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ガキ大将とチヌ釣り
しかし、私は仕掛けをからませては直すばかり。背の低い私には竹の延べ竿は長過ぎて、思うように操れない。その内に学年下の私を連れていくのがうっとうしくなったか、置いてきぼりを食うようになった。それが悔しくて、悔しくて、チヌを釣りたい私は祖父に懇願。山で切ってきた青竹を干し、その中で私の背丈に合う竿を選んでくれた。その上、すぐ仕掛けを取り替え出きるよう交換スプール3組を用意してくれた。
今度は近所の兄と同じ年のまあちゃんを誘い、丸秘のモエビ場所へ。そして、とうとう、釣り上げたチヌ。これが、私とチヌとの最初の出会いなのだ。今も少年の時のそのままに心に残って焼き付いて離れぬチヌ。その気品ある姿を今日まで変わらず追い求めている私にとって、チヌとは釣魚としての対象だけでなく、憧憬でもあるのだ。
『通えども 幾度か巡れど 逢えぬ秋のチヌ』
私はこの初めてのチヌに再び出会える感動を求めている。ノスタルジックと人は言う。だが、止まぬ釣り。この出会いと感動。心揺るがすものが他に見当たらぬのだ。