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【競作~起承転結~起の怪】悪魔のドミノ倒し 喜の章 ~嘲り笑い~

作者: 眞三

第七回競作イベント! 夏のファンタジックホラー祭り開催!! 今回のお題は『肝試し』

是非ご堪能あれ!

 皆様は『天誅掲示板』を覚えているだろうか?

 それは、誰かが悪ふざけで作ったネットワーク上の掲示板であります。そこに殺して欲しい名前やプロフィールを書くと、一週間以内に書き込まれた人物が殺される、というモノでありました。

 それはただのくだらない噂、都市伝説だと皆様は思うでしょう。だが、つい先日その『天誅掲示板』が立ち上げられました。

 通報され、ネット上から消されるまでに、その掲示板には27名のプロフィールが書き込まれたそうです。

 そしてその27名は……。



 真夏の日差しがジリジリと照り付ける午前10時。汗だくではあるが、ちっとも堪えていない様子の男がアスファルトで舗装された道をツカツカと歩いていた。

 男の名は『菊池涼太』。周りで歩く人々とはどこかしら違うオーラを纏っていた。真夏日であるにも関わらず、スーツを着用し「暑い」の一言も漏らさなかった。

涼しげな表情をした菊池は吸い込まれる様に警察署へ入り、受付嬢に愛想笑いを見せ、2階の刑事一課の大部屋へ入り、デスクにドカリと座った。

 そう、彼は刑事である。

 部屋はガランとしており人数は少なく、残っている刑事たちはパソコンを睨みながら、苦しそうに唸っていた。


「お疲れ様です」


 相方の西藤が隣に座り、体を向ける。菊池より10歳下の新米刑事で、もぎ立ての果実の様な新鮮さが表情から滲み出ていた。


「おぅ、お疲れ。おぃ姉ちゃん!!」


 背後を通り過ぎる婦警に声をかける。


「はぁい?」


 何を注文されるのかわかっています、という感じの返事をしながら腰に手を当てる。


「オレンジジュースを一杯。なるべく大きなグラスでな」


「はいはい、いつものドロっとしたヤツね。先日、菊池さん用に大ジョッキを買いましたから、それで持ってきますね~っと」


 婦警は上機嫌に足早で給湯室へ向かった。


「……あ、僕はコーヒーを……まぁいいか。菊池さん! 明日、出張が入りました」


 西藤はデスクに置かれた書類を手に取り、菊池に渡した。


「出張? どれどれ……うぉ! なんでだよ」


 あからさま嫌そうな表情を作る菊池。どんな暑さ、疲れにも弱音を漏らさない彼ではあったが、この書類の内容には我慢ならなかった。

 その書類の内容とは『丸1日郊外の精神医療センターで、とある人物の警護』だった。


「俺たちは警備員とかじゃないんだぞ! それになんで俺なんだよ! 新人でも2、3人送ればいいじゃないか!」


「最後まで書類を読んでくださいよ。ご指名なんです」


 菊池はそれを聞き、苛立った眼差しを書類に戻した。

 そこには、菊池の目を疑うような事が書かれていた。それを読むたび、彼の額にさっきまでの汗とは違う、嫌な汗玉が滲み出た。


「あいつ……か」


 書類に皺を作り、溜まった唾をゴクリと飲み込む。


「えぇ……3年前の連続殺人事件を起こした悪魔からですよ」


 西藤も表情を強張らせた。

 2人の間に緊張が走る中、婦警が頼まれたオレンジジュースを菊池のデスクにドンとワザとらしく音を立てながら置いた。


「へい、オレンジジュース大ジョッキお待ち!」


「お、遅いじゃないかよ! ったく」


 菊池は取っ手を乱暴に持ち、一気に果汁100パーセントの液体を流し込んだ。満足そうに唸り、ジョッキをデスクに叩き付ける。


「うっし……で、話の続きだが……」




 3年前の連続殺人事件。当時は新聞で書き立てられ、日本中で大騒ぎになった事件だった。

 ネット上で冗談交じりに騒ぎになった『天誅掲示板』これに書き込まれた者達が次々に殺害され始めたのだった。

 朝というだらけ切った時間帯の隙を付いて暗がりへ拉致し、惨殺するという悍ましい事件だった。

 この事件で犠牲になった数は27名。どの人物もナイフで滅多刺しにされ、内臓を引き摺り出されていた。

 マスコミはこの犯人を『日本の切り裂きジャック』などと呷ったが、犠牲者が10名を超えた段階で報道規制対象事件となった。最初の犯行から半年後に犯人は逮捕され、その時に大々的に報道された。

