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 夢の始まり

ファッションストリート


 その日はいつも通りの慌てただしい日常の春の日だった

 「おじいちゃん、なんでもっと早く起こしてくれないの。」

  美月は慌てて起きた。

 「起こしたのに美月が起きないのが悪いだろ」

  おじいちゃんはそう言うと用事をしに行った。

 「もう時間ないから朝ご飯を食べないで学校にいくから」

  美月は急いで学校に向かった。


 でも高校に向かう途中の路地にスーツを着た男たちがいた。内心は路地を通りなくはなかったが高校に向かうにはここを行くしかないのだ。

意を決して行こうとした時だった。男たちが近づいてきた。

 「小野美月さんですか?」

  サングラスした男性の集団が声をかけて肩を叩いた。

 「そうですけど何か?」

  美月はむっとして言った。

 「ちょっと話があるから私たちについてください」

  男たちは強引に美月の手を引っ張った。

 「何するのですか?離してよ」

  美月は必死に抵抗した。その時だった男たちはポケットからハンカチを取り出して美月に嗅がせた。美月は気を失った。

  

  しばらくすると美月は目を覚ました。

  そして美月の目の前にセレブ風な老婆が立っていた。

 「あなたは誰ですか?家にかえしてください」

  美月は困惑した表情で言った。

 「ダメよ。まだあなたを家に帰さないわよ」

  その老婆はジロジロと見てきた。

 「なぜですか?」

  美月はその老婆に負けないように視線を合わせた。

 「実はあなたにはここファションブランドナカタニを継いで欲しいのよ」

  美月は驚きを隠せない。なぜならナカタニは年間9000億円超える売り上げるアパレルで世界中の誰でも知っているからだ。

 「なぜですか?見ず知らずの高校生にあなたの会社を継がせるなんてそんな馬鹿げた話を聞いたことがありません」

  美月は不信に思っていた。

 「あなたは私の孫だからなのよ」

  その老婆の視線が痛いほどに突き刺さていた。

 「そんなの嘘です。私の家族はお母さんとおじいちゃんだけです。お母さんは死んだけどあなたの事なんて一言も聞いたこともないです」

  美月はまだ半信半疑だった。

 「そんなの当たり前でしょ。私が口止めしたんだから」

  その老婆が平然と言いのけた。

 「なんでそんなことするんですか?」

  美月はあいた口が塞がらなかった。

 「もともと私の息子とお母さんは専門学校の同級生だった。いつしか二人は恋人同士になってお母さんはあなたを身ごもったのよ。でも、二人の関係を認めなかった。それに息子には婚約者がいて二人は別れることなった」

  老婆がそこに立ちはだかてるように話した。

 「なんで今更そんな話をするんですか?」

  美月は耳を疑いながら老婆に聞いた。

 「あなた、知らない?半年前に私の息子、中谷総一郎は死んだわ。そこでファションブランドナカタニの後継者になって欲しいのよ」

  老婆が言い放った。

  美月は困惑しながら考え、半年前のニュースになっていた事を思い出した。

 その当時は日本中でナカタニの後継者が飛行機事故で死亡したってビックニュースになっていたのにその事を聞くとおじいちゃんがなぜか不機嫌になっていた。美月は不思議に思っていたがそれと同時になんか絶対あるなと思っていたがまさかこんな話があったとは思いもよらなかった。

 

 「そんな話を今更するなんてむしが良すぎませんか?どんな思いで私たちが今まで暮らしてきたかわかんないでしょ」

  美月は声を張り上げた。 

 「確かにむしのいい話ね。でも、男手ひとつで育ててくれたおじいさんにとっても、あなたにとってもいい話だとは思わない?」

  老婆が優しく美月を見つめながら話をした。

 「でも私、ファッションなんて詳しくないです」

  美月が不安そうに答えた。

 「大丈夫よ。あなたには生まれ持っている才能があるじゃないの?」

 「なんであなたにそんな事を言えるんですか?」

  美月はちんぷんかんぷんだった。

 「だってお母さんの小野ひかりはファッション界に現れた100年に1度の逸材だったわ」

 「お母さんがそうだからといって娘の私がそうだとは限んないですよね」

  美月は困惑してどうしたらいいのかわかんなかった。

 「あなたにも才能あるわ。だって毎日同じ服を違う風にコーディネートをして着まわしてるじゃないの?デザイナーになる素質あるわ」

  老婆が鋭く指摘した。

 「確かに着まわしをしてますけどファッションの勉強なんてした事ありませんよ。とにかく出来ません」

  美月は服の着まわしが好きだった。

 でもデザイナーなんて自分とはかけ離れていると思った。

 「私に考えがあるわ。あなたは専門学校に転入して寮に入って勉強しなさい」

   老婆が提案をした。

 「なんでいきなりですか?それにおじいちゃんに聞いてみないと分かんないです」

  美月は答えを出すのを渋った。

 「じゃあ、一週間までに答えを出して」

  老婆がきつく言い聞かせた。

 「わかりました」

  美月は渋々言ってもう帰ろうとする時だった

 「あなたは絶対この仕事が好きになる」

  老婆が何かの暗示をかけるみたいに言った。


  美月は悩んだが結局答えが出なかったがそうする内に家に着いた。

でも、無言のまま玄関に立っていたままだった。しばらくするとおじいちゃんが気づいた。

 「お前、今日は帰るの早くないか?」

  おじいちゃんが不思議そうに美月の方を見つめた。

  美月は今日あったことすべておじいちゃんに話した。

 「本当にそうなの?」

  美月はおじいちゃんに問い詰めた。

 「そうなんじゃ。昔お前のお母さんと中谷さんは付き合っていてその時に生まれた子が美月だ。今まで秘密にしていてごめんな」

  おじいちゃんは今までにないぐらい神妙だった。

 「なんでおじいちゃんまで黙っていたの?そんなのおかしいよ」

  美月はなんだか訳がわかんなかった。

 「実を言うとひかりは総一郎さんにもお前の事を言ってはいなかった。

でも、決してお前の事を隠しておきたい訳ではなかった。

ただ、ひかりは総一郎さんの身を案じていた。

いずれ彼はブランドナカタニを継ぐ事が分かっていて付き合ってひかりはお前を妊娠したんじゃ。その当時、総一郎さんには婚約者がいてひかりは悩んだ末にファッションに関することは辞めてお前を産んだんじゃ」

 おじいちゃんは事実をありのままに伝えた。

 美月は衝撃のあまりに絶句した。

「美月はどうしたいんじゃ。デザイナーになってブランドを継ぎたいのか?」

 おじいちゃんは優しく美月の本音を聞いた。

「そんなの話が大きすぎてわかんないよ」

 美月には悩んでも悩んでも答えが出なかった。

 「これはひかりがもし美月に何があったら渡してってくれた物じゃ。

あとで読んでみなさい」

 おじいちゃんは手紙をくれて去っていた。



  美月へ

  この手紙を読んでいるってゆう事はもう全て知ってるいんだよね。  

  今まで隠していてごめんなさい。

  でもお母さんは美月産んだことは後悔してません。

  美月も今好きな事があるならどんなに辛いことがあっても前を向いてやり遂げなさい。もし壁に当たったらその壁を壊して欲しいの。

  それでもダメなら諦めてもいい。

  でもそれまでは全力でやりなさい。

  お母さんも全力でやったから美月に出会えたんだよ。

  

   美月はこの手紙を読んで気持ちが晴れてある決意をした。

  「おじいちゃん、ちょっといい?」

   美月はこの気持ちを伝えに部屋まで行った。

  「なんじゃい?もう答えは決まったのか?」

   おじいちゃんは優しい眼差しで見ていた。

  「うん。やってみたくなったしお母さんが見ていた景色を見たいんだ」

   美月は意気揚々と話した。

  「じゃあやってみるのじゃ」

   おじいちゃんは全てを包み込むかのように言った。

  「反対しないの?」

  美月が聞き辛そうに言った。

  「そういうふうに言うの分かっておったわい」

   おじいちゃんの目からうっすら涙が光っていた。

 「おじいちゃん、心配しないで。何かあれば家に戻ってくるから」

  美月はおじいちゃんを励ました。

 「いいや。成功するまで何があっても帰ってくるな」

  美月を外まで見送った。美月は無言で立ち尽くした。

  おじいちゃんは何も言わずに家に入った。

  美月は空を見上げてお母さんの言葉を思い出していた。

  『洋服にはいろんな人を笑顔にする魔法があるんだよ』

  そんなことを思い出しているともうすっかり朝だった。

  美月は迷わずあの老婆のところへ向かった。

   家の前までやって来たが家があまりにも大きすぎて圧倒された。

   なぜなら昨日は気が動転していてよく見ていなかったのだ。

   圧倒されていると家の中からメイドが出てきた。

  「社長がお部屋でお待ちになっています」

   美月はなぜこんなに早く人が出てくるのかと思った。

   でも美月はここから先は後ろを振り向かないと決めていた。

   メイドに部屋に案内されてしばらくするとあの老婆が来た。

  「よく来たわね。待っていたわ」

   老婆が不敵な笑み浮かべた。

  「決めました。言うとおり専門学校に行きます。その代わりにおじいちゃんにも援助してください。おじいちゃんは体が弱いのに育ててくれて今回のことだって何にも言わずに送り出してくれたんです。お願いします」

