21.
「何をしているのかな?」
ただ耐えていた私の耳に、男性の声が聞こえる。
「ク、クリストフェル殿下っ……」
……第三王子殿下?
恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは第三王子殿下と数名の生徒。
皆一様に、眉間に皺を寄せている。
「い、いえ、あの……そう!躾!躾をしているのですわ!次も間違わないように躾をしているのです!」
「不愉快だよ。」
「まあ!そうですわね!こんな役立たずを見るのは……」
「違う。躾と称して、暴力を奮って暴言を吐きつける君の存在が不愉快だと言ったんだ。」
「……へ?」
第三王子殿下の発言に、お嬢様は意味がわからないと言いたげに困惑の表情を浮かべた。
「君!私は怪我人を寮に送っていく。担当教師に伝えといてくれ。」
第三王子殿下は、近くの学友に声をかけると、私を支えて歩き出した。
「もう!なんなのよ!失礼しちゃうわ!」
周囲の視線に気がついたお嬢様は、怒って足音を立てて去っていった。
「あ、あの……」
「心配いらないよ。君の教師にも伝えておくし、カバンも後で届けさせらから。」
「はい……あの、助けてくださってありがとうございます。」
「いや、当たり前のことををしただけだよ。それよりも、いつもああなのか?」
「入学してからは、暴力はありませんでしたが、昔はよく……」
「そうか……あちらの方が、よっぽどこの国の貴族として恥晒しだよ。」
第三王子殿下が支えてくれているものの、身体中が痛くて、歩きがゆっくりになる。
それに文句一つ言わずに、歩調を合わせてくれている。
「君は……」
「はい?」
「いや、君の名前を、聞いていなかったと思ってね。」
「あ、申し訳ありません。シャルフィーネ・アルバンと申します。」
「アルバン……じゃあ、アレが5級の精霊共鳴者?あんなのが……?」
「あの……?」
「ああ、いや、何でもない。彼女はそのうち、共鳴能力をなくすだろうね。今も、もう残っているかどうか……」
「精霊共鳴者でなくなることがあるのですか?」
「もちろん。精霊が好む正しく優しい心がなくなれば、精霊も興味を失くす。むしろ、嫌われるだろうね。」
「そうなんですね。一つ勉強になりました。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
第三王子殿下は、柔らかく微笑んでいた。
おそらく普段の第三王子殿下は、こちらなのだろう。
この微笑みは、クリスの時とよく似ている気がする。
第三王子殿下は言葉の通り、女子寮の入り口まで送ってくれた。
私はもう一度深くお礼を伝えて、寮の自室に戻るのだった。




