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短編集(R15)

フェイクキス

作者: 麻弥

年齢制限は設けていませんが、恋愛要素濃いめです。




 

                  

私達は恋人なのだろうか。そうであって違うような。

精一杯の想いが彼に伝わっていると良い。

こうして彼と同じ夜を過ごせるのはなんて幸せなのだろう。

いつかは温かな陽射しが降り注ぐことを願い、名前の通りのクールな彼と一緒にいる。

時々とても寂しそうな顔をする彼のことを私は、どうしても嫌いになれない。

寧ろ、会うたび同じ時を過ごす度に想いは募るばかりだった。


顎を持ち上げられると視線がぶつかった。視線を高くして長身の彼を見上げる。

鋭い眼差しに走る物は……?

女の眼差しであなたを見つめていることを見抜かれている。

いつからこんな眼差しを覚えたの、私。

眼差しが揺れる。心臓が高鳴り始めた。

「……ん」

唇を触れ合うと温度の無さにゾクリと体が震える。

こんなに冷たいのは、きっとあなたの気持ちが分からないから。

見えなくてただ底知れぬ闇に引きずり込まれる。

「……」

唇を離し、彼が何かを囁いた。

聞こえぬ程微かな声。こちらに気取らせぬようにしているみたいだ。

また唇が触れる。今度は熱い物が唇の中へと入り込む。

唇自体は冷たいのに、まるで燃え盛る炎。

こちらのくすぶる炎を揺さぶって、感情を導いてゆく。

好きと言う言葉も無いままにキスは繰り返され、続く行為も……。

抱きしめる力はいつも強くて、だからこそ、彼が本気だと信じていたい。


耳たぶに唇を感じ、その後指先が触れてピアスを外す。

落とされることなく、側に置いてくれる優しさ。決して乱暴に扱わないのね。

背伸びをして、彼の背に腕を回した。

「好き……」

私の言葉を聞いているのかいないのか彼は黙って、首筋にキスを落とした。


甘い声が耳元でリフレインのように木霊する。

嘘偽りのない本心に恐ろしささえ感じた。

聞きたくない。そんな言葉。どうか言わないで欲しい。

俺の心中の願いを彼女は悉く無碍にする。

この関係を続けるには、余計な物を持ち込んではいけないのだ。

痛みが胸を襲う。卑怯な俺に、もっと苦しめと。

好きだと言えないままでいいのかともう一人の俺が問いかける。

本当の気持ちを伝えたい想いも強くて離れられない。

もしかしたら感受性の強い彼女には、言葉よりも確かに伝わっているのかもしれない。

激しさを抑えられないことに自分自身が一番気づいているから。

黒髪に指を挿し入れて梳いて、その艶やかな感触を味わう。

俺の唇は冷たいだろうか。何も言わない俺に彼女は時折目を伏せる。

口づけと愛撫は加減を知らず。

彼女も同じように俺の心を手探りで掴み取ろうとしているのか?

だから、矛盾した関係でも側にいる。

壊れそうな華奢な体を何度も抱きしめた。

激しく強く。

誰よりも愛していると言葉でいつか伝えられたら……。

初めて会った時、一目で惹かれた女に。

もう一度キスを重ねた。頬を伝う涙を唇で掬い取る。

立てられた爪に彼女の激しさを感じて、妙に嬉しくなる。

こんな男だけれど、側にいてくれる彼女。

いつかは本当の気持ちを伝える。


今はフェイクキスしか与えられなくても

待っていてくれるなら……。


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