  美月は老婆に訴えかけた。

 「それじゃあちゃんと卒業してナカタニに入ってもらうわよ」

  老婆は交換条件を出した。

 「わかりました。飲みますからちゃんとおじいちゃんの事をお願いします」

  美月は頼みごとを念押した。

 「わかったわよ。じゃああなたには今日から専門学校に行って寮に入ってもらうわよ」

  老婆がきつく言い聞かせた。

 「今日からですか?でも、転校手続きとかいいんですか?」

  美月は突然のことに驚いた。

 「もうしてあるわよ」

  老婆が当然のごとく言った。

 「もし行かなかったらどうしたんですか?」

  美月は不自然だと思った。

 「あなたが小野ひかりの娘だからよ」

  老婆が平然と言った。 

 「どうしてそんなにお母さんを信頼しているなら結婚は許さなかったんですか?許してあげてもよかったのに」

  美月は疑問をぶつけた。

 「そんなことなぜあなたに言わないといけないのよ」

  老婆はピシャリと言った。美月は何も言えずに黙っていると老婆がそんな空気を打ち消すように話しかけてきた。

「じゃあ向こうについたら校長を尋ねなさい。それと学校までは家の車に案内させるわ。それじゃあ忙しいから先に行くわね」

 老婆が美月に何も言わせずそのまま出て行った。 美月が戸惑っているとそばに運転手さんがやってきて車に乗せてられた。そして車で1時間ほどの距離を2~3時間乗っていた感覚だった。それだけ美月は不安に駆られていた。そんな思いで着いた所には大きいなビルがそびえ立っていた。


 入ってみると中は近代的作りだった。するとそこに教員を名乗る男性がやってきて校長室に案内された。そこにいたのは変哲もないおばさんだった。

「私はこのガブリエル学園の校長をしている村田よ。あなた小野美月ね。必ず来ると思っていたわよ」

 美月に手を差し伸べてすると美月も手を出した。

「なんでですか?」

 美月がなんでこんなに自分のことを知っているのって思った。

「あなたがひかりの子供だから」

 校長が語気を強めた。

「お母さんを知ってるんですか?」

 美月は嬉しそうに聞いた。

「この業界で知らない人はいないしそれにひかりは私の教え子なのよ」

 校長は何も知らない美月に説明した。

 「そうだったんですか?」

 美月は驚いた様子で聞いた。

「そうなのよ。だからあなたにも期待してるわ。」

 美月にプレッシャーをかけた。

「私はお母さんじゃありません。ただここに来たからには頑張るつもりです」

 美月は堂々と答えた。

「それはそうね。あとあなたのお父さんの事は秘密にしておいてくれないかしら?もしあなたのお父さん達の事を知られたらきっと大変なことになるわ」

 校長は用心深く言った。

「わかりました。何でもいいです。」

 美月はしょうがなく答えた。

「そう、ありがとう。じゃあ教室に案内させるわ」

 校長は立ち上がって歩きながら言った。

「失礼しました」

 美月はそう言って出ようとしたら校長の呼び止められた。

「でもあなたはどことなくひかりに似てるわ」

 校長は微笑んで部屋に戻った

 美月は自分がそんな事言われるのかわかんなかった。

  その頃、校長と男性教師が話していた。

 「ひかりにやっぱ似てますね」

  その男性教師は納得して様子で言った。

 「そうね。あの子は将来大物になるかもしれないわよ」

  校長はそう言ってどこかに行った。


 一方、美月は教室の前に着いたら何やら話が聞こえてくる。

「ねえねえ今日、小野ひかりの娘が転校してくるらしいわよ」

「小野ひかりってあの伝説の?」

「うん。そうらしいよ。小野ひかりって娘いたんだね」

「一体どんな子なんだろうね?」

 クラスの子たちが噂をしていて中にいた女性教師が美月を呼んだ。

 教室に美月が入るとクラスメートがざわついた。 

 すると女性教師が自己紹介をするように促した。

「小野美月です。よろしくお願いします」

 美月は戸惑いながら挨拶した。

「小野さんは真ん中の席の後ろから2番目に座ってください」

  女性教師がそう言い残すと教室から出て行った。

  美月はそこに座ったそのときだった。

 「なんだたいした事ないじゃん」と聞こえた。

  美月が気になって後ろを振り返ってそこには凛とした綺麗な女の子がいた。

 「なんでそんなこと言うんですか?」

  美月はムキになって聞いた。

 「だってあなたのファッションはまったく似合ってないんだもの。小野ひかりの娘が聞いて呆れるわ」

 その女の子が笑いながら言った。

「どうしてダメなんですか?」

 美月は意味がわかんなった・

「あなたのファッションには自分らしさが足りない。ファッションは流行ばかり追っていても何にも意味がない。所詮あなたはその程度の子」

 その女の子は辛辣だった。

 確かに美月はファッション雑誌に紹介されている流行を取り入れながら着まわしをしていた。それが自分らしさなんて考えたこともなかった。

 美月は老婆に『あなたには才能がある』って言われて調子に乗っていたかもしれないと思ったがそれと同時にもう後戻りもできないって思った。


 そんな事を思っていると教室のドアが開いた。

 人際目立つ男の子が入ってきた。

「彩、何してるんだ?通れないんだけど」

 その男の子が二人の前に立って聞いた。 

「それがね大河くん」

 彩は今までのことを説明した。

「そうだな。彩の言う通りだ。確かにあんたダサい。あんたのファッションはタダのマネだな。ここはあんたのいるべき場所じゃねぇ」

 そう言って美月の右隣の席に座った。


 美月は何にも言い返せなかったけど悔しかった。ファッションに対する思いは誰よりも本気だった。美月は昔からお母さんが洋服を作ってくれていた。

 その姿を見ていつかはお母さんが見ていた景色を一緒に見てみたいと思っていた。でもその夢は叶わなかった。その間も自分なりにファッション雑誌見てみたりしていたけど限界があってもう無理だと思っていた。

 そんな時に老婆に出会ったのだ。

 これは何かのチャンスだと思っていた。だからこんな所で諦めるわけにはいかなった。


 そんな事に耽っているともう二人は席に戻っていた。

 すると左隣の女の子が話しかけてきた。

「私の名前は結城菜乃葉って言うの。よろしくね。何かあったら声をかけてね」

 菜乃葉はにっこりと笑いかけた。

「あ、私の名前は美月はです。声をかけてくれてありがとう」

 美月はホッとした様子で話した。

 菜乃葉はまるでお花畑にいるようなガーリーファッションだった。

「それよりあなたのお母さんが小野ひかりなんてすごいね」

 菜乃葉が興奮した様子で言った。

「私、あんまりその当時の事を知らないんだ。」

 美月は悲しげに萎縮した。

「え、すごかったのに。この学園の人ならみんな知ってるよ」

 菜乃葉は驚きを隠せなかった。

「そんなにすごいの?」

美月はなぜ知らないんだろうって思っていた。

「だって彼女は世界中のデザイナーが認めたほどの実力を持っていたみたいだしそれに権威あるデザイナーズマッチで優勝していたみたいだよ」

 菜乃葉は意気揚々と教えた。

「そのデザイナーズマッチって何?」

 美月は興味ありげに聞いた。

「デザイナーズマッチは由緒あるこの学園のためにあるコンテストなの。優勝すると世界中のデザイナーが認めてもらえるチャンスだしもしかしたらデザイナーデビューができるかもしれないコンテストなの」

 菜乃葉は嬉しそうに説明した。

「いつあるの?」

 美月は菜乃葉の話を聞いてみたかった。

「毎年冬に開催されるの。そこで優勝するのが夢なんだ。」

 菜乃葉は笑顔で夢を語った。

「そうなんだ。叶うといいね」

 美月は菜乃葉を応援しながら自分にもできるだろうかと考えていた。


 チャイムが鳴ったのはその時だった。教室のドアが開いて入って来きたのは校長室に案内してくれた教師だった。

「あの人の名前って何?」

 美月は隣の席にいた菜乃葉に名前を聞いた。

「あの先生の名前は大沢拓也先生といってこの学園を首席で卒業してパリで活躍していたのになぜか帰国後に教師になったんだ。まあべつにいいけどそのおかげでパリの事も教えてもらえるんだけどね」

 菜乃葉は尊敬の念を抱きながら話した。

「それでは授業を始めます。まずはデザイン画を出してデザインを書いて。テーマは若者が着たくなる服だ」

 先生の言葉を合図に一斉にデザインを書き始めた。でも、美月はどうしていいのか分からずに隣のを見たら鮮やかで大胆かつ繊細なデザインだった。

 そのデザインを見上げてみると大河だった。

「お前、何見てるんだよ」

 大河が不機嫌そうに言った。

「あ、ごめんね」

 美月は謝りながら見とれていた。素直に凄いと思っていた

 負けていられないと思ったが何もできなかった。

 大沢先生が来たのはその時だった。

「小野、何してるんだ?」

 心配して美月に声をかけた。

「デザインの描き方がわかんないです」

 美月は不安そうに答えた。

「そんなの簡単。君の着てみたい服を自由にデザインするんだ。もし君自身がデザインした服を着たくなかったら誰しもが着たくないだろう。そうすれば自ずと答えは出るもんだ」

 大沢先生は丁寧に教えた。

「先生、ありがとうございます」

 美月は言葉を弾ませながら言った。

「君の母さんには世話になったからな」

 大沢先生はそう言って手を振りながら元に戻った。

 美月はその姿を見送りながらペンを取った。

 するとインスピレーションが湧いてきてどんどん進んだが自信がなかった。

 でも、誰にも負けたくはなかった。


 「そのデザイン画を提出して」

  大沢先生の指示のもとクラスメートがどんどん提出していく。美月も急いで後を追って提出した。

「君のは提出しなくてもいいよ」

 大沢先生は突き放した言い方をした。

「え、なんでですか?」

 美月は戸惑いを隠せなかった。

「これじゃあ使い物にならないからだよ。確かに自由にって言ったけど君のは何かが足りない。あとは自分で答えを見つけなさい」

 大沢先生はそう言い残してクラスから出て行った。


 美月はどうしたらいいのか分かんなくなって立ち尽くした。

 大河が話しかけてきたのはその時だった。

「何しているんだよ。」

 大河は邪魔そうに聞いてきた。

「なんかダメだったみたい。どこがダメだったんだろう」

 美月は大河にデザイン画を見せながら言った。

「やっぱり全然だめだな」

 大河はそう言って美月の手を引張って学校を抜け出してどこかに連れ出した。

 大河はものすごいスピードで走ったが美月はそのスピードについて行くのが精一杯だった。

「一体どこに行くの?もう休み時間終わるよ」

 美月は走りながら言った。

「ついて来ればわかる。もし、行ってもわかんなかったらデザインナーなんて諦めた方がいいかもな」

 大河は美月に辞めるように促した。

 

