレてる人が。」

僕も、その一人だったんだ。

夏向は、空を見上げた。

僕も、釣られて空を見上げた。

綺麗な蒼い空だった。

「僕はね、一度も、学校って所に行ったことがないんだ。きっと、これからも行かない。」

僕は、夏向を見た。

夏向はまだ空を見上げたままだ。

「でも、それでいいんだ。」

ようやく、夏向が僕を見た。

その顔には、笑顔が戻っていた。

「勉強なら、大家が教えてくれるし、お肉を捌いて売れば、生活にも困らない。世の中の『普通の人』は、僕らみたいな人達を一概に『悪人』って言うけど、僕の周りの人達は少なくとも、『良い人』だし。」

例えば、あのハイツの人達とかね。

その夏向の言葉に、確かに。と思った。

ー確かに、あそこに居る人達は、みんな優しい。

今まで見てきた『普通の人』よりはるかに優しくて、暖かかった。

「「………」」

僕達は、互いに目を合わせたまま黙った。

「…あの人にも、」

「?」

「あの人にも、家族は居たんだろう?」

あの人、つまり、あの死体の人。

この質問は、正直、言った自分でも酷いものだと思った。

ーあぁ、しまった。酷い事を言ってしまった。

そう思って、夏向を見るが、夏向は笑ったまま、

「そうだね。いただろうね。でも、それは他の動物だっておんなじでしょ?だから、みんな言うんじゃないか。」

夏向は両手を合わせて、

「いただきます。…って。」

そう言った。

「…そうだな。」

その通りだ。

僕はそれ以上は、何も言えなかった。

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