 

「悪夢の半年、でしたね」


 西藤は自分で淹れたコーヒーを啜りながら苦そうに唸った。当時、彼は交番の警官であり、朝の通学路などに目を光らせていた。


「そして、俺たちは完敗した」


 この事件には裏があった。ニュースでは犯人は逮捕されたと報道された。だが事実は犯人の自首が幕引きだった。

 当時、汚職や飲酒運転などで知名度を失いかけていた警察機関が名誉回復のために情報を操作したのである。

さらに、犯人は即時死刑判決を受けたと報道されたが、これもウソだった。

犯人は弁護士を通して、自分の頭や心の異常さを訴え、不起訴となったのである。その後、彼は精神医療センターの犯罪者病棟へ入院した。


「しかし、なんで今になって……しかもこいつの警護だと?」


「先輩をご指名な理由もわかる気がします」


 自首してきた犯人の取り調べをしたのが、菊池だった。


「何から警護するんだ? 誰かが殺しに来るとか、か?」


「電話の話では、そいつが先輩を呼ばないと舌を噛み千切るとかなんとか……数日前に手首の脈を食いちぎって騒ぎになったそうです。今は拘束服と鎮静剤で大人しくしているそうですよ」


 不気味な話に眉を顰め、舌を出しあからさまに嫌そうな表情を作る菊池。それを見て、ため息を吐きコーヒーを一口啜る西藤。


「行けばいいんだろ、行けば。おぅ姉ちゃん、同じのもう一杯!」


 菊池は空のジョッキを婦警に渡し、喫煙室へ向かった。

そんな彼の背中を見ながら婦警はため息を吐いた。


「ったく、ここはジュースバーじゃないぞ! しっかし何で毎日オレンジジュースかなぁ?」


 その問いに、西藤が答えた。


「オレンジジュースって、天然の抗鬱剤って呼ばれているんだ。つまり……そういうことだ」


「疲れやストレスの溜まるお仕事ですもんねぇ……」



 次の日、2人は郊外にある精神医療センターへ向かった。日差しが昨日よりも地を照り付け、影がまるで焦げ跡に見えるほどの真夏日だった。にも拘わらず、菊池はスーツの上着を脱がなかった。


「がまん強いっすね」


 上着を脱ぎ、ワイシャツを捲った西藤が滝の様な汗をタオルで拭いながら口にする。


「この仕事は忍耐だからな」


 オレンジジュースの缶の中身を一気に飲み下し、ゴミ箱に捨て、医療センターの門を潜る。

 世間一般では精神病院は、まるで『お化け屋敷』『サイコの集まり』『怖い院長』などの印象が強いと思われる。

 だが、この精神医療センターはそれらの印象に疑問を抱かす程の外見をしていた。清潔感溢れる真っ白な建物に、毎日手入れされているのかと感じるほどの大きな庭、広い散歩スペース、運動場などが備わっていた。


「こんな老人ホームがあれば、退職後お世話になりたいな」


「ここは精神病院ですがね、先輩」


 院内で受付を済ませると早速、院長が現れる。頭部の禿げ上がった初老の男だった。ワザとらしい作り笑顔が2人の鼻をつく。


「ようこそいらっしゃいました。河島と申します。ここの責任……」


 長々と自己紹介を始める河島の口の前に指を持って聞く菊池。


「あの、早速ですが院内を案内して貰えませんか?」


「あ、はい……」


 と、菊池は河島に院内を隅々まで案内させ、防犯カメラの角度、スタッフ、警備室、緊急用通路などをチェックした。内部は都内の医療センターと何ら変わりなく、自然の光が入り込む明るい印象が菊池たちの目に映った。ここに入院する患者たちへの対応も行き届いており、興味の眼差しで眺めていた西藤も感心していた。