 二人は電車に乗った。着いたのは渋谷だった。

「ここ、渋谷でしょ?なんでこんな所に来たの?」

 美月は意外な場所でびっくりした。

「よく渋谷を歩いている人たちを見てみろ。見てれば何かわかるはずだ」

 大河は辺りを見ながら言った。

 美月は渋谷をよく見てみたらあることに気づいた。

「あ、ここの人たちはみんなカジュアルなものばかり着ている」

 美月はそう言って自分のデザイン画を出して比べてみた。

 そうすると美月のデザインと明らかに違った。美月のはゴージャス感を漂うファーの毛皮の服だった。

「そう、お前の思った通りだ。ここの人たちはカジュアルな物ばかりだ。ゴージャス感なんて求めていない。なぜだか分かるか?」

 大河は美月に答えを問いかけた。

「パーティーとかないから?」

 美月は意味不明な事を言った。

「なんだそれ?ゴージャスな服はすぐに飽きる。でもカジュアルな服はいつでもどこでも着られるし安心感があるだろ。それに人間は安心感を求めるものだ」

 大河は美月に分かるように教えた。

「なるほど・・・」

 美月はその言葉しか出でこなかった。

「それにお前、わざと派手なデザインを書いて目立とうとしただろう。

 やる気が空回りしてるんだ」

 大河が言い当てた。

 美月は複雑な気持ちになった。

「きっと焦ったんだと思う」

 大河の目の前で本音を話した。

「ダメだと思うならここで諦めろ。でも一つだけ言うならお前のデザインはなかなか良かったぞ」

 大河は手厳しくも暖かいアドバイスを送った。

「なんかここに来たらスッキリした気分になったよ。ありがとう」

美月は友達ができたみたいで嬉しかった。

「別に礼を言われることじゃねぇしそれに本当のことを言っただけだ」

 大河はそう言って駆け足で走り出した。美月もその後を追って帰った。


 学校の目の前に着くと困惑したあの女性教師がいた。

「北見先生、こんなところで何してるんだ?」

 大河があっけからんした様子で言った。

「何ってあなたたち二人を待っていたんじゃないの。二人とも校長室に来なさい。校長先生がお待ちよ」

 北見は問答無用で二人を校長室に連れて行った。

 美月は校長室に呼び出されるのなんてこれが初めてだった。


 校長室に入ると大沢先生と校長がいた。二人共カンカンだった。

「またあなたなの?どうしていつも困らせるるの?」

 校長は大河を叱った。

「すみませんでした」

 大河は心なしに謝った。

「なんでそんな謝り方しかできないの?もしあなたにデザイナーの素質がなかったらとっくにうちの学園を辞めてもらっているわ」

 校長は怒り心頭の様子だった。

「ちょっと待ってください…」

 美月はこれまでのことを全部説明した。

「話はわかったけど学校を抜け出すの良くないわ。それにあなたにも失望したわ。そのぐらいのデザインの知識があると思っていたわ」

 校長は美月を突き放した。

「まあそのぐらいにしておきましょうよ。どうしても校長の気が収まんないならそのデザインを1時間以内でここで仕上げったら許すのはどうですか?」

 大沢先生が提案した。

「じゃあそれでいいわ。」

 校長も考え込みながらも納得した。

「やってみます。出来るかわかんないけど」

 美月はやってみるしかないと思っていたが同時にワクワクしていた。

 デザインを迷いながら書いた。書いてる時が何時間にも思えた。

 でも、今度は自分に自信を持って描くことができた。

「できました。これがダメならなんでもバツは受けます。でも大河くんには何にもしないでください」

 美月はまっすぐ前を向いて言った。

「いいわ。でも、もしダメだったら退学してもらうわよ」

 校長は睨んで言った。

「わかりました」

 美月はデザイン画を校長に渡した。

「なんで青のデニムシャツと白のスカートなの?」

 校長が険しい表情で聞いてきた。

「女の子が着てもカッコよさとかわいさを備わっているのはこのアイテムかなと思いましてそのデザインにしたんです」

 美月がデザイン画を持って説明した。

「大沢くんはどう思うの?」

 校長は大沢先生の意見を尋ねた。

「うーんなんかありきたりですかね。でも、デザインは凛としてますね。別にいいんじゃないんですか?このまま勉強して何か生まれると思いますよ」

 大沢先生はデザインを認めた。

「あなたがそう言うなら間違いないわね。あなたに免じてこの子達の処分は大目に見るわ」

 校長は美月達の目の前で約束した。

「本当ですか?」

 美月はまだ喜んでいいものか迷っていた。

「でも、そのかわりに今度同じ事をしたら退学してもらうわよ」

 校長は美月たち方に向かって睨んだ。

「わかりました。本当にごめんなさい」

 美月は素直に謝ったがその一方で大河は無言だった。

「もう二人とも帰ってもいいわよ」

 校長が帰るように促した。

「失礼しました」

 美月たちは校長室から出て行った。


「お前は本当にいい子ちゃんぶりやがって。そんなに楽しいか?」

 廊下を歩きながら大河が言ってきた。

「そんなつもりじゃないよ。ただ、助けてあげかっただけ」

 美月は大河にむかって反論した。

「別にお前なんかに助けてもらわなくてもなんとかした」

 大河はそう言って廊下をスタスタ歩いてどこかに行った。

 その時に美月が大沢先生を見つけてお礼を言いに駆け寄った。

「さっきありがとうございました。」

 美月はペコリと頭を下げた

「別に礼なんかいい。それに本当のことを言ったまでだ。」

 大沢先生は冷静沈着に言った。

「あのそれと聞きたいんですけど私の母と知り合いなんですか?」

 美月は疑問に思ってることをぶつけた。

「知り合いもなにも同級生だよ」

 大沢先生はおかしそうに笑った。

「同級生だったんですか?」

 美月は目を丸くして聞きなおした。

「そうだ。知らなかったか?」

 大沢先生は驚いた様子で聞いた。

「全然知りませんでした。」

 美月はありのままに答えた。

「まあ知らない方がいいかもな」

 大沢先生は謎の言葉を残して美月の前から去った。

 美月は不思議に思いながらも教室に向かった。


 教室に入ると生徒は数人だけだった。

 美月は席にあった荷物を取りに行くと菜乃葉が声をかけてきた。

「遅かったね。今までどこに行っていたの?」

 菜乃葉は心配そうに聞いてきた。

「ちょっと大河くんといろいろあってね」

 美月は言いにくそうにしていた。

「そっか。それと先生から美月ちゃんに寮を案内して欲しいと言われて待っていたの。見に行こう」

 菜乃葉は急かすように言った。

「うん。待っててくれてありがとう。行こうよ」

 実は美月は寮がわかんなくて困ってた。


 二人は寮を見に学校を出た。しばらくすると洋館みたいなのが出できた。

「着いたよ。ここだよ」

 菜乃葉は指さした。

「ここが寮なの?」

 美月は寮が古びていてびっくりして立ち止まった。

「うん。そうなの。驚いた?」

 菜乃葉はそう言って先に進んだ。

「想像していたのと違うから・・・」

 美月は菜乃葉の後についていった。 


 寮の中に入ってみると明るくて綺麗だった。

「中に入ってみると全然違うでしょ」

 菜乃葉は手を引っ張って部屋へと案内した。

「美月ちゃんの部屋はここだよ」

 菜乃葉は美月を部屋に入れた。

「ずいぶん部屋って広いね」

 美月は部屋の大きさにびっくりした。

「あ、一つ言い忘れてけどここは相部屋だよ」

 菜乃葉はそう言って手を叩いた。

「こんなに広いわけないよね。そういえばルームメイトって菜乃葉ちゃん?」

 美月は勝手にルームメイトを菜乃葉だと思い込んでいた。 

「ううん、違うよ」

 菜乃葉は首を横に振った。

「じゃあ誰?」

 美月が聞いたその時に部屋のドアが開いて彩が入ってきた。

「どうしてあなたがここにいるの?」

 美月は気まずかった。

「私の部屋だから」

 彩は語気を強めた。

「そうなんだ。もう知ってると思うけど今日からここでお世話になる小野美月です。よろしくね」

 美月は改めて挨拶をした。


「またあなたなの。よくのこのこ来たわね。私は絶対あなたを認めない」

 彩は美月を睨みながら言った。

「もう彩、やめなよ」

 菜乃葉が仲裁をした。

「菜乃葉ちゃん、あとは自分で言うからもういいよ」

 美月は菜乃葉にこう言うと話し続けた。

「私はここに中途半端な気持ちで来てるわけじゃないからもう帰る場所もない。

 だから彩ちゃんが認めても認めなくてもここにいるしかない。できれば彩ちゃんとも仲良くなりたいんだ」

 美月は自分をさらけ出して話した。

「人の名前を馴れ馴れしく呼ばないでよ」

 彩は怒って部屋を出てしまった。

「しょうがないね。プライドが高い子だから」

 菜乃葉は呆れていたが美月はなんにも言えなかった

「もう自分の部屋に戻るね」

 菜乃葉はそう言って帰っていた。

 美月も自分のベットに言った。幸いにも美月と彩のベットは離れていた。

 でも、美月が寝る頃になっても彩は戻って来なかった。美月は彩の事が心配だったが寝る事にした。

 朝に美月が起きると戻ってきた形跡もなかったが学校に行く準備をして寮を出た。彩の事が心残りだった。


 学校に入ると菜乃葉が話しかけてきた。

「おはよう。昨日、あれからどうしたの?」

 菜乃葉は心配そうにしていた。

「帰ってこなかったの」

 美月は困惑していたがクラスに行くことにした。

 クラスに行ったが彩の姿は見えなかった。

 美月が席に座った瞬間にチャイムが鳴りだしたが彩が来たのはその時だった。

「昨日はどこに行っていたの?」

 美月は彩のそばに駆け寄って話した。

「そんなのあなたに関係ないでしょ」

 彩は自分の席に行った。

 美月が呆然していると北見先生が来た。

