8.
全ての仕事が終わった夜。
ここからは、私の時間だ。
私はいつものように目を閉じて、自分の中にある力を意識する。
鎖と錠で閉じ込められているそれに、そっと鍵を差し込み、ゆっくりと回す。
カチッという、音が聞こえる。
鍵が空いたのだ。
溢れた力を全身に巡らせると、身体がふわりと浮き上がった。
目を開くと、世界が変わっていた。
真昼と同じように、はっきりと景色が見える。
私の周囲には、小精霊たちが漂っていた。
いつも、人知れず助けてくれる子たちだ。
感謝を込めて、私の霊力を少し渡す。
小精霊たちはその場で跳ねながら、喜びの感情を現した。
可愛い子たちをひとしきり愛でると、私は壁をすり抜けて邸を飛び出した。
目指すのはもちろん、お気に入りの泉。
泉に映る私の姿は、いつもの平凡さとは比べ物にならないくらい美しい。
この姿を見た人は、一言目には美しいと言うので、そうなんだろう。
月の女神に例えられる今の私は、パールホワイトの髪と黄金の目をしている。
顔立ちだってずいぶん変わっているので、普段の私を知る人が見ても、私だと気づかれないだろう。
今の私は、精霊の姿をしている。
服装だって、精霊仕様だ。
何故今の私が精霊なのかと言うと、それは私の生まれに関係している。
他の精霊たちに聞いた話なのだが、私の父は精霊なんだとか。
この世界を支える最高位の2大精霊のうちの一柱、夜の精霊、夜の王とも呼ばれるその精霊が、私の父だ。
つまり私は、人間の母と精霊の父の間にできた半端者だと言うことだ。
私は父の性質上、昼は人間で夜は精霊になる特異な存在となった。
私は人間でもあり、精霊でもある。
しかし同時に、人間でもなければ、精霊でもない、そんな不思議な存在。
さらに私は父の血が濃いらしく、精霊たちから姫様と呼ばれている。
これが私のもう一つの秘密であり、知られてはいけない秘密でもある。
別に掟だとかそんなことはない。
ただ、知られると面倒なことになるから、知られないようにしている。
ただそれだけだ。
精霊の私を知られるのはいい。
人間の私を知られるのもいい。
けれど、イコールで繋げられないようにだけ気をつけないといけない。
まぁ、イコールで繋げられる人なんか、いるはずがないけど。
だって、姿形どころか気配すらも変わっているからね。
イコールで結びつける方が異常だ。
『〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜♪』
ハミングに合わせて、右へ左へ、腕を振って、水を蹴る。
私の動きに合わせて、精霊たちも踊り出す。
あぁ、やっぱり夜はいいなぁ……