「で、奴は?」


 菊池は腕を組みながら表情を強張らせた。先ほどから入院患者たちをひとりひとり見てきたが、少々不自然に思える節が彼にあった。『顔見知り』がひとりもいないのだ。


「はい、地下の病棟です」


 河島は白衣のポケットから鍵束を取り出し、『関係者以外立ち入り禁止』と表記されたドアの前に立ってノブに鍵を入れて捻った。


「貴方達が逮捕した人々は殆どこちらに」


「臭い者には蓋、か」


「そういう意味では……」


 と、階段を降る。次第に自然の光が届かなくなり、奥から不気味な声が耳に触り始める。すると院長が振り返り、菊池たちに警告をした。


「いいですか? 無用な言葉は口にしないで下さい。相手からの質問も答えず、沈黙を守って下さい。そして何より、ドアの小さな窓の向こう側を見ないようにしてください」


「まるで『羊たちの沈黙』だな」


「現実は、それ以上ですよ。貴方たちはここを『犯罪者の刑務所逃れ』なんて呼ぶようですがとんでもない……」


 苦しそうな表情を覗かせた院長はいくつものドアのカギを開け、医療センターの『犯罪者病棟』へと脚を踏み入れた。

 菊池たちが入った途端、両脇の監房が騒がしくなった。すると、連鎖反応を起こすように手前から奥へと、そこにいる『患者達』が喚き始めた。


「俺の、俺の目を返せぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ねぇ! ねぇ! その腰の銃で俺を撃ってくれない? 楽になりたいんだよぉ!」


「ワンちゃんだ! こっちへおいでおいで~♪」


 異常がそのまま声となって彼らに襲い掛かる。菊池は平静を装っていたが、西藤は声をかけられる度に肩をビクっと痙攣させ、冷や汗を垂らした。目を向けると、小窓に張り付く目で睨み返され、まるで怨霊でも見たかのように目を丸くする。


「よそ見をするな」


 西藤の後頭部を優しく引っ叩き、我に返させる菊池。


「あ、ありがとうございます……」


 しばらくこの地獄にも似た通路を歩き、一番奥の監房に辿り着く。部屋の番号は『0-24』とあった。この部屋に、3年前の惨劇を引き起こした男が閉じ込められていた。

 河島が鍵で監房のドアを開けると、部屋の住人からの視線がふたりを襲った。


「久しぶりだな、野沢」


「……やっと来てくれたね、菊池刑事」


 監房の奥で拘束服を着せられた男は、はっきりとした瞳で菊池の目を見た。幽鬼の様に痩せ細り、目の下が真っ黒になっていた。


「ふたりで話がしたいんだが、いいかな?」


 野沢が口にすると、菊池は黙って頷き、他の2人に頼んで出て行ってもらった。ドアを閉め、腕を組む。


「なぜ、俺を呼んだ?」


「俺が死ぬ前に、あんたに伝言があってな……」


「死ぬ? 伝言? どういう意味だ?」


「俺は今夜、ここで死ぬ。いや……連れていかれる予定になっているんだ。その時、伝言を渡す。『あいつ』はそう言ってた」


 強調された『あいつ』の部分に首を捻る菊池。


「あいつとは一体? 戯言なら、このまま帰ってもいいんだぞ」


「戯言? くくく……そうやって耳を塞いでも無駄だぞ、菊池刑事」


 野沢は不気味に微笑むと、天井を眺めた。


「俺は何人、殺したっけ?」


「27人だ」


「いや」


 野沢はまたクククと微笑み、菊池の目を睨んだ。


「26人だ。そう、13人目だったか……そいつは殺しそびれたんだ」


「……なんだと?」


「俺が殺しに向かう前に、13人目が横取りされたんだ。あの頃は報道規制されていたから、当時は知らなかったが……その13人目は俺が殺したことになっていたよな? 資料で見たぞ。全く同じ手口だったそうじゃないか」