「小野さん早く席に戻りなさい」

 北見先生は美月を注意した。

「分かりました。すみません」

 美月は急いで席に戻った。

「今日はミシン室でロックミシンを使います。では移動しましょう。」

 北見先生の一言で生徒たちがミシン室に向かった。

 美月も遅れないように後について行った。


 そしてきれいなドアがあってそこに入ったらたくさんの種類のミシンがあった。

「今日は見本を見てスカートを作ります。好きなロックミシンを選んで作ってください」

 北見先生は指示を出した。

 その指示にしがかって生徒が一斉に動き出した。

 美月は何がなんだかわからずに迷っていた。そんな時に彩の姿が目に入って彩の隣に座った。

 「そこ違うわよ。そのミシンはカバーステッチミシンでしょ。まさかロックミシンとカバーステッチミシンの違いもわからないの?」

  彩がイライラして聞いてきた。

  美月はそれを聞いた瞬間に呆然とした。

  菜乃葉が声をかけてきたのはその時だった。

 「しょうがないよ。まだ来たばかりなんだから」

  菜乃葉はフォローをした。

  その時だった。北見先生がやって来た。

 「何してるんですか?」

  北見先生は美月の方に向いた。

  菜乃葉が一部始終を説明した。

「じゃあしょうがないからそこで見てなさい。」

 北見先生は美月に言いつけて元に戻った。

 彩たちはロックミシンを使ってスカート作りを始めた。

 美月はその光景をただ黙って見つめる事しかできなかった。

 それは情けなくて悔しいものだった。

「どうしたんだ?」

 ぼっとした美月に大河が声をかけてきた。

「先生にここで見てなさいって言われたんだ」

 美月はうつむき気味に言った。

「だからお前はダメなんだ。見ているだけじゃなんにも始まんない。それに生徒は自分の夢を叶えるためにここにいる。お前は何のためにここにいるんだ?」

 大河は美月に問いかけた。

 でもまたしても美月は答えられなかった。

 大河は呆れてどこかに行った。

 美月は大河に言われてはっとした。

 美月はじっと見ていた自分を悔いて色んな生徒のを見てまわってノートに取っていたらチャイムが鳴った。


 そしたら生徒はみんな帰ってしまった。

 ミシン室には美月と北見先生の二人だけになってしまった。

 それに気がついた北見先生が近寄ってきた。

「あら、まだいたの?」

 北見先生はまだ美月が残ったいた事に驚いた様子だった。

「今日のことをノートに取っていまして」

 美月は遅くなった訳を話した。

「どうして?」

 北見先生はきょとんとした。

「あらゆる人のミシンの仕方を見てノートを取っていたんです。一瞬たりとも見逃せないんです。」

 美月はきらきらさせながら話した。

「そう。でももうちょっとで次の授業が始まるから急いだ方がいいわよ」

 北見先生は美月に微笑みながら言って立ち去った。 


 美月は教室に急いで戻って大河のところに行った。

 大河は友達と話していたがいきなり美月がやって来てうろたえた。

「あのさっきの事なんだけど・・・」

 美月は息を切らしながら言った。

「なんだよ?」

 大河は面倒くさそうに聞いた。

「さっきは言えなかったけど今なら言える。みんなが一所懸命にやってる姿を見て正直悔しかった。なんでもっと自分の夢と向き合わなかったんだろうって思った。でも自分も負けていられないしもっといろんな事をここでみんなと学びたいって思ったの」

 美月は堂々と言った。

「じゃあ邪魔になんないように気をつけるんだな」

 大河はそう言い残し自分の席へと戻っていった。

 美月は意味がわかんなかった。


 そこにいた菜乃葉が声をかけてきた。

「よかったね。大河が認めてくれてね」

 菜乃葉が美月に笑顔を向けた。

「え、なんで?」

 美月は戸惑いながら聞いた。

「だって大河があんなこと言うなんて珍しいもん」

 菜乃葉はそう答えて笑った。

 美月はやっと信頼できる仲間ができたみたいで嬉しかった。


 そう思ってる時にチャイムが鳴った。

 大沢先生は教壇に立てなにやら黒板に書いて話した。

「夏にガブリエル学園主催でファッションショーを開催することが決まった。そこで各自モデルとデザインを用意してくれ。テーマは夏に似合う服だ。その後に公開審査をする」

 大沢先生は身振りでわかりやすく教えた。

「全員参加ですか?」

 彩は熱心に聞いた。

「そうだ。この機会に自分たちの力を試してみないか?」

 大沢先生は語りかけた。

 美月は戸惑っていたが心が高鳴っていた。

 不思議な感覚に陥ってると授業が終わっていてもう帰る準備をしてる人たちもいた。

「ちょっと小野、こっちに来てくれ」

 大沢先生は教壇の上から呼んでいた。

 美月は急いで先生の方へ行った。

「小野はどうするんだ?お前は転校してきたばかりだし作品を出しても出さなくてもどっちか好きな方を選べ」

 大沢先生が尋ねてきた。

「やりたいです。私はみんなより技術や知識が劣っているかもしれないけど追いつきたいんです」

 美月はきっぱりと言い切った

「そっか。そういう事ならわかった」

 大沢先生は美月をみて納得した。

「心配してくれてありがとうございます」

 美月はお礼を言った。

 大沢先生は何も言わずに去っていった。

 美月も帰る準備をしていたら菜乃葉が近づいてきた。


「美月ちゃん、これから時間ある?」

 菜乃葉は眩しいぐらいの笑顔で訪ねてきた。

「あるけど何するの?」

 美月はその笑顔に圧倒されつつ答えた。

「彩と大河たちと渋谷でモデル探しをするんだけど一緒に来ないかな?その方が彩とも仲直り出来るだろうし」

 菜乃葉は言葉を選びながら誘った。

「うーーん。行ってみる」

 美月は迷ったが大河がいると聞いて行く気になった。なんだか大河の名前を聞いて安心した。

「じゃあ行こうか」

 菜乃葉が美月の手を引っ張って大河たちのもとへ連れて行った。


 ついて行ったら大河たちがいたが彩は睨んでいた。

 美月は気が付いてないふりをした。

「なんだお前も来たのか?」

 大河がしらじらしく聞いてきた。

 美月はなんて答えていいのかわかんなかった。

「大河が美月も連れて行こうって言ったんじゃないの?」

 菜乃葉は呆れ気味に言った。

 大河はそのことに触れなかったが美月は嬉しかった。

「みんな早く行こうよ」

 彩はちょっとキレ気味に言った。

「そうだね。早くしないとね」

 菜乃葉は空気を察して言った。

 さっそく美月たちは渋谷に行った。


渋谷に着いたら混んでいた。

「この中からどうやって見つけるの?」

 美月はたくさんの人の中から見つけ方がわからずにいた。

「そんなの直感に決まってんだろ」

 大河はそう言うと女性に声をかけに行った。

「美月ちゃんも頑張ってね」

 菜乃葉もどこかに行った。

 美月は彩と二人きりになって気まずかった。

「彩ちゃんはもうモデル見つかった?」

 美月は勇気をもって話しかけた。

「そんなのあなたには関係ないでしょ」

 そう言うと彩は美月の前から去った。


 美月もモデルを探そうとしたが見回してもなかなか見つかんなかった。  

 菜乃葉が戻ってきたのは焦っていたその時だった。

「いい子見つかった?」

 菜乃葉は困てる美月を見て声をかけてきた。

「ううん、全然」

 美月はため息混じりに言った。

そして一緒に大河と彩が帰ってきた。

「お前のモデルはどうなった?」

 大河はぶきっらぼうに美月に言った。

「それがまだなんだ。どうしたらわかんないんだ」

 美月は落ち込んだ様子で言った。

「あの人の雰囲気なんかいいなとか思うだろ?すべては直感なんだ。お前もデザイナーなんだから自分の直感を信じろよ」

 大河は美月にアドバイスを送った。


 美月が元気を取り戻した瞬間だった。目の前に背がすらっとしてめがねをかけて全身黒づくめの女の子がいた。

「あの子はどうかな?」

 美月はみんなの意見を聞いた。

「背が高いけど地味かな」

 菜乃葉は首をひねって言った。

「あなた見る目がないわね」

 彩は辛辣だった

 それは美月がもう諦めよう思った瞬間だった。

「別にいいじゃん」

 大河はたった一言だけ言った。

 美月はそのたった一言に勇気づけられていた。

 そして決意した。

 でも美月が迷っている間に美月と女の子の距離が開いていた。

 美月はみんなになにも言わずに追いかけた。

 

 気づいたら勝手に足が動いて今までにない全速力で走っていたら女の子に追いついた。

「あの、すみません。ちょっといいですか?」

 美月は意を決して声をかけた。

「なんですか?急いでるんですけど」

 その女の子は不審者を見る目つきで言った。

「あの、ショーモデルをやってみませんか?ショーモデルって言っても専門学校のなんですけど一所懸命にやるのでどうですか?」

 美月はその女の子を誘った。

「そういうのには興味がないからいいです」

 女の子は歩きながら断った。

「そう言わずにしてくれませんか?お願いします」

 美月は諦めずに言った。

「なんで地味な私に声をかけたんですか?」

 女の子はうつむきながら言った。

「直感です。でもただ選んでません」

 美月は正直に答えた。

「は、何それ?」

 女の子は止まりかけていた足をふたたび脇目も振らず足早に歩いた。

「気を悪したなら謝ります。それともう誘いません。本当にごめんなさい」

 美月は精一杯誠意を見せた。

 女の子は美月を無視し、なりふり構わずにどんどん歩いて行った。

「ちょっと待ってください。もしやる気になったらここに連絡してください。それにあなたは背が高いのでそれを活かせば地味なんかじゃありません。もっと自信を持ってください」

