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選ばれた人

 荻宮茉莉子は、ターゲットを決めるとき、迷わない。

 候補は三人。

 家庭環境、金銭状況、交友関係、性格傾向。

 頭の中で条件を並べ、不要なものを削ぎ落とす。

(——決まり)

 選んだのは、同じクラスの白石透花(しらいしとうか)だった。

 家は裕福。成績優秀。

 だが最近、明らかに様子がおかしい。

 焦り、孤独、誰にも言えない不安。

 隙は、十分にある。

 茉莉子は、何事もない顔で席を立った。

「荻宮さん」

 その背中に、声がかかる。

 乃苺雪葉だった。

 いつの間にか、教室の後ろに立っている。

「今日も一緒に帰ります?」

「……たまたまね」

「じゃあ、たまたま、です」

 意味のない言葉のやり取り。

 だが、雪葉は自然に隣に並ぶ。

 廊下を歩きながら、茉莉子は先ほど決めたターゲットのことを考えていた。

 どう近づくか。

 どこで信用を得るか。

「ねえ」

 雪葉が、不意に言った。

「最近、あの人とよく話しますよね」

 指さされた先には、茉莉子が選んだその人物がいた。

 一瞬、心臓が跳ねる。

「……そう?」

「はい。昼休みとか、放課後とか」

 声は穏やかだ。

 責める様子も、探る様子もない。

(見てた?)

 だが、動揺を悟らせるわけにはいかない。

「同じクラスだし」

「そうですか」

 雪葉は、それ以上追及しなかった。

 代わりに、少し間を置いて言う。

「無理、させないでくださいね」

 足が止まりそうになる。

「……何を?」

「誰かを、です」

 あまりに曖昧な言葉。

 だが、胸の奥を正確に突いてくる。

「心配性なのね」

 そう返すと、雪葉は困ったように笑った。

「そうかもしれません」

 それ以上は言わない。

 踏み込まない。

 でも、離れもしない。

(偶然、だよね)

 茉莉子はそう自分に言い聞かせる。

 この少女は、ただ勘がいいだけの一般人だ。


 それから数日。

 茉莉子は、計画通りに動いた。

 さりげない会話。

 共感。

 頼れる存在の演出。

 白石透花は、少しずつ茉莉子に心を開いていく。

 そして、そこには必ず——雪葉がいた。

 昼休み、三人で話す時間。

 放課後、偶然重なる帰り道。

「荻宮さん、優しいですよね」

 透花がそう言うと、雪葉は首を横に振る。

「優しいっていうより、放っておけないだけじゃないですか?」

 フォローとも否定とも取れる言葉。

 だが、その一言で、場の空気は柔らぐ。

(……やりやすい)

 茉莉子は内心で評価を上げる。

 雪葉がいると、警戒心が薄れる。

 自分が「安全な人間」に見える。

 使える。

 本当に、都合がいい。

 帰り道、二人きりになったとき。

「私、邪魔じゃないですか?」

 雪葉が、ぽつりと聞いてきた。

「何が」

「荻宮さんの、人間関係」

「別に」

 即答だった。

 雪葉は少しだけ安心したように息を吐く。

「よかった」

 その横顔を見ながら、茉莉子は思う。

 ——この子は、何も知らない。

 自分が何をしているかも、

 誰を落とそうとしているかも。

 ただ、そばにいるだけの、普通の子。

 だから、問題ない。

 ……はずだった。

 その夜。

 茉莉子は、ふとスマートフォンの画面を見つめながら、違和感を思い返していた。

 雪葉の言葉。

 タイミング。

 距離感。

(…、考えすぎ)

 そう結論づけて、画面を消す。

 気づいていなかった。

 “あの人”の名前が、標的(ターゲット)として自分の頭の中に浮かんでいたことを。

 そして、 同じ頃、別の場所で、“誰か”が、もう一人の頭の中にも浮かんでいたことを。

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