「初耳だ。俺が取り調べをした時は確か……」


「そうだな、27人を殺した事は認めた。だが……それはある人との約束の為だ」


「約束だと? 誰と?」


「それは、お楽しみだ」


 野沢は菊池の困惑する表情を楽しそうに見つめながら、相変わらずクククとほほ笑んでいた。


「ふざけるなよ! 俺はここにおちょくられる為に来たわけではないぞ! お前を警護するためにここへ……」


「それはタダの口実……って言ったら帰るか? それは困るからこう言おう『子を殺された遺族が復讐しにくるよぉ! だから刑事さん! 助けてください!!』…満足か?」


 憎たらしく微笑む野沢に、菊池の堪忍袋の緒が切れた。


「貴様ぁ!! 罪もない27人を殺して罰を逃れてこんなところでヌクヌクと暮らしやがって! 俺がそれに納得していると、満足していると思っているのか!!」


「罪もない……か? お前が一番よく知っているんじゃないのか? 27人がどんな奴らだったか……」


「な……っく」


 鼻を小突かれたような痛みを覚え、眉間にしわをたっぷりと寄せる。相手の微笑みに胃の中が焼け爛れ、堪らず監房から退出する。


「院長。今夜、我々は警備室のモニターでここの様子を朝まで見張ります。何か異変が起きたらすぐにご報告を」


「わかりました。しかし、いち患者の我儘にここまでされると、複雑ですね……」


「全くです……おい西藤。コーヒー飲んでおけ」


「はい。そこの所は張り込みと変わりませんね」


「忍耐の使いどころだ。あ、院長。オレンジジュースはありますか?」


「もちろんです。ここをどこだと思っているのですか?」




 深夜の2時10分前。警備室で菊池と西藤は飲み物を片手にモニターを凝視していた。彼らの背後には専属警備員が2名、菊池たちの背中を見ていた。


「貴方達は、こんな光景を毎日見ていて、変にならないんですか?」


 西藤は警備員に問いかけながら犯罪者病棟のモニターを指さした。

この病棟には廊下に2台、各監房に1台ずつセットされ患者達の様子が映し出されていた。患者達は皆、カメラを凝視し、ある者は尻を出して笑ったり、またある者はどうやってか壁を昇りカメラに己の顔をアップに映したり、と遊んでいた。

 肝心の野沢はというと、監房の中央で胡坐をかき、じっとカメラを見据えていた。


「もう慣れましたよ。それに、ここに侵入する奴なんていませんよ。肝心なのは脱走患者を出さないように気を配らなくてはならないのですが、当院は患者を押さえつけるような事はしませんし……そんな騒ぎは上の階では一度も起きていませんよ」


「それならいいんですがね……」




 医療センターの外は真っ暗で、背の高い電燈がチラチラと明かりを灯しているだけだった。風の音が心地よく流れ、木の葉をさらさらと揺らす。

穏やかな真夜中だった。

 時計が深夜の2時を指す。

 すると、院の門の外に白い靄がかかり、ゆっくりとそれが門を潜った。まるで煙の様にそれが医療センターの入り口に差し掛かり、扉の隙間へと入り込んだ。

 そのことに誰も気づいてはいなかった。だが、犯罪者病棟0-24号室にいる野沢だけがそれに気が付いたかのようにニタリと笑っていた。



 いきなり停電したかのように建物の明かりが落ちる。同時にモニターの映像も真っ暗になり、センターが漆黒に覆われる。


「停電か。雷でも落ちたか? 非常電源とかはないのか?」


 冷静に菊池は警備員に問いかけた。


「あるはずですが……それらも落ちたのか? まさか、ありえない!」


「あり得ているじゃないですか! 僕、ちょっと見てきますね!」


 西藤は懐中電灯を片手に警備室を出ようとした。すると、菊池が彼の懐中電灯を取り上げ、椅子に座らせた。


「俺が見に行く。お前は院長に連絡し、至急電源を復旧させるように伝えろ。で、電力が戻り次第、モニターで俺に変化はないか携帯で報告しろ」


「わ、わかりました……」


 菊池は気合を入れるように両頬を叩き、懐中電灯のスイッチを入れた。交番時代のパトロールを思い出し、苦笑する。


「まるで肝試しだ。さて、行くか」


 昼間の野沢のセリフに違和感を覚えながら犯罪者病棟の扉へと向かった。ジャケットのポケットから院長から預かったスペアキーの束を取り出し、鍵を開ける。真っ暗闇の階段を降り、いくつものドアを開錠し、野沢のいる監房を目指す。


