微睡の死
蒼ざめた肌をした美しい人が微笑む
暗闇から、鑿で整えた細い手を差し伸べる
ひいやりと包み込むのは、大理石の冷たさだ
優しく、無情に
怠惰に傷ついた身体を癒していく
終末の微睡が意識を覆いつくしていく
何も見えない
何も聞こえない
五感は麻痺し、思考は綻んだ
眠るように静かな泥濘に沈んでいく
そうして――永遠が、訪れた
何も変わらない
何も生まれない
何も進まない
果てに辿り着いたのだ
それは、誰にでも残された、最後の救い
希望という罪悪から逃れるための、最後の手段
今日も私は、眠りに耽る
死を想いながら、現実に目を背け、やわらかな毛布にうずくまる
日々を生きながら、少しだけ――死んでみる
目覚ましの鐘に呼び戻されないよう、針を止めて
能動的に生きることをやめ、穏やかな死に誘われていく
瞼を閉じれば、月の光のように優しい死の気配がある
いつでも、すぐ傍に感じる
生に疲れた者を、彼は微笑みを湛えながら甘くとかしてくれる
それは、死神の子守歌だ
他愛ない冗談を言いながら笑いあっていたはずなのに――
どうしてだろう、すっと温度が下がっていく時があるのだ
それはもう唐突に
その場から消え失せたくなってしまう
何気ない日常を過ごしていただけのはずなのに、
ふと、死んでしまいたくなる
身を、投げ出したくなってしまう
――ああでも、車輪に巻き込まれたら痛そうだなあ
ぼんやりとそんなことを考えては、思い止まる
そんな風に――
うつらうつら、揺らぎながら、生きている
仮初の優しさに引き摺られながら、
生と死の狭間を漂っている
死ほど分からなく、死ほど興味をそそるものはない。
他のことなら商売っ気のある誰かがちょっとしたエッセイや物語にして残してくれているだろう。でも、死に関してはそうはいかない。死は、ひとりひとりが持っていってしまう。書き残すことなく、誰かに伝えることもなく。
死とは恐れを誘うものであるという。
だが、命の絶える時に思いをめぐらしても、漠然とした果敢なさをもたらすだけだ。
――あるいは、救いかもしれない
――少しだけ、死んでみる。
そんな思いを綴った死の詩。怠惰な彼には餓死が相応しい。