そんなカワイイとこも好き
幼い伯爵令嬢のロゼッタと、その婚約者のフィンのお話です