挿話1
最近とある病が、密かに蔓延し始めていた。
精霊共鳴者と精霊術師にのみ罹るその病は、全く治る様子を見せない。
原因も、経路も、治療法も、何一つわからないそれは、ついに第三王子にまで魔の手を伸ばしたのだ。
いつもと変わらない朝。
時間通りに侍従が第三王子を起こしに訪れたが、いつもならすでに目覚めている彼が起きない。
それは、何度声をかけても同じ。
不審に思った侍従が天蓋のカーテンを開けると、ベッドには顔を青ざめて苦しんでる第三王子がいた。
「殿下……?クリストフェル殿下!?」
侍従は慌てて護衛騎士を呼び、医師に連絡した。
そこからは、大変な騒ぎになった。
王室の宝とも言える第三王子が、体調を崩しているのだから。
知らせを受けた医師は、急いで第三王子の寝室に駆け込んできた。
同じくして駆け込んできたのは、第三王子の母である現王妃だ。
「クリス……あぁ、クリス……大丈夫ですからね。母がついていますよ。」
現王妃は嘆きながら、第三王子の右手を、両手でしっかりと握る。
「クリスは?クリスは、どうなのですか!?早く答えなさい!!」
診察を終えた医師に詰め寄るが、医師の顔は険しい表情を崩さない。
「おそらく……最近増えている精霊共鳴者と精霊術師が罹る病だと思われます。」
「それでは……クリスは……?」
「未知の病でして、治療法は……ありません。」
「そんな……あぁ……クリス……何でもよい!何でもよいから、早く治療法を見つけなさい!!」
「全霊を尽くします!!!」
バタバタと医師が退出している間も、ずっと第三王子のてを握りしめたまま。
あぁ……どうして、可愛いクリスがこんなことに……
そのに日からずっと、時間が許す限り、現王妃は第三王子に寄り添い続けていた。
今日もまた、第三王子の寝室に向かっていたところ、前方から第二王子が歩いてきていた。
運悪く、2人は鉢合わせしてしまったのだ。
いつもなら無視をする現王妃は、今日に限って第二王子の元気な姿が気に障った。
第三王子は苦しんでいるのに、何故第二王子は平然としているのか?
抑えようもない怒りが込み上げ、第二王子を呼び止めた。
「お前、よくもそう平然といられるわね。クリスを嫉妬して、お前が毒を盛ったのではないのか!?」
「王妃陛下、私はそのようなこと、しておりません。」
「どうだか!よもやクリスに暴力を振るったこと、忘れたとは言わせぬぞ!!」
「それは小さい頃の話ではないですか。今は関係ないでしょう。」
「うるさい!許さぬぞ、絶対に許さぬ!」
周りにたくさんの人がいたが、熱くなる現王妃を止められる者は、誰もいなかった。
しばらくして、呼び出された第一王子がその場を収めた。
現場を見ていた人々は、すぐにこの件を噂した。
「第三王子が毒を盛られた」「第二王子が第三王子を殺そうとした」「王妃が第二王子を叱責した」など、あることないこと、様々な噂が飛び交っていた。
こうして。水面下にあった対立が火の手をあげて、表面化したのだった。




