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ガキ大将とチヌ釣り

 暑い日が続く夏休み、小学校2年生の私と3年生の年子の兄。決まって行くのは、川之江市内の駄菓子屋をやっている祖父母の家。近所の子供達の集結場所でもある恰好の情報発信基地でもあった。


 一歳違いの兄と行くのは、川之江城下の西之浜と言う所で、エビを採り、小魚を掬い、竹の延べ竿でハゼを釣る。退屈すれば、どぶんと海の中。当時の海は白砂で、水は澄み、チヌ・ベラ・シマダイが群泳し、地堀りのゴカイで面白いように釣れた。しかし、私達にはどうしても釣れない魚があった。海の底一面に、腹を返しながら大集団を形成しているチヌだ。粗末な仕掛け、太い糸、赤虫針。見えている魚をひたすら狙う私達。


『釣れんのう…』


 そんな、夏が幾度か過ぎた。この頃、近所のガキ大将が毎日のように大きいチヌを釣ってきては私達に見せびらかすのだ。

『どこで釣ったん?』『どんな、仕掛け?』 トシ坊と言う名うてのガキ大将は、決してその秘密を教えてはくれなかった。やがて初秋、コオロギの鳴く朝晩肌寒くなった頃の事。意を決した私と兄は、トシ坊の後をつける。


 彼は『土居の池』と言う大きな溜め池を過ぎ、どんどん山道を登って行く。


 子供が近寄ってはいかん、と言われている、昼間でも薄暗い木が生い茂った山道だ。細いその道に不安になった私は、兄に聞く。


『どこ行くんやろか、トシちゃん…』

『知るか!』


 怒ったように兄が答える。兄とて不安が頂点に達していたようだ。トシ坊は『鴻鶴池こうずるいけ』と呼ばれる、最山際の深い池の前に立った。そのトシ坊の姿が突然消えた。慌てて池の土手を駆け上がる私達。その時、


『こら!人の後付けてきて、お前らなんしよんぞ』

 茂みから飛び出してきたトシ坊。近所でも評判のガキ大将に、私も兄も泣きそうになり、答えた。


『いや…あ、あの』

『言うなよ』

『えっ?……』

『誰にも言わんかったら、チヌ釣り教えてやる』

『えっ!ほ、ほんまに?』


 予想外の展開に、どうしてもチヌを釣りたくて仕方が無かった私達は舞い上がった。


『これで掬え』

 手杓を改良した竹製のエビ採り器。私が一掬い。

『うわあ、こ、これ…』


 一掬いで採れたエビが、無数に折り重なり合いピチピチ飛び跳ねる様は、後にも先にも恐らくないであろう、まさに恍惚そのもの。モエビの宝庫とも言える場所だった。


 それからまもなく、急速に親しくなったトシ坊と私達。兄はその日の内にとうとう念願の20センチ程のチヌを釣り上げた。 

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