その道中、予測していた通り、異常者たちからの手厚い歓迎を受ける事となった。


「なぁ、こんな真っ暗闇じゃあ目はいらないだろう? 俺にくれぇぇぇぇぇ!」


「夜這いか? 刑事が俺を夜這いにきたぁぁぁぁ!!」


「なぁなぁワンちゃん! 鍵をおくれ! 鍵を!」


 菊池はそれらの声には耳を貸さず、黙って歩を進めた。彼らには何を言っても刺激になるとわかっていた為、「黙れ」の一言も口にしなかった。

 すると、病棟の奥、野沢のいる監房から笑い声が轟いた。昼に面会した時の微笑みではなく、まさに爆笑ともとれる大声が奥から鳴り響いた。


「……なにが起きた?!」


 菊池は歩を速め、野沢のいる監房へ向かった。

 鍵を取り出し、急いで扉を開ける。


「な、なんだ……と……!!」


 同時に電源が回復し、光が戻る。

 部屋は真っ赤に塗り潰され、中央には真っ白になった野沢が転がっていた。菊池は急いで彼の脈を調べたが、時はすでに遅く彼の鼓動は止まっていた。

 彼の死に顔はとても不気味で、口はまるで裂けたかのようパックリと開かれ、目も大きく開かれていた。菊池には、死因は大爆笑の末の窒息死の様に思えた。

 そして、部屋の壁には赤黒く『次はお前だ』というメッセージが書き殴られていた。


「こ、これが伝言?」


 菊池は唾を飲み込み、目を擦った。彼はこの文字は野沢が書いたものだと思ったが、調べてみると、指先には血は一滴も付いておらず、それどころか傷痕、吐血の痕などもなかった。さらに、この監房には絵具どころかクレヨンの一本も置かれてはいなかった。


「どうやってこれを?」


 野沢の死因すらわからず、混乱する菊池。

 すると、今度は監房の外から笑い声が響いた。

 まるで人を嘲るような重々しくもどこか軽い、不気味な笑い声が菊池の耳に直接入り込む。まるで彼に当てたかの様な笑い声だった。


「くそ、どうなってやがる! おい西藤、聞こえるか? くそ、地下じゃあ電波が!」


 一旦、犯罪者病棟から出て一階まで戻る。その間まで、彼の耳には不気味な嘲け笑いが響いていた。



翌朝、地元警察が到着する。停電の原因、野沢の死因など全てが現場ではわからず、詳しい鑑識の結果は都へ戻った時に報告を貰うことになった。

菊池が驚いたのは、野沢の監房の血文字が西藤を連れて戻ってくるときには消えていた事だった。


「先輩、今回のは……いったい、なんだったんでしょうか?」


 帰りの社内で西藤が問いかける。


「俺に聞くな」


「わけがわかりませんよ。一応今回は野沢の警護が我々の役目だったわけですが……あぁもう! 本当に僕たちは……馬鹿にされたとしか」


「そうかもな。俺たちは馬鹿にされにあそこへ行ったのかもな……」


「そんな……やりきれませんよ、そんなの」


「毎回そうじゃないか。犯人に裏をかかれたり馬鹿にされたり逃げられたり……俺たちの仕事の半分は毎回これだ。今回も、そうだったってわけだ」


「まぁ、考えようによっちゃぁそうですが」


「だから、報告が来たらまた真実を追えばいいじゃないか。それまで、待とう」


 励ますように西藤の肩を叩く菊池。だが、彼の掌はずっと汗ばんだままだった。



 皆様は『悪魔』をご存じでしょうか? もちろん耳にした事はあるでしょう。

 では、彼がどんな奴かを知っていますか? 皆様は文献で色々な悪魔に対しての知識をお持ちでしょうが、どれも当たりでありハズレでもあります。

 簡単に言えば彼は人間を見下して笑うのが好きなヤツなんです。それが趣味といってもいいでしょう。

 そんな彼が、最高に嘲り笑う時、下拵えにどんな事をするでしょうか?


この短編は次回の競作に続きます。ご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] どうもです!描写が丁寧で困りもの(^^)ショックを受けて再度、自分の作品見直したくらいです。ホラーでも本格的なサスペンスなんですね。複数のネタが合わさって、そして「オレンジジュース!」小物も…
2013/07/17 19:43 退会済み
管理
[一言] 大抵のミステリーやサスペンスは「犯人が逮捕された(もしくは死亡)」時点でENDとなりますが、この物語は「そこから先」を描こうという野心作とみました。 精神病院の異様な描写から「彼」の死に様ま…
[良い点] 以前と比べるとかなり描写が丁寧になり、小説としての重厚さが加わってきましたね! 読んでいて凄く感じました。 やはり描写に拘ると長めになってしまいますよね。 とっても刺激的な物語です。 こ…
2013/07/15 00:11 退会済み
管理
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