−脱獄者−
−???−
はぁはぁ、何なのこの監獄!
脱獄する人達のこと全然考えてないじゃない!
無駄に広いし、体力がない頭脳派のウチにはきついし。
左右にはウチの仲間が走る。
近くで焦る監視員の足音が聞こえると、ウチらは再び闇に消えた。
−『廃墟の町』町長−
俺が町長室でのんびりと座って昼飯を食べてる時、突然サイレンが鳴り響いた。
俺は驚いて、食べていた団子を喉に詰まらせた。
「んっぐぐ。」
俺は急いで机の上の水に手をのばすが、焦るあまり机の下に落としてしまった。
座った状態のまま取ろうと身体を折ってとろ−
「失礼します!」
監視員が勢いよくドアを開ける。
まずい…
問一、あなたの働くところの一番上の上司が団子を喉に詰まらせ、水を拾おうと身体を折ってたらどう思いますか?
普通の会社なら何も思わないだろうが、なんせ大監獄だ。
しかも、俺はシリアスを皆の前では演じてるし。
俺は急いで座り直そうとして、焦るあまり椅子から落ちた。
もうオワッタ…
落ちた拍子に団子を飲み込めたのはラッキーだけど。
しかし、予想外に監視員は笑うでもなく、もの凄く心配した顔でやってきた。
「町長!あいつらにやられたのですか?くそぅ、あいつら先に町長を狙うなんて…」
なんか壮絶な誤解をしてるようだ。
「やつら、町長を窒息させようとしたのですね。それで、椅子から落ちてしまわれた。大丈夫ですか?すぐに魔法を無効化しますね。」
いや、全然違うし。
ってかやめろ、『魔法封じの札』(マジックキーパー)を貼ろうとするな。
それは貼られた者が魔法を使えなくなるだけだから。
「いや、大丈夫だ。
それよりあいつらって何だ?」
「さすがですね、窒息なんて俺堪えられないっすよ?
あいつらのことですが、囚人番号10013、10014、10015が脱走しました。」
監視員はなんか俺を化け物扱いした後、報告した。
俺は最初彼が何言ってるかわからなかった。
……脱走?
ここは最新鋭の設備を導入した『廃墟の町』だぞ?
収容してる者には皆、先の『魔術封じの札』と手足に物理的な枷を、身体全体に魔術的拘束をかけてある。
魔術的拘束とは、牢を出ようとすると出入り口のセンサーに反応し、牢の内側に弾き飛ばされる魔術だ。
絶対に脱獄できないはずだ…。
「彼らの情報は?」
俺は冷静沈着を装うが、額を冷や汗が伝う。
「10013号は、美土 冥利。『金の錬金術師』。
10014号は、本田 零。使う魔法は『童話魔法』。
10015号は、ルカ・リズィー。『花園の創設者』
です。」
監視員達で作成したのだろうか?
彼は3枚の書類を見ながら、かい摘まんで説明する。
おそらく、脱獄犯の情報が書いてあるのだろう。
「わかった。ところで、それはあいつらの情報か?」
「そうですが、何か間違ってましたか?」
監視員が顔を青くする。町長を怒らせると殺されるという謎のデマを聞いたことがあるが……。
そこまで怯えられると少し悲しい。
「いや。それは君達が作成した彼らへの大事な手掛かりだ。
ここにいる者全員に回してくれ。」
すると、この非常事態でも監視員の顔が緩んだ。
自分の仕事が認められて嬉しいのだろうか。
俺はあまり部下を褒めないからな…。
そこまで素直に反応されるとこちらもくすぐったい。
…と考えたところで気を引き締めて、
「どうやってやつらは脱走したのだ?」
これがこのの事件で一番気になる点だ。
「まず、魔術的拘束について。
10014号、本田零が解除したようです。」
嘘だろ…
「つまり、あやつが魔法を解読したと…?」
「はい、そのようです。」
魔法とは、ある種プログラミングに似ている。
様々な魔力の分量や、その魔法準備に手を回すなど様々なコマンドで、魔法というのは形になる。
それを可視化したのが、魔法陣だ。
そして、プログラミングにわずかでも邪魔なコマンドがあると起動できないように、
魔法の構成を解読できれば逆手にとることもできる。
しかし、解読は専門の解除士という職業があるほど、専門的で難しい。
本田零…。よほどの天才なのか。
「…で、物理的な方は?」
俺は本田零は保留し、もうひとつの方を聞いてみる。
「10015号、ルカ・リズィーは種を10000倍の速度で成長させる魔法を使います。
ですので魔法に植物の種を用います。
隠し持っていたヘチマか何かを足枷と牢を繋ぐ鎖に絡ませ、錆びさせたのかと……。」
たしかに、ヘチマは茎に含む水分量が多い。
それに魔法を使わなくても半年くらいで成長するしな。
しっかし、ヘチマの種なんてどこに隠し持ってたのだか。
身体検査ではどんな物も探知できるはずだが…。
俺は今までのデータからわかることを考える。
「うーむ、つまり、やつらは手枷、足枷、『魔法封じの札』はつけたまま。しかし、魔術的拘束は破壊された…。
…といった感じか。」
一瞬の沈黙。
「あっ、はい。そのようです。」
おいおい、報告してるのはお前だろ。しっかりしてくれ。
「現在あいつらがどこにいるのかわかるか?」
監視員は監視員一人一台持ってるタブレット端末を見た。
「町長は町長室モニターを、ご覧ください。
手枷、足枷には発信機のような魔術がかけてあります。
この監獄は地下9階建てで、地上部分はゴーストタウンとしてカモフラージュしています。
この赤い三つの点が脱獄者達です。」
地下6階フロアの入り組んだ道に3つの赤い丸がたしかに点滅している。
そして、監視員は説明を続ける。
「ご存じかと思いますが、この監獄の全ての階はドーナツ状で、一階ずつ全く別の形をした町の迷路です。
ダミーの階段や、行き止まりしかない裏路地迷路などがあります。
絶対に脱獄なんて成功させませんのでご安心を。」
そう言って、俺がモニターから視線を戻した時には監視員はいなかった。
俺は監獄内全体に放送をかける。
「いいか、この監獄から絶対に脱獄犯を出すな。
何がなんでもあのコソドロどもを捕まえろ。」
どうせ、この監獄からは誰も逃げられない。
俺はのんびり座って、残りの団子を食べた。
−−町長の一言によって監視員は全員総動員された。これで、この監獄が難攻不落になったのは言うまでもない。




