卒業パーティーと婚約破棄②
エレオノーラはアリーナと同じ公爵の令嬢で、第四王子のひとつ歳上の婚約者だ。
アリーナも幼い頃から親交があり、友人以上に親しく、よくお互いの家を行き来している。
アリーナも公爵家の令嬢として厳しく淑女教育を受けてきて、社交界に出ても充分渡り合っていけているが、エレオノーラはそんなアリーナの上をいく、同世代の中では完璧な淑女といわれている存在だ。
腰まで伸びた、陽の光を溶かしたような美しい黄金の髪。薄い唇には本日の主役らしい、彼女に似合うピンクのルージュが引かれている。
瞳はアメジスト王国の王族の血を引く証の濃い紫。
意志の強さを秘めた少し強い瞳が、アリーナは彼女の1番素敵なところだと思っている。
「わたくしが、何をしたというのでしょう?」
第四王子の元へ一歩進んだエレオノーラは、背筋を伸ばし、一歩も怯むことなく立つ彼女は、淑女としてやはり今日も完璧であった。
アリーナは人混みをかき分けて、エレオノーラ嬢の少し後ろに立つ。
まだ自分が出ていく場面ではない。
だからいつでもエレオノーラを助けられるように、彼女の少し後ろで控えることにした。
「アリーナ」
聞き慣れた少し高い声に呼ばれて、視線を声がした方へ動かすと、2歳年下のこの国の第一王女、リオネッタ・ルクシル・アメジストが足音をさせないようにそっとアリーナに近づいてきた。
「姫さま」
「何をしようとしているのかしら?お兄様は…」
「わかりません。せっかくのエレオノーラ嬢の晴れの舞台に、なんてことを…」
2人は目を合わせて、深くため息をついた。
第四王子、マルセル・ルクシル・アメジストは王族の1人ではあるものの、少し、いや、かなり学園で持て余されている存在だった。
王太子から第三王子まで、3人の王子は成績優秀で国民の手本となる王族として相応しい立ち居振る舞いで、それは人気のある生徒だった。
しかし、マルセルは暴虐無人という言葉がぴったりの人物であった。
王族であることを傘にきて、横暴な態度で教師たちも手を焼いていた。
学業、魔法、武術全てにおいて兄である第三王子に敵わないどころか、アリーナにも勝てるところがなく、研鑽を積むどころか悪態をついて授業に出ないなど、問題行動しか思いつかない人であった。
しかし、その魔力量は凄まじく、第二、第三王子が文官として王太子をサポートして、第四王子が武でサポートできれば、次代の安寧が約束されるほどだった。
その魔力量を魅力的に感じている者もいて、問題児でありながら、どこか人を惹きつける資質を持っていて一部の生徒には人気だった。
もう卒業している兄たちに変わって、第三王子が諫めたこともあるが、全く聞く耳を持たず、婚約者であるエレオノーラが苦言を呈しても、彼女に対して激しく罵倒したり、魔法をぶつけて怪我をさせたりして、とにかく手がつけられなかった。
アリーナは何度もエレオノーラが傷つけられている場面に遭遇しているため、エレオノーラを傷つける第四王子が大嫌いだった。
だからというわけではないが、アリーナは彼を完膚なきまでに叩きのめしてきた。
学業ではもちろん、魔法の授業で対決した時も、剣の授業で対決した時も、王族に対して不敬だったかもしれないが、アリーナが負けることはなかった。
ーー卒業生の大事な門出になんてことを…
今日までこのパーティの準備に関わってきたアリーナをはじめとする生徒会メンバー、教師陣、そして何より今日の主役である卒業生に申し訳ない気持ちでアリーナは頭が痛くなってきた。
なんとかして第四王子とその隣に立つ少女2人をここから退場させたいが、なかなかタイミングが掴めなかった。
王太子夫妻がいたボックス席に続く階段の3段目、エレオノーラを見下ろしているマルセルは、得意げにエレオノーラの悪事を述べている。
曰く、
フローラに厳しいことを言った。
すれ違いざまに舌打ちをした。
足を掛けられて転んだ。
リオネッタとのお茶会に呼ばなかった。など。
少し内容が薄くて意味のわからないことも言っていたが、まとめるとこんな主張であった。
「わたし、本当に怖くて…」
悲しげに俯いた少女、フローラは力無くマルセルに寄りかかった。
「かわいそうに。こんなに怯えて…」
フローラを抱きしめるマルセルの目には、ある意味正義に溢れていた。
ギロリとエレオノーラを睨んで、マルセルは左腕にフローラを隠すように抱きしめて、右手の人差し指でエレオノーラを指差し、ビシリと言い放った。
「エレオノーラ!今日卒業して学園を去るからといって、これらの罪から逃れられると思うな!」




