ジョブチェンジ
「ピンポーン」
来客が来たことを告げるインターフォンが鳴る。誰だ。俺の快眠を邪魔するのは?寝ぼけ眼のまま、俺は玄関へと向かった。
「はーい」
俺は何食わぬ顔で玄関の扉を開ける。そこに立っていたのは、何を隠そう、アパートの大家であった。
「ちょっと、安藤さん。来月分の家賃、まだですの?早く払ってくれないと、退室してもらいますわよ?」
単刀直入に大家は俺にそう告げた。これがいわゆる最後通告というやつか・・。こんな体験、なかなか出来ることじゃないぜ。はっはっは・・・。
うれしくねー。
「はい、すみません。早いうちに払いますので・・どうかご堪忍を・・」
そう言うと、大家はいかにも不機嫌そうに、「ふん、まぁ今すぐにとはいわないわよ。だけど、なるべく早くにお願いしますわよ?いいこと?」
そう言って、彼女は帰っていった。見たかあの侮蔑の眼差し・・はぁ、もうここも自由じゃなくなった。俺も働かなければならない時が来たようだ・・・。
「仕方ない、そろそろ始めるとするか、就職活動とやらを!」
俺はその後、ハローワークへと直行した。
「ここがハローワークか」
初めて来る公共職業案内所、通称ハローワーク。まさに俺のようなニートのために作られたと言っても過言ではないだろう・・。うれしくはないが。
「あのう、すみません」
俺はおそるおそる、その職員へと話しかける。
「はい。仕事をお探しでしょうか?」
「えぇ、まぁ」
すぐさま学歴や年齢、希望職種などを聞かれ、たじろぐ俺。
「・・今あなたに合ったお仕事をお探しいたしますので、少々お待ちください」
そういうと職員のお姉さんはカタカタとPCを動かしはじめた。
「お待たせしました。そうですねぇ、今ですと、こちらの仕事しか合う仕事がありませんねぇ・・」
お姉さんはそう言うと、PCの画面を俺に向けた。
「こ、これはっ!」
その画面を見て、その内容に俺は絶句した。
「職業・・・ゆ、勇者?仕事内容は・・・ま、魔物退治ぃ?」
「えぇ、そうなります」
「そうなります・・って。え、えぇ?」
魔物退治?勇者?なんだそれ?
「近頃、魔物と呼ばれる怪物たちがそこいらを徘徊しているらしいんですよ。この仕事は、その怪物らを退治する仕事ですね」
きょとんとする俺に、職員さんは淡々と説明してくれた。
「た、退治って・・。俺、格闘技とかそんなこと一切やったことないんですけど!?」
「・・・そう言われましても、今ご紹介できるのはこのお仕事だけでして・・」
「・・・・」
「昨今の不況で仕事の募集も少なくなっていまして・・・このお仕事も最近入ったばかりですからご紹介できましたが、今後はどうなることか・・・もしかしたら、今日にも別の方に取られてしまうかもしれませんよ?」
「・・・そ、そうなんですか」
仕事内容は難だが、これを逃すと俺に仕事は回ってこないかもしれない。これからの生活を考えると、ここで就職しておくのが無難か・・。
「・・わかりました。やります」
「そうですか!ではこちらにサインを・・」
こうして、俺はニートから勇者へとジョブチェンジしたのだった。