 美月は連絡先を渡して女の子の前から去って行った。

 

 美月は急いでみんなの所まで元に戻った。

 そしたらみんなが待ってくれていた。

「美月ちゃんはどこに行っていたの?」

 菜乃葉は心配した様子で聞いた。

「あの女の子と話をしていたんだよ」

 美月は一部始終を説明した。

「何?あんな子をモデルにするつもり?」

 彩は美月に言い寄ってきた。

「うん。だってあの子魅力的だもん」

 美月は自信を持って言った。

「はあ?頭がおかしいんじゃないの。もし仮にあの子が魅力的だったとしてもあなたにそれが引き出せるの?」

 彩は美月をあざ笑った。

「わかんないけどできる限りあの子の魅力を引き出してあげたいの」

 美月は力強く言った。

「話にならないわ。モデルは服を引き立てせるためにいるのよ。」

 彩は怒って先に帰った。

「気にする事ないよ。頑張ろうね」

 菜乃葉は天真爛漫な笑顔で言った。

「そうだね。みんなで頑張ろうね」

 美月は安心した様子で言って3人は寮に帰っていった。


 あれから数日が経っていた。

 いつもどおり美月たちは授業を聞いていた。

「今回、話をしたように白には新鮮な気持ちになりグレーには落ち着いた雰囲気を出せる効果がある。デザインを考える時には色の意味をちゃんと捉えながらするように。それとモデルと服の色のバランスを考えないと不自然になるぞ。これで授業を終わる」

 大沢先生が言った瞬間にチャイムが鳴った。

 美月は物を片付けていると大河が呼んでいた。


「おーいお前に用事だとよ」

 大河はぶっきらぼうに言った。

 美月は振り返るとあの女の子がいて急いで大河の方に走った。

「うまくやれよ」

 大河は美月の肩をポンっと叩いて二人きりにした。

 「あの、わざわざきてくれたんですか?」

 美月は勇気を振り絞って聞いてみた。

「だってあの時褒めてくれたから。なんで褒めてくれたの?」

 その女の子は不思議そうな目で美月を見つめていた。

「全部本当の事だからです。もうちょっと自分のいい所を出せばステキになると思うんです。だから私がデサインした服のモデルになってください」

 美月は力を込めて頭を下げた。

「お話はありがたいんですか実はわざと目立ったないようにしていて背が高いのがコンプレックスで男子からはラクダって呼ばれたりそれでもバスケが生き

がいだったんですけど故障してできなくなったらどうでもよくなったんです」

 女の子は糸が切れたかように話した。

「その子達を見返そうとは思わないんですか?」

 美月は眉をひそめながら聞いた。

「悔しいだけどそんなの出来ないじゃない」

 女の子は必死の思いを飲み込んでいった。

「なら私に任せてください」

 美月はいてもたってもいらなかった。

「ただの専門学校生が何をできるって言うの?」

 女の子が不満を口にした。

「正直まだわかりません。でも洋服の力を信じたいんです。いつもお母さんが幸せと笑顔にする魔法があるっていってあなたをそうしたいと思ったんです。それに自信を持ってばきれいになりますよ。」

 美月は思いの丈をぶつけた。

 すると女の子は黙って考えた.

