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僕らはまだ、間に合う  作者: 乾為天女


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第15章 再会の予感(00)

 秋の風は、静かに街を吹き抜けていた。

 旧校舎での文化祭から、またひと月ほどが経った頃――

 祥太のもとに、一通の封書が届いた。

 差出人の欄に見覚えはなかったが、封筒を開いた瞬間、その懐かしい匂いに気づいた。

 紙の質感、インクのにじみ、折り方――それらすべてが、“あの人”のものだった。

 便箋には、丁寧な筆致でこう綴られていた。


《祥太くんへ。

 あの日、旧校舎で再び集まってくれて、ありがとう。

 君たちが再び“あの空間”に足を踏み入れたことで、私たちの活動にも一つの意味が加わりました。

 記憶は、共有されたときに初めて“物語”になります。

 あなたたちの物語は、これからもどこかで続いていくと、私は信じています。

 さて、次回の企画について、一つ提案があります。

 ――“誰もが記憶を持ち寄れる場所”を作りませんか?

 名前はまだありません。けれど、坂下先生の意志を受け継いだ12人なら、きっと“新しい教室”を始められる気がします。

 場所や形式は問いません。まずは“また、話すこと”から始めてみませんか?

 お返事、楽しみにしています。

 教育と記憶のネットワーク

 運営事務局より》


 祥太は、便箋を読み終えると、ゆっくりと目を閉じた。

 “記憶を持ち寄れる場所”――その言葉が、胸の奥で小さく温かく広がっていく。

 そして彼は、スマートフォンを手に取り、久しぶりにあのチャットグループを開いた。

 最終更新は、あの日の合宿の直後。

 それ以降、誰も何も書き込んでいなかった。

 けれど、そこにあった“未送信のメッセージ”を、彼は今ようやく打ち込んだ。


 「みんな、久しぶり。ちょっと面白そうな話がある。――また、集まらないか?」


 しばらくして、一人、また一人と既読がつき始める。

 そして、次の瞬間。

 《将が反応しました:b》

 《柚羽が反応しました:@@》

 《春樹が反応しました:U'-'U》

 《恵梨が反応しました:……気が向いたら》

 《麻実が反応しました:どこで?いつ?》

 《遼平が反応しました:その話、くわしく》

 《真吾が反応しました:日程が合えば、行く》

 《菜穂が反応しました:久々に人に会う口実できたわ》

 《雄也が反応しました:その教室、今度こそ“途中で出ない”ようにする》

 《美紗が反応しました:悪くない話》

 《亜沙美が反応しました:きっと、またいい時間になる》


 祥太は、にやりと笑った。

 そして、最後にこう打ち込む。

 「じゃあ決まり。場所は――旧校舎じゃなく、“これからの場所”で」

 風が、部屋の窓をかすめた。

 秋の気配は確かに深まり、けれどその風の中には、どこか“始まりの匂い”があった。

(第15章 End)


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