25.
廊下に出ると、騒がしさが大きくなった。
この声は奥様と、お嬢様だ。
「本当にうるさいな。自業自得だろうに。何を今さら。」
……聞こえない。
私は何も聞いていない。
お義兄様の誘導で食堂に入ると、そこには、全ての使用人と当主一家が揃っていた。
そして、見覚えのある人と、見覚えのない人がたくさん。
私が食堂に姿を現したのに気がついた人から、視線が集まってくる。
「ああ、シャルフィーネ、あなたも誤解だと言ってちょうだい!私たちは確かに厳しく接してきたけど、虐げたわけではないわ!そうよね?」
「…………」
あの暴言と暴力は、厳しくの範囲なんだろうか?
私には、厳しいと虐げるの境界がいまいちよくわからない。
黙っていると、どんどん視線が強くなるが、私はどうしたらいいのか?
無意識に首を傾げていると、お義兄様がこそっと助言してくれた。
「本当のことを、言えばいいから」
……本当のことと言われても……
後で絶対にうるさくなるしなぁ……
「ここでは、落ち着いて話もできないな。ロベルト、部屋を貸してくれ。」
「わかりました。応接室に案内をします。」
5人で食堂を出ようとすると、奥様たちもついてこようとしたので、騎士が行手を阻んだ。
再び奥様の甲高い声が響いているものの、それを気にする人は、誰もいなかった。
応接室に移動して声が聞こえなくなると、皆んなのため息が重なった。
奥様の甲高い声は耳に張り付いて、聞こえなくなった今でも耳に響いているような気分になる。
「まずは自己紹介からだな。二度目まして。第一王子のラルグレイスだ。以前のようにラースと呼んでくれ。隣は精霊術師で、俺の従兄弟にあたるセルトゥス・メイナー。」
「よろしく。」
「隅にいるのは、書記官だ。会話の記録をとってもらう。」
「お久しぶりです。えっと……ラース様?」
「ああ。元気そうで何よりだ。」
「ラルグレイス殿下とシャルフィーネは知り合いだったのですか?」
「そうだ。魔物の森の調査に行った時、シャル……シャルフィーネ嬢と会ったんだ。その時から、ずっと気にしていた。監査に入ることができてよかったよ。」
そっかぁ。
あの時から、心配されてたんだ。
確かに、普通に考えたら、一人であんなところにいるのは変だもんね。
「魔物の森!?何で、そんなところに!?」
「……奥様が、ジュエリーフルーツのタルトが食べたいと言ってたから……」
「馬鹿なのか、あの人は!?」
「落ち着け、ロベルト。」
「わかっている!」
なんかお義兄様の印象が、今日一日でガラリと変わった。
こんな一面があるなんて、全然知らなかった。
もっと冷たい人だと思っていたのに。