「あなたを信じってやってみます」

 女の子は強い目力で美月を見た。

「ありがとう。これからよろしくね。私の名前は美月って言うの」

 美月はお礼と自己紹介した。

「えーと私は明里です。年齢は15歳。こちらこそお願いします。」

 明里はもじもじしながら言った。

「年上かと思った。それとこれからはタメ口でいいよ」

 美月は驚きを隠せなかった。なぜなら明里は175cmもあるのだから。

 そんな事してると菜乃葉が来た。

「あ、来たんだね。」

 菜乃葉は自分の事のように聞いてきた

「そうなんだ。やっとモデルを引き受けてもらえる事になったんだ」

 美月は万感の思いで言った

 二人が話していると明里が美月の影に隠れた。

 それに気づいた美月が明里を紹介した。

「明里ちゃんよろしくね」

 菜乃葉は優しい笑みを浮かべながら言った。

 すると明里はペコリとするだけだった。

 大河が彩を連れて戻ってきた。

「どうなったんだ」

 大河がめずらしく心配した表情で聞いた。

 美月は大河たちにも事情を話した。

「デザインとか気に入らないときはちゃんと言った方がいいぞ」

 大河は明里のそばまで行って話した。

 明里は頬を赤く染めてうなずいた。

 それを見ていた彩は大河と明里の間に割って入った。

 「もう行こう」

  彩は大河を引っ張りどこかに連れて行った。

 「じゃあ私も行くね」

  菜乃葉もそう言ってどこかに行った。

  一気にいなくなって気まずい雰囲気なった。

 「何度も連絡を取ることもあるから連絡先を教えてくれないかな?」

  美月は勇気を出して聞いてみた。

 「あ、いいですよ」

  明里の敬語は治んなかった。

  二人は連絡先を交換した。

「それと着る服はどんなのがいいのかある?」

 美月は思い出しかのように聞いた

「おまかせでいいです」

 明里は見せたことない笑顔で言った。

「わかった。本当に引き受けてくれてありがとう。絶対いいものを作ってみせるよ」

 美月は明里に約束した。

「それじゃあ帰ります」

 明里は素っ気なかったが嬉しかった。

 でもそれを言うこともなく帰っていった。

 美月はいいものを作るって言ったもののまだ全然アイディアが浮かんでこなくてやる気だけが空回りしていた。 


 美月も寮に帰ったら真っ先に机に向かったが自身暗記になりなんにも手が付かなかった。

 彩が帰ってきたのはそんな時だった

「もうデザインはできた?」

 美月は気になってみて話しかけてみた。

「あなたに関係ないでしょ。それに他人に聞く前に先に普通は自分のことを話すでしょ」

 彩はちょっとイラッとした様子で言った。


「…それがまだなんだ」

 美月はなかなか言い出せなかった。

「口ほどにもないわね。私なら考えるよりもまずは動くわ」

 彩はそう言うと出て行った


 美月は言われた事を考えてみたがなんの事がわかんなかった。

 そこで菜乃葉に聞いてみる事にした。 

 すぐに部屋に行くと菜乃葉がでた。

「訪ねてくるなんてどうしたの?」

 菜乃葉は不思議そうな顔をして言った。

 美月は彩に言われた事を全て話した。

 菜乃葉はずいぶん考え込んだ。

「きっと彩が言いたいことはリサーチの事じゃないかな」

 菜乃葉は何かを閃いたかのように言った。

「ファッションリサーチって何するの?」

 美月は初めて聞く言葉に戸惑った。

「街に行って歩いてる人とかに調査や写真を撮ったりすること。でも、本当は他の科の人がやる事なんだけど私たちはデザインが煮詰まったりすると行くことがあるんだよ」

 菜乃葉はわかりやすく説明した。

「行ってみるよ。もしよかったらついて来てくれないかな?」

 美月が頼み込んだ。

「いいよ。原宿に行く?」

 菜乃葉は美月の事を手伝いかった。

「ありがとう。場所はどこでもいいよ」

 美月は安心した顔で言った。

「じゃあもう行くよ」

 早速ふたりは行くことにした。


 美月たちは電車で原宿に行った。

 原宿にはいっぱいおしゃれな人がいた。

「どの人に声をかける?」 

 菜乃葉は美月の意見を取り入れようとした。

「迷うなー?」

 正直、美月はいっぱい人がいて わかんなくなった。

「じゃあ順番に声かけてみる」

 菜乃葉が提案した。

「そうしてみる」

 美月がそう言うと二人で声をかけに行った。

 まずは流行りのクラッシュデニムできめてる男性に声をかけた。

「すみません。写真を撮らせてもらえますか?」

 美月は申し訳なさそうに言った。

「なんで?」

 男性が驚いた表情で聞いてきた。

 美月たちは事情を説明して男性は心よく了承した。

 男性は写真を撮ってくれて帰っていった。

「いい人でよかったね」

 美月はホッとした様子で言った。

「この調子で行こうよ」

 菜乃葉の言う通りにどんどん声をかけて行った。

 ピンクのオールインワンを着ている女性や水色のシフォントップスの女の子に声をかけて成功させていき寮に帰った。

「忙しいのに今日はありがとう」

 美月はお礼を言った。

「これでいいアイディアが浮かぶといいね」

 菜乃葉はエールを送り部屋に戻った。


 美月も部屋に戻りすぐさま撮った写真を見ながらデザインを始めた。


 写真を見ながらもアイディアが浮かんできたが不安だった。

 そんな時に大河の顔を思い出した。

 すると美月はデザイン画を持って男子寮に向かって行った。

 美月が男子寮に着くとざわざわしていた。

「大河くんの部屋ってどこですか?」

 美月は勇気を振り絞ってフロア中に声を響き渡るような声で言った。

「ちょっといい?」

 いきなり知らない男の子がグイっと美月の手を引っ張ってどこかに連れて行った。

「何するんですか?」

 美月は戸惑いながら言った。

「俺は翔太って言うんだ。大河と同室だから連れて行ってあげる」

 翔太は一度止まってから話した。

「わかりましたから話してください。」

 美月は渋々ついて行く事にした。

「あ、ごめん。オレのこと知ってる?」

 翔太は謝りながら聞いた。

 そしたら美月は無言だった。

「そっか。考えてみると別々のクラスだもんな。でもオレは君のことよく知ってるけどな」

 翔太は意味深に言った。

 そんな事をしていたら部屋に着いた。


 翔太がドアを開けるとそこには音楽を聴いてデザイン画を書いている大河がいた。

「大河に客だよ」

 翔太は大河に聞こえるように言った。

「なんだお前か」

 大河はイヤホンを外しながら振り向いた。

「見てほしいデザイン画があるんだけど見てくれないかな?」

 美月は閉じたままのデザイン画を出した。

「なんでオレが見なきゃいけないんだよ」

 大河は無愛想な態度をとった。

「別にいいじゃん、見てあげれば」

 翔太は美月のデザイン画を取って見たらそこには袖に透け感がある白いシフォントップスと黒いスキニーパンツが描いてあった。

「今、流行のシフォントップスとスキニーを描いてみたんだけど…」

 美月は不安そうに説明した。

「シフォントップスなら今流行っているしいいんじゃない」

 翔太はデザインを褒めた。

「ありふれているな。まだ彩が言ったことわかっていなかったんだな。デザイナーなら流行を作れよ。モデルが着たいと思わせる服を作れよ。ガッガリだな」

 大河は翔太からデザイン画を取り上げて返した。

 美月はいたたまらなくなって何も言わずに出て行った。

「なんだあれ」

 大河は美月に聞こえるようにつぶやいた。


「お前があんなムキになって何か言うところ初めて見たよ」

 翔太は驚きながら言った。

「別にいいだろう」

 大河はまたデザイン画を書き始めた。


 美月は男子寮を出てたたずみながらぼーっとしていた。

 美月もこれじゃダメだろうと思ったから聞きに行ったのにやるせない気持ちになったが再び歩き出した。

 しばらくすると校長に会った。

「こんばんは」

 美月は引きつった笑顔で挨拶した。

「あなたどうしたの?」

 校長は心配そうに言った。

「いろいろあって…」

 美月はそのまま帰ろうとした。

「待ちなさい。ちょっとついて来なさい」

 校長はスタスタと歩き出した。

 美月もそのあとをついて行った。


 着いたのは学園の見たこともない教室だった。

「あのここはなんですか?」

 美月はきょろきょろして言った。

「ここはひかりの教室だったのよ」

 校長は美月の目を見て説明した。

「え、お母さんのですか?」

 美月は驚いた様子で言った。

「あなたはなぜひかりが天才だって言われていたかわかる?」

 校長は美月に投げかけた。

 美月はしばらく考えて首を振った。

「ひかりは服を作って着る人自身の魅力を引き出せる服を作れたの。それでいって誰にでも着こなせる服をね。そして何よりひかりは服の力で人を幸せにできるって信じていたのよ」

 校長は優しい眼差しで言った。

 すると美月はなにかに駆り立てられるように出て行ったが振り向いた。

「今日は慰めてくれてありがとうございました。お母さんみたいにはできないかもしれないけど私なりの服で幸せにして行きたいので見ていてください」

 美月は宣言すると応えも聞かずに慌てて教室を出て行った。

 それをみてふっと笑った。


 美月は慌てて帰るとなにかを思い出したかのようにデザイン画とペンを手にとった。

 それから1時間、一心不乱になってデザイン画を書きあげた

 美月は無性に明里に会いたくなって連絡した。

「今から会えるかな。ちょっと見せたいものがあってね」

 声が浮かれながら報告した。

「あ、いいですよ。じゃあレストランで会えますか?」

 明里も気持ちが高まりながら言った。

「もちろんだよ。じゃああとでね」

 美月はスマホを切った。

 そして美月は待ちきれないのかレストランに行った。

 

 レストランに着いたらそこになぜか先に明里が来ていた。

「先に着いたんだ?」

 美月は声をかけて座った。

「もう待ちきれなくて…」

 明里は恥ずかしながら話した。

「同じくそうだよ。」

 美月は顔が真っ赤になって言った。

 するとふたりは顔を見合わせ笑った。

「あの、話ってなんですか?」

 明里は待ちきれない様子で言った。

「あ、そうだ。デザイン画ができたんだけど本当はモデルに見せないらしいの。でも今回は見せたいんだ。」

 美月はそう言って明里にデザイン画を渡した。

 すると明里はデザイン画を黙って見た。

「これでいいかな?」

 美月は反応を伺ってみた。

「はい。こんなに素敵なもの作っていただいてありがとうございます。でも本当に私でいいですか?」

 明里は喜びと同時に不安もあった。

「いいんだよ。明里ちゃんのために作ったんだからさ」

 美月は強い口調で言うと彩は納得した。

「あのー家族とかファッションショーに呼んでもいい?」

 明里はもじもじしながら言った。

「もちろんだよ。なんなら友達とか知り合いも呼んで」

 美月は笑顔で言った。

「ありがとうございます。じゃあ呼んでみます」

 明里は心なしか声がはずんでいた。

「じゃあ今度会うときは仮合わせの時だよ。それまでたのしみにしててね。きっと素敵なのを作るから」

 美月は自分に言い聞かせるようにして気合を入れた。

「私もその時が楽しみです。」

 明里は喜びながら帰っていった。

 美月も新たな決意を胸にして帰った。


 部屋に戻ると彩がいた。

 美月は渋谷に行った日からまともに話していなかった。

「あのちょっと…」

 勇気を出して声をかけてみた。

「何か用?」

 彩は不機嫌に言った。

「今日モデルの子と会ったんだけどデザイン画を見せたの。それで気に入ってくれんだよ」

 美月は興奮気味に報告した。

「それが何なの?」

 彩はイライラが募った。

「それも彩ちゃんがヒントをくれたからデザインができたから報告したかったんだ」

 美月は笑顔で言った。

「そんな事してないけど」

 彩は部屋を出ようとしていた。

「ちょっと待って。それと今日思った事あるんだけど前に彩ちゃんが言った事なんだけどモデルが服を引き立てるためいるって言うやつ」

 美月は彩を引き止めて言った

「そんなの間違えてないでしょ。モデルは服の引き立て役よ」

 彩は美月の言うことなんて無視していこうとしていた。

「でもそのモデルがいないと服の魅力を引き出せないよね」

 美月は彩にも聞こえるように大声で言った。

「何よ、そんな事をあなたに言われる筋合いないわ。私だってずっとデザイナーになりたくてバイトしなだら勉強してきたのよ。あなたなんてただ小野ひかりの娘というだけでみんなにチヤホヤしてもらっているだけじゃないの」

 彩は美月に向かって言った。

「そうかもしれないけど私は今までお母さんのことを知らなかった。でも私もお母さんの服は人を笑顔と幸せにするって言う言葉を胸にして頑張ってきたんだ」

 美月は必死に話しかけた

「ならこうしない。もしファッションショーで順位が上じゃなかった方がデザイナーになるのを諦めるのはどう?」

 彩は自信ありげに言った。

「いいよ。やってみる」

 美月はしらばく考えた後に答えを出した

「じゃあそういう事で」

 そう言うと彩は部屋を出た。


 慌ただしい忙しい日々が過ぎていってそしてついに仮合わせの日がやってきた。

 美月は事前に明里と学園の前で待ち合わせをしていた。

 すると明里が走ってきた

「待ちましたか?」

 明里が息を切らせながら言った。

「そんな事ないよ。それより早く行こう」

 美月は早く明里の喜んだ顔が見たかった。

「どこに行くんですか」

 明里は歩きながら話した。

「作業室にあるからそこに行くんだよ」

 美月は作業室へと案内した。


 作業室に着くとたくさんの人がいて色んな服の試作品があった。 

「服はどこにあるんですか?」 

 明里は辺りを見回して尋ねた。

「あそこにあるよ」

 美月は服がある方へと連れて行った。

 そこには赤のチェック柄のワンピースと黒のレザージャケットと黄色のニーハイがあった。ワンポイントにレザージャケットの上にはひまわりのコサージュがあった。

 それを見た明里は数秒間固まっていた。

「これ本当に私が着てもいいんですか?」

 明里はハっとして言った。

「もちろんだよ。明里ちゃんのために作ったんだから。普通はパターンはパタンナーが作るんだけど学校のファッションショーだからね。うまくできてるかわかんないけど着てみて」

 美月はドキドキしながら言った。

「私この服似合ってますか?」

 明里は嬉しそうに着て言った。

「イメージぴったりだよ」

 美月はちゃんと着こなしていた明里を見ていった。

「ありがとうございます。この服を着れると思うとワクワクします」

 明里は思わず笑みがこぼれた。

「じゃあ、よろしくね。次回は前日リハーサルの時ね」

 美月は念を押した。

「こちらこそよろしくお願いします。今から楽しみにしています」

 明里はそう言って帰っていった。


 美月はまだ作業室に残っていた。

 その時に大河を見つけたが部屋を出ていた。

 美月は急いであとを追って声をかけた。

「あの、待ってくれる」

 美月は息を切らして言った。

「なんだよ。早くして」

 大河はそう言っても駆け寄ってきてくれた。

「こないだの言葉を聞いて思ったの。人が求めてもらえる服を作って幸せにしたいんだ。だからデザイン画を書き直したの。それでファッションショーで明里ちゃんが着た姿を見てくれないかな?」

 美月は精一杯大河にぶつけた。

「しょうがない。どんなものか見てやるよ」

 大河ははにかみながら言った

「それとね…」

 美月は言いづらそうに彩との間にあった事を話した。

「おまえバカじゃないのか?もし負ければデザイナーを諦めることになるんだぞ。それでいいのか?」

 大河は呆れつつ心配した。

「私、思い出した事があるんだ。それはお母さんがデザイナーを辞めたあとでも服を欲しいっていう人には作ってあげたいってその人たちは喜んでくれたの。だから情熱と幸せにしたいって気持ちさえあればならなくても服で幸せにすること出来るんじゃないかな。でももちろん負けるつもりもないけどね」

