表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らはまだ、間に合う  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/45

第14章 祥太、歩き出す(01)

 文化祭復刻企画の招待状には、こう書かれていた。


 《旧坂下ゼミ関係者へ》

 このたび、NPO法人「教育と記憶のネットワーク」では、旧校舎を活用した地域参加型文化祭を実施いたします。

 テーマは「記憶をつなぐ場所」。

 坂下教諭の教育理念を引き継ぎ、学びの場を再発見する機会とすべく、在りし日の教室を再現いたします。

 つきましては、坂下ゼミの関係者として、あなたのお名前を来賓リストに記載させていただきました。

 ぜひ、“あの教室”を再び訪れてください。

 未来に何を伝えられるか――共に考える一日になればと願っております。

 開催日:10月9日(日)

 会場:旧・第三高等学校 校舎/本館棟

 主催:NPO法人 教育と記憶のネットワーク

 協力:地域学習振興会・市教育委員会


 読み終えた祥太は、手紙を丁寧に二つ折りにして胸ポケットへしまった。

 そして、即答する。

 「行こう」


 準備室のデスクに戻ると、カレンダーに印をつけた。

 その赤丸を見ながら、彼は心のなかでひとつ問いを立てる。

 ――あのときの自分は、もういないか?

 それに対する答えは、すぐに出なかった。

 けれど、それでよかった。

 “問い続けること”が、自分の歩き方だと、ようやく納得できるようになったから。


 文化祭当日までのあいだ、祥太は小さな準備を始めていた。

 職場の同僚には話していない。

 ただ、放課後の時間に、古いノートを開き、合宿で交わした言葉を思い出す。

 将の軽口。真吾の葛藤。恵梨のため息。柚羽の笑い。

 麻実の線描。遼平のキーボードの音。春樹の微笑み。

 それらすべてが、“ただの記憶”ではなく、“生きている時間”として蘇る。


 そして、いよいよ文化祭の前日。

 祥太は、小さな紙袋を準備した。

 中には、自作の栞が12枚。

 それぞれ、合宿で見つけた言葉を刻んである。

 【静けさの中にも、声はある】

 【未熟さごと、抱きしめて】

 【誰かと違うから、隣に座れる】

 【答えのないまま、なおしていく】

 ひとつひとつ、丁寧に紐を通し、紙袋に入れて封をする。

 “いつか誰かが来たときに渡せれば、それでいい”

 そう思っていた。


 当日の朝。

 電車に揺られながら、祥太は窓の外をぼんやりと見ていた。

 見慣れた都会の景色が少しずつ郊外へと変わっていく。

 線路脇の草が揺れる。

 駅のベンチに並ぶ高校生の姿に、ふと懐かしさが込み上げる。

 「……また戻ってきたんだな」

 呟いたその声は、自分の胸にすっと染み込んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