表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/45

第2章 再会は雨の午後に(02)

 「じゃあ、次は俺か……」

 ため息混じりに立ち上がったのは、真吾だった。

 「藤堂真吾。警察官をしてる。交番勤務。平和で退屈な町で、信号無視と自転車のマナー違反に注意するのが主な業務だ」

 言葉の端々に皮肉が混じる。だが、それは自己卑下というより、自分自身との折り合いのつけ方に似ていた。

 「高校の時、“正しさ”にこだわりすぎて、何人かとぶつかった。……今は、それを反省してるつもり。でも、職業柄、また“正しさ”に縛られてるって感じもする」

 彼は言葉を切って、祥太の方を見た。

 「お前とは、またどこかでちゃんと話すよ」

 祥太は無言でうなずいた。

 「……じゃあ、私が」

 椅子から立ち上がったのは、菜穂だった。

 「谷口菜穂。保険の営業してる。数字とノルマと、うまくいかない人間関係と戦う日々。……でもまぁ、嫌いじゃない」

 彼女は笑ったが、その笑みにもどこか“浅さ”が漂っていた。

 「私はね、こういう集まり、あんまり好きじゃないの。だってさ、めんどくさいじゃん。空気読まなきゃいけないし、本音なんてそうそう言えないし。でも……来ちゃった。きっと、それだけは、嘘じゃない」

 誰も返す言葉がなかった。ただ、その一言が教室に残る。

 最後に立ち上がったのは、雄也だった。

 「田島雄也。介護施設で働いてる。身体のケアもだけど、メンタルケアのほうが大事な時もある。……最近、やっとそれがわかってきたところ」

 彼はしばし視線を落とし、言葉を選ぶように続けた。

 「昔、自分の感情を“正しく処理”するってこと、苦手だった。でも、それを“苦手”だって認めることが、最初の一歩なんだと思う。間違えることを怖がらないように、今はしてる」

 静かだった。だが、その静けさには、全員が聞き入る空気があった。

 そして、全員が話し終えた瞬間――

 誰も言葉を発さなかった。

 教室に雨の音だけが戻る。

 けれど、その雨音がさっきよりも少しだけ柔らかく聞こえたのは、なぜだろうか。

 「……これで、“今の自分”は少しだけ見えたかな」

 柚羽が、ぽつりと呟くように言った。

 「じゃあ、明日は“昔の自分”だね。……ね、祥太?」

 祥太は静かにうなずいた。

 坂下先生が仕掛けた“課外授業”は、まだ始まったばかりだった。

 だがその午後――

 冷たい雨に濡れた校舎の中で、12人の“再会”は、確かに一つの幕を上げた。

(第2章 終/第3章「壊れかけた友情の温度」へ続きます)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