 美月はイキイキして言った。

「目指してるところが違うんだな」

 大河は少し寂しいそうに言って去っていった。

 美月は言った事を後悔した。なぜなら大河のあんな顔を見るのは初めてだったからだ。

 でも美月は毛頭負けるつもりはなかった。

 

 緊張が入りまじる中でファッションショーリハーサルの日が来た。

 美月は直接、会場に行ったが広くて唖然した。でもすぐに引き締めた。

 すでに準備を始めていた。

 そんなところに遅れてきた彩がやってきた。

「遅れてごめんなさい」

 バツが悪そうに謝った。

「こっちも今来たところだから。それより今日大丈夫?」

 美月は明里の心配をした。

「はい。それより本格的ですね。たくさん人がいてびっくりしました」

 明里は会場の雰囲気に圧倒されて言った。

「リハーサルは音楽とか照明の準備とかするんだよ。それでモデルの位置とか指示するんだよ」

 美月は丁寧に説明した。

 その説明をしていると北見先生がモデル達を呼んでいた。

「直ちにモデルは試着してデザイナーと一緒に舞台裏にきてください。まもなくリハーサルが始まります」

 美月たちはアナウンスを聞くと急いで試着して舞台裏に向かった。

 そこにはたくさんのキレイな服を着たモデルとデザイナーがいた。

「今からみなさんはランナウェイを歩いてもらいます。順番は札に書いてある番号順通りしてください。その番号はあしたまで使うから覚えておいてください」

 北見先生は番号札を渡しながら言った。

 明里の番号は12番だった。

「それではリハーサルを始めます」

 北見先生の合図で始まった。

「スポットライトが当たるからまぶしかもしれないから気をつけてね」

 美月は明里の心配したが返事はなかった。

 すると明里の手は震えていた。

「大丈夫?もし不安だったら言ってね」

 美月は明里の手を握りながら言った。

「こんなにキレイな人ばかりの中で浮いてないですか?」

 明里は美月に確かめるように言った。

「私を信じてくれないかな?」 

 美月は勇気づけるように言った。

「そうですね。あなたは私に勇気をくれた人だから」

 明里は緊張が解けたかのように言った。

 明里の番号が呼ばれたのはその時だった。

「じゃあ行ってきますね」

 明里はやる気に満ち溢れたいた。

「ちゃんとみてるね」

 美月はエールを送った。


 明里は笑顔でランウェイを堂々と歩いたが緊張がこっちにまで伝わってくるものだった。

「あの子見違えたね」

 菜乃葉が美月を心配してきた

「そうだね。でも緊張するよ」

 美月は菜乃葉にだけに話した。

「全然そんな風に見えないよ」

 菜乃葉はいつもの明るい調子で言った。

「そうかな。あ、菜乃葉ちゃんのデザインした服もよかったよ。正直ほかの服は準備で見る余裕もなかったんけど菜乃葉ちゃんのは見たよ」

 美月は何かを思い出したかのように言った。


 明里が帰ってきたのはその時だった

「お疲れ様。どうだった」

 美月は明里を笑顔で迎えた。

「とにかく緊張しました。」

 明里はそう言ったが達成感いっぱいの表情だった。

「よかったよ」

 その場にいた菜乃葉が言った。

「ありがとうございます。本当ですか?」

 明里の顔がほろこんだ。

「こっちが嫉妬するぐらい」

 菜乃葉は素直に褒めた。

 美月は胸を撫で下ろした。

 リハーサルが終わったのはその時だった。

 美月たちが帰ろうとした瞬間に何も言わずに彩が通り過ぎた。

「なにあれ。ひどくない」

 菜乃葉は不満げで言った。

「別にいいんだよ」

 美月はなだめた。

「ふーんそうなんだ」

 菜乃葉は二人の態度を見てなんか変だなと思ったが言わなかった。

「もう10時だ。帰らなきゃ遅くなった」

 明里は慌てて走った。

「あ、今日はありがとう。明日は9時に今の所で待ち合わせよろしくね」 

 美月は叫んだが伝わったかどうかはわかんなかった。

 

 美月は寮に帰って自分の部屋に戻ると先に彩が寝ているのを見てあしたのためにベットに横になったが緊張で眠りにつけなかった。

 やっとウトウトしてきたら朝焼けが目に飛び込んできた。

 その時に彩が部屋を出ていく音がして美月も後ついていたらファッションショー会場だった。


 会場に入るとそこには何かを見つめている彩がいた。

 彩が美月に気づいた。

 すると彩は戻ろうとしたが美月が引き止めた。

「なんで誰もいないのに来たの?」

 美月は不思議そうに聞いた。

「最終確認よ。私はあんたみたいに緊張してなんにもしない人じゃない。

 なに、自分以外の人が不安がって緊張すると思ってるの?」

 彩は美月にイラついって言葉を浴びせた。

「そんな事を思ってないけど彩ちゃんは…」

 美月はそのあとの言葉を言い出せなかった。

「緊張とかしないと思っているの。人は見えないところで闘っているわ」

 彩は怒ってその場を後にした。


 美月は彩の言葉を聞いてなんでもっと念入りに準備をしなかったんだろうと思って後悔した。

 たが美月も何かをせずにいられなくなってそのまま会場に残って最終確認を行なった。

 すると確認していると8時になり人が続々とやってきた。


 そして9時になっても明里は待ち合わせ場所に来ることはなかった。

 美月は急いで連絡したが留守電になってあっちこっち探し回った。

 すると菜乃葉が呼びに来た。

「あ、こんな所にいた。もうちょっとで最終リハーサルだって」

 菜乃葉が美月の様子に気がついた。

 美月は来ない事を話した。

「大変だね。じゃあ北見先生に相談してくるね。美月ちゃんはそのまま探し続けてね」

 菜乃葉は北見先生に相談しに行った。

 美月は会場外も探したが見つかんなかった。


 しょうがなく美月は最終リハーサルに行った。

 もう最終リハーサルは始まっていた。

 そしたら菜乃葉と北見先生がいて美月もそこに行った。

「事情は聞いたわ。モデルがいなくてどうするの?辞退する?」

 北見先生は語気を強めにしていった。

「ちょっと待ってください。彼女を信じたいんです」

 美月は必死に懇願した。

「モデルがいないなんて話にならないわ」

 北見先生は聞く耳もたなった。

 するとその時に大河が現れた。

「もしファッションショーまでにモデルが見つかんなかったらその時は俺のモデルと順番を変えてください」

 大河が提案した。

「あなたがいいって言うなら。それじゃあ準備があるから先に行くわ」

 北見先生はしょうがなく許して去って行った。

「私もいろんな準備があるから行くね」

 菜乃葉に急いで準備をしに戻った。 

 その場には美月と大河だけが残った。

「助けてくれてありがとう。でもなんで助けてくれたの?」

 美月はふっとした疑問が言葉になって発した。

「ファッションショーでお前がデザインした服を見たいから。間違えるなよ。お前の順番は27番だ。それまでに戻って来い」

 大河は恥ずかしそうにしてその場から消えた。


 しばらくしても探しつつけたが明里は見つかんなかった。

 するとファッションショーが始まる時刻になっていて急いで美月は会場に向かった。

 裏口から向かうともうちょっとで始まろうとしていた。

 

 美月は舞台袖から客席を見た。

 すでに開場が始まっていてすると客席の後ろの方に明里がいた。

 急いで美月が明里のいる方に行ったが気づかれて逃げっていた。

 美月も後を追いかけた。

「ちょっと待って。逃げないで、ちゃんと話し合おうよ」

 美月の叫び声が響き渡った。

 明里の動きが止まって何も言わずに美月の方へ来た。

 すると二人は誰もいない部屋で話し合うことにした。


「昨日まではやる気あったのに急にどうしたの?」

 美月は明里の心変わりを不思議がった。

「実は昨日、友達からlineがあって私の悪口を言っていた男子も来るって聞いて急に怖くなったんです」

 明里はうつむきながら話した。

「わかったよ」

 美月はおもむろにその一言だけ言った。

「え、なんで?」

 明里はびっくりした表情をした。

「だって無理知恵したくはない」

 美月は明里のこと暖かく見つめていた。

「どうするんですか?」

 明里は戸惑いながら言った。

「デザイナーとしては失格かもしれないけど棄権するわ」

 美月はひとつひとつ言葉を噛み締めながら言った。

 明里は言葉を失った。

「ただこれだけは覚えておいて。明里ちゃんはひとりじゃないよ。だってなんであの服をデザインの色したかわかる。黒は自分を見つめて目標に向かう事ができるし赤はやる気が出て積極的になるし黄色は気持ちが明るくなる。そしてひまわりにはあなたは素晴らしいって花言葉がある。そういう意味を込めて作ったの。だから明里ちゃんには必ず思ってくれる人はいるよ」

 美月は優しく見つめながら語りかけて部屋を出ようとした。

 すると明里は先回りをして美月のそばに来た。

「私、やります。美月ちゃんが作ってくれた服が着たいです」

 明里は何かを決意したかのように頭を下げた。

「本当にいいの?もう後戻りできないんだよ」

 美月は確かめるように聞いた。

「はい。そこまで考えて作ってくれたなんて嬉しいです。もう逃げたくないしあの服を着た姿を見せたい」

明里は吹っ切れてた様子で言った。

「じゃあ早く準備しよう」

 美月は明里の手を引っ張ってメイク室に行った。


 美月は明里の手伝いをしながらメイク室にモニターがあってもうファッションショー始まっていた。

 しかも本来なら明里の出番だった12番だ。

 美月はふっと手を止めて大河の作品を見た。

 それは大河らしい繊細かつ艶やかで赤を基調にした青いハイビスカス柄の浴衣と白のスニーカーだった。

 美月が大河の作品を見とれている間に明里の支度が終わっていた。

 二人は急いで舞台裏に向かった。

 すると彩の作品の番だった。

 

