4.
「シャルフィーネ!シャルフィーネ!」
客室を掃除していると、アルバン子爵夫人である奥様の怒鳴り声が響いてきた。
何をしていても、呼び出しを受けたらすぐに行く。
でないと、さらなる叱責につながるからだ。
「はい!」
「何なのこの花は!?この花、嫌いって言ったじゃない!嫌がらせのつもり!?母親に似て、意地が悪いわね!」
……昨日、この花が好きだから、明日飾れって言っていたのに……
あと、母親に似てって、母親を知らないから、似ているのは義母のあなたなのでは?
つまり、奥様の意地が悪いと言うことだと思う。、
口で直接いえないので、心の中で言い返してみる。
心の中だけ、だけど。
「申し訳ありませんでした。すぐに取り替えます。」
「早くしてちょうだい!今日は大事なお客様が来るのよ!」
「かしこまりました、奥様。」
命じられたことは、すぐに実行しなければならない。
私は花瓶に生けられた花を抜き取ると、すぐに庭に向かった。
花には可哀想なことをしてしまった。
綺麗に咲いた花だったのに、残念だ。
花に、ごめんなさいと手を合わせて、養分になるように土に埋めた。
……赤い花がダメなら、青い花にしよう。
青い花を中心に、バランスが良くなるように数種類の花を摘んだ。
下の場所に戻って花を生けようとしたが、そこには新しい花が生けられていた。
花を生けたと思われる侍女が、奥様に褒められている。
あの花は、応接室に飾ってあった花だ。
もちろん、私が今朝生けたもの。
侍女と奥様を呆然と眺めていると、侍女がこちらを見て、ふっと笑った。
嫌な笑いだった。
応接室の花を持って来たんだとしたら、応接室には今、花がないはず。
この花を応接室に飾ろう。
せっかく摘んだ花が無駄にならなかったことは、よかったと思うことにする。
まだ朝だと言うのに、非常に疲れてしまった。
いつまでこんなことが続くのだろうか。
一生、このまま飼い殺しにされて、生きていくと言うのだろうか。
皆んなが、私を笑っている。
私一人だけが、笑えない。
この世界で、私は一人ぼっち。
誰も味方がいない。
あぁ、ダメだ。
こんなことを考えては、ダメ。
考えても仕方のないことは、考えないようにする。
でないと、暗闇に引き摺り込まれそうになるから。
応接室に入ると、予想していた通り花がなかった。
空いていた花瓶に、持って来た花を生ける。
何処から見ても綺麗に見えるように、角度を変えて確認した。
何かが頬に、ふわりと触れる。
同時に聞こえる、クスクスという温かい笑い声。
そうだった。
私は一人じゃなかった。
窓の外を見ると、今日は雲一つない快晴だった。




