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雪の朝に響いた声

作者: モンク
掲載日:2026/03/09

世の中には、天気予報より当たる「天然キャラ」というものがある。

奥さんの友人――彼女はその生きた証拠だ。


普段から、どこか一本、いや二本くらいスッと抜けている。

箸置きにリモコンを置き、洗濯物と一緒にスマホを洗いかける。

そんな彼女が、今回も期待を裏切らなかった。

息子の友人が地方から受験で泊まりに来ることになった。

普通の母親なら「明日は大事な日だから早く寝なさいよ」だろう。


だが、天然母さんは違う。


「え?せっかく来てくれたんやし、前祝いしよ!“がんばりやー”の宴会や!」


受験前日に宴会を開くという、全力で逆をいくスタイル。

息子も友人も苦笑いしつつ、結局は巻き込まれて夜遅くまでワイワイ。

盛り上がりすぎて、翌日の本番がどこか遠い出来事になってしまった。


本来なら――

母は早起きしてお弁当を作り、

息子と友人はさわやかに起床し、

いつもより少し早めに出発し、

「じゃあ、いってらっしゃい!」

そんな絵に描いたような朝を迎えるはずだった。


しかし現実は、実にシンプルだった。


三人そろって、盛大に寝過ごした。


受験の日に寝坊するなんて、母親として避けるべきミス堂々の第1位。

だが彼女を知る人は皆こう言った。


「あぁ、あの人やったら……うん、あるある」


あるあるで済ませていいのかはさておき、評判は揺るぎない。


バタバタしながら車に飛び乗り、駅へ向かって全力疾走。

外はうっすら雪。車内は“無言の焦り”で満たされていた。


駅に着くと、息子と友人は時間ギリギリでホームへ駆け出した。

その背中に向かって、母が全力で叫ぶ。


「ちょっと!雪やでー!すべるでー!」


受験生に向かって「すべる」は禁句中の禁句。


走りながら息子が振り返り、笑いながら言った。


「おかあさん、それ一番あかんやつ!」


「すべるでー!」


禁句のはずなのに、不思議と胸があたたかくなる。

あの声は、失敗を恐れる心をそっと溶かす、春の気配のようだった。


天然母さんの言葉は、いつも少しズレている。

けれどそのズレは、誰かの緊張をほどき、

肩の力を抜かせ、笑顔を取り戻させるためのものなのかもしれない。


あの朝の駅前で、雪が舞う中、

受験生も母も、そして雪さえも、どこか楽しげに見えた。

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