 彩の作品は女の子らしさが溢れているものだった。

 それは白のタンクトップとピンクの透け編みサマーニットと水色のデニムスカートだった。

 すると隣で明里が小さくなって見ていた。

「どうしたの?」

 美月は心配になって声をかけた。

「あまりにもみなさんと会場が圧倒的で緊張してきました」

 明里はふるえ声で言った。

「大丈夫。どんな事があっても笑顔でいればいい。私含めてきっと誰かが見ててくれるよ。それに明里ちゃんは一番笑顔がいいよ」

 美月は明里を温かく包みこんだ。

 すると明里の出番が来てスタッフが呼んだ。

 明里は戸惑いながら急いた。

「ちょっとまって。明里ちゃんは私が選んだ人だから大丈夫。もしダメでもいいよ。でも後悔しないようにやりきってね」

 美月は最後にエールを送った。

「はい。いってきます」

 明里は振り返って噛み締めながら言った。


 美月はじっとしていられなくて舞台裏をグルグルと回っていた。

 すると明里がスポットライトを浴びてランウェイを歩き始めて美月のデザインした服は引き立ていた。

 美月には明里が誰よりも一番輝いて見えた。

 明里はランウェイの途中で立ち止まってジャケット脱いだらワンピース姿になってターンをした。

 すると明里は振り向きざまに今までにない笑顔で観客を魅了し戻った。

 こうして明里のモデルデビューは終わっていった。

 

 美月はいてもたてもいられずに明里のもとへ駆けづけた。

「お疲れ様。よかったよ」

 美月は明里をねぎらった。

「初めのうちは緊張したけど途中から自分でも何があったのかわかんなくなるぐらいに楽しかった」

 明里は満面の笑みでその状況を説明した

「私も最初は緊張したけど途中から明里ちゃんが変わっていくのを見て安心したよ。明里ちゃんなしじゃここまでこれなかったと思う。どうもありがとう」

 美月は喜びを分かち合うかのようにハグをした。


 アナウンスが流れたのはその時だった。

「今から公開審査が行われます。デザイナーとモデルはステージ上に来てください」

 そのアナウンスは大沢先生の声だった。


 二人は聞いた瞬間に急いで行った。

 ステージの上には順番に参加者が整列をしていた。

 二人も整列をしたら大沢先生がマイクを持った。

「各賞の発表する前に27番のデザイナーに聞きたいことがある。」

 大沢先生はマイクを持って美月の方へと話した。

 美月は緊張しながら待っていた。

「なぜあなたのモデルはレザージャケットを着ているのですか?確かこのファッションショーのテーマは『夏に似合う服』でしたよね。レザーだと重いように感じるのですがなぜレザージャケットを選んだのですか?」

 大沢先生は指摘点を言った。

「あえてレザージャケットにしたんです。あんまり夏に着るイメージはないと思います。でも、夏に似合うカッコいいものとかわいいものを作りたかったんでモデルの彼女と服によってその両方の魅力を引き出すことを考えたんです」

 美月ははっきり伝えた。

「そうですか。ありがとうございました」

 大沢先生は何かを考えたからそう言った。

「では結果発表に移ります」

 北見先生は何もなかったみたいに言った。


 美月は緊張して自分の手をいっぱい握り締めた。

 結果発表はだんだん行われていった。

「次は3位です」

 北見先生が進行を進めていった。

「エントリーナンバー8番菜乃葉さんです」

 北見先生は微笑みながら言った。

 菜乃葉は呼ばれた瞬間驚きながらも喜んだ。

 それをみた美月は自分も頑張ろうと思った。


「では準優秀賞結果発表に移ります」

 北見先生が言った瞬間にスポットライトが光りだした。

「エントリーナンバー26番彩さんです。」

 北見先生は言って彩の方を見た。

 彩は笑顔でいながらもどこか悔しそうだった。

 美月は一喜一憂していた


「では最後になりましたが優秀賞の結果発表となります」

 北見先生は息を飲んで言った。

「エントリーナンバー12番大河さんです」

 北見先生は大役を終えてホっとひと息ついた。

 大河は言われた瞬間、しっかりと前を見据えていた。

 美月は心から喜んだがなぜか寂しかった。

 それはどういう気持ちなのかわからなった。


 大河がトロフィーを受け取る瞬間がやって来た。

「洋服に囚われずに日本の美を表現した浴衣をデザインしその上あまり見られないスニーカーと融合する発想は到底思いつくこともできない」

 大沢先生は総評を述べて大河にトロフィーを渡した。

 でも大河は満足してない様子だった。


「ここで緊急に審査員特別賞を設ける」

 大沢先生はいきなり発表した。

 そしたら会場中がどよめいた。

「では発表したいと思います。エントリーナンバー27番美月さんです」

 大沢先生は会場中の声を遮るように発表した。

 美月は何が起きたのかわからなくて呆然とした。

 まさか自分が賞を取れると思っていなかった。


 美月は賞状を受け取る瞬間がやってきた。

「まだデザインは荒削りだか発想はなかなかいいとこついていた」

 大沢先生はコンパクトの総評をまとめて美月に賞状を渡した。

 美月は受け取るときにぎこちなかったがしっかりと大沢先生の言葉を心に刻んだ。

「これで55回カブリエル学園ファッションショーを終了します」

 北見先生がアナウンスをした。

 これで嵐のようなファッションショーが終わった。


 美月たちは先にメイク室に戻って明里は着替えていた。

 そこに彩とモデルがやってきた。

「あの今時間いい?」 

 美月は彩に駆け寄った。

「なに、早くしてよ」

 そういいながら彩もモデルを着替えさせた。

「あの話の件なんだけどみんながデザインした服を見てるうちに私も負けてたくはないし辞めたくはないって思ったの。だから辞めない」

 美月は真摯に言った。

「わざわざそんなことを言わなくても」 

 彩はクスッと笑った。

 美月はあっけにとられた。

「確かにファッションショーではあたしが順位は上だったけどあなたが言うようにあなたの方がモデルと服の魅力を引き出せていたわ。だから私の方が負けに近いわ。それであなたにはちゃんと勝ちたい」

 彩はあっけからんとして言った。

「私ももう負けないよ」

 美月は目を輝きせながら言いった。

「こっちのセリフよ」

 そう言いながら彩はモデルの所に行った。


 美月も急いで明里の所に向かった。

 すると明里がすでに着替え終えていた。

「あの、今の話全部聞こえちゃいました」

 明里は申し訳なさそうに話した。

「この距離ならしょうがないしああいう話できたことも明里ちゃんのおかげだから気にしないで」

 美月はなにか心のつかえが取れたような笑顔を見せた。

「こちらこそありがとうございました。私は今まで服で何が変わるのって思っていたんですけどランナウェイを歩いた瞬間に見たことがない景色

が広がって自信を持つことができたんです。」

 そう言う明里の姿は堂々としていた。

 もう今までの明里はどこにもなかった

「なんか嬉しいよ」

 美月は達成感がいっぱいだった。

「嬉しいです。あ、このあと友達と会うんだった」

 明里は駆け足で行った。

「またいつでも来てね」

 美月は明里がわかるように叫んだ

「はい。ありがとう」

 明里はとびっきりの笑顔で振り向いて言って帰っていった


 美月は後片付けを終えて外に出たらすっかり薄暗くなっていた。

 校門を出たところで大河に会った。

「今から帰るの?」

 美月が気になって聞いてみた。

「ああ、そうだけど」

 大河は不機嫌だった。

 しばらく二人は沈黙のまま歩き続けた。


 美月は勇気を持って彩との件を話した。

「お前らしいな」

 大河は何かを悟ったかのように言った。

「大河くんってもしかしたら心配とかしてくれたりした?」

 美月は大河に駆け寄って聞いた。

「ただ、お前ならいいデザイナーになれるだろうなって思っただけだ」

 大河は空を見上げながら言った。

「え、なんで?」

 美月は耳を疑った。

「お前はあの子の魅力を引き出して助けただろう。きっと服はその人自身の魅力とか個性を引き出せるしそうじゃなくもなるだろう」

 大河は服に対する思いを言った。

 美月はそのことを聞いた瞬間、明里の顔を思い出した。

「今から時間ある?」

 大河が美月の方を向いて言った。

「あるけどなんで?」

 美月は不思議に思った。

「いいから来て」

 大河はそっと美月の手を引っ張って歩いた。

 すると男子寮の真裏に来た。


「うわーなにこれ」

 そこには美月が驚くぐらいのキレイな野原あった。

その野原には見渡す限りの星と月が出ていた。

「ここいいだろ?」

 大河は空を望み込みながら言った。

「うん。ここ今まで見たことないぐらいすごいよ」

 美月は興奮気味に言った。

「そうだろう。すごいよな」

 大河は息を飲み込みながら言った。


「ここの学園に来てよかったよ。今まではデザイナーはどこかかけ離れていると思ってでもいきなり現実なって戸惑うことの方が多かったけど今は服を着たいより作りたいの方が大きいんだよね」

美月は素直な気持ちを話した。

大河は黙って聞いた。

「小さい頃お母さんは魔法使いだって思って憧れていたんだ。でも近づいてみると決して魔法じゃなかった。大河くんたちが試行錯誤を繰り返しながら一生懸命にやってるのをみて私もこうなりたいって思ったの」

 美月は思いを打ち上げた。

「きっと服ってデザイナーが苦労とかするから誰かを輝きせることできるんだ」

 大河が口を開いた。

「そうだね。そうなれるかな?」

 美月は野原に寝転んで言った。

「わかんねーよ。でもお前にできるのは服を作って人を幸せにすることなんだろ」

そう言うと大河も寝転んだ。

「きっとできるといいな」

 美月は自分に言い聞かせるように行った。

 二人はしばらくそのまま星空を見上げていた。



























































































 

 

 

 

 

 





































































 

















































































































































































 








 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 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