プロローグ
「これで終わりだ」
僕はそう思った。激しくなるサイレンの音、急ブレーキの耳障りな金属音、そして誰かの叫び声。そういった雑音は僕には一切聞こえなかった。
八月の十七日。僕は列車に轢かれた。
享年十八であった。それはそれは若すぎる死なのかもしれないが、今までの苦痛に比べたらマシだろう。
今までの思い出や苦しさ、意識も全て吹き飛んだ。
生前一番の心配であった“中途半端に”生き残ってしまうこともなく、僕は無事に天国行きの切符を掴んだのである。
輪廻転生を言じている僕としては次はどんな人生を生きられるのだろうか・・・と期待を膨らませ
ていた。
・・・そう喜んだのも束の間、僕の意識はまるで元の世界に戻ったかのように鮮明になった。
「あれ…おかしい…」
ふと目をやると僕は体から魂のように抜け出して突っ立っていた。もちろん僕の身体は亡くなっている。
「これは…やってしまったのか…」
そう。僕はこの瞬間に“中途半端に”現世に生き残ってしまったのだと思った。
魂になった僕はホームに群がってスマホを取り出す人々、そしてブルーシートで生前の僕の体を取り囲む駅員を見つめながら、自我を失ったような虚ろな目をしていた。