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研修・・・だよな?

「おい勇者、これ全部洗濯しといてくれ!」


「はいっ!!」


「おい、勇者、部員が飲むスポーツドリンク作っといてくれるか?」


「はいっ!」


「あぁ、勇者君、寮の廊下が汚れてるから後で掃除しといてくれる?」


「はい!」


「ゆうしゃぁ~今日発売のジャ○プ買ってきて~」


「・・・はい・・」





俺がこの某大学野球部寮に来てから早くも数日が経った。あの日、「まじでここで研修かよ?」と門の前で立ち尽くした俺だったが、その後、勇気を振り絞り中へと入ったのだった。




「こんちゃーっす!」



「あぁ、なんでしょう?」←受付の人


「私、ここで、ゆっ・・勇者の研修をさせていただくことになりました、安藤ユキオと申します。不束ふつつか者ですが、なにとぞよろしくお願いしますっ!!」


そう言って、頭を下げる俺。すでにカチンコチンである。


「はぁ・・・勇者・・・ですか・・、えーっと、もしかして○×って会社の研修かな?」


「あっ、はい。そうだと思います!」



「あー、なんだ。勇者だなんて言うから、なんか怪しい宗教の人かと思ったよ・・。話は聞いてるよ。なんか、とりあえずここで研修させたい人がいるから、受け入れてもらえるか、ってね。まぁ、ここ大学の野球部寮だから、研修って言っても、たかが知れてると思うけど」


「は、はぁ・・」


な、なんだよ・・。人が勇気出して大学野球部寮に出向いたってのに・・。おまけに勇者の研修です、よろしくお願いします、とか自己紹介しちゃったってのに・・・。


もしかして俺、とんでもないところに来てしまったんではなかろうか?



「まぁ、今野球部の監督さんを呼ぶから、ちょっと待ってて」


「え、あ、はい!」



やがて、監督のご登場。


「おお、君か!この施設で働いてくれるって若者は!いやー助かったよ。ちょうどマネージャーがいなくって、人手が足りてないところなんだ。次のマネージャーが捕まるまで、しばらく働いてもらうから、よろしく!」


「え、ええ。よ、よろしくお願いしますです!」



・・なんか、話が違うぞ。おい。



だが、気づいた時には時すでに遅し。俺はこの野球部の雑用係としてこき使われる羽目となったのだ。



その後、俺はグラウンドに連れて行かれ、練習中の野球部員一同の前で自己紹介することになった。



「えー、今日からしばらくの間、お前らの世話をしてくれる安藤君だ。みんな、よろしく頼むぞ。じゃあ、安藤君、自己紹介」


監督が俺に振る。


「え、えーと、安藤ユキオです。このたび、会社の研修でお世話になることになりました。不束者ですが、よろしくお願いします」


まばらな拍手。


「あのー、カントクぅ」


と、ここで部員の一人が質問。


「研修って何のですか?手伝いが目的で来てくれてるんじゃないんですか?」


うっ、こいつ痛いところを突いて来やがる。不意打ちのスクイズといったところか。


「ん~それはだな・・。悪い、俺もよく知らないんだ。ええっと、安藤君、悪いが説明してくれるか?」


説明する・・・だと?!


「え、えーと、か、会社の研修でして・・」


「いや、だから何のための研修なのかって聞いてるんだよ」


今度は別の部員からも容赦ないツッコミが入る。ホームベースに向かって、激しくスライディングしてくるランナーのごとく。


「それは、ゆ・・・っ、ゆ・・・っっ」


「ゆ?」


部員一同の視線が一気に俺に注がれる!



「ゆ、勇者の研修ですっ!!!!」



「・・・・」



しばらくの沈黙。だが、その堰を切るかのように、周囲にどっと笑いの渦が巻き起こる!


「ぶわっはっは!!!なんじゃそりゃー!!」「あほだこいつ!!」「勇者!勇者だって!!は、腹いてぇ!!!」「あ、頭おかしいんちゃうか~!!」「ワハハ!!」「こいつ、もしかして年齢おれらと同じくらいなんじゃね?大学とか行ってねぇのかなぁ?あ、それとも勇者の学校とか行ってんのか?ははは!!」


だから言うの嫌だったんだよ!!

っていうか、俺だって好きで来てるんじゃないやい!


「諸君、静粛に!!」


監督が部員たちをなだめる。だが、それでも部員たちの顔には笑いの表情が映る。


「えー、まぁなんだ、とにかく手伝ってもらえるんだからありがたく思えよ。ってことでみんなで挨拶だ」



「よろしくおねがいしゃーーーす!!!(クスクス・・)」



そうこうして、俺はここの住人となったのであった。


そんな俺を待ち受けていたのは、冒頭で紹介したような野球部の雑用であって、決して勇者としての研修や訓練ではなかった。


そのことに対し、さすがに俺も不安を抱いた。それで資料に書かれていた、あの会社の電話番号に電話して問責してみることにした。




「はい。こちら株式会社○×、□△支店でございます」


「あの、そちらでバイトとして働いてます、安藤ですけど、田富さんいますか?」


「田富ですね、今お呼び出しいたしますので、少々お待ちください」


「はい」


「♪♪♪(クラシックかなんかの曲)・・・・」


「お待たせしてすみません。田富ですが、ただいま会議中でして、電話に出ることができません。何かご用でしたら、伝言を承るとのことですが?」


「は、はぁ・・・そうですか・・」


うさんくせぇぞ、おい。


「あのー、今勇者の研修ってことでこちらの野球部寮で雑用係として働いてるんですけど、これって本当に勇者としての研修なんですかね?やっている感じ、全く関係ないように思えるのですが・・。こんな雑用じゃなくて、勇者としてのノウハウとか教えてもらった方が、こちらとしてはありがたいのですが・・・って伝えてもらえますか?」


「はい、わかりました。ではお返事はこちらから折り返しお電話いたしますので」


「あ、はい。よろしくお願いします」



それで通話は終わった。


後日、俺の携帯には田富氏から「安藤君、この間はすまなかった。その仕事だけど、勇者としての研修としての一端を十分に担っているものだから、きちんと働くように。そちらに無礼のないよう、お願いいします。研修期間中の内容とか云々はそちらの監督さんに任せてあるから、詳しいことは彼に聞いてください。私は最近忙しいから、そこんとこよろしく。では」と留守電が入っていた。



・・・なんだかなぁ・・・。こんなんで本当に勇者になれるのか、俺?




「おい、ゆーしゃ!なにぼさっとしてるんだ!こっち手伝ってくれ!」


「あ、はい!いま行きます!」


だがしかし、俺の苦悩などお構いなしに、次々と仕事が俺の元へと舞い込んでくるのだった。




「勇者は一日にしてならず・・・か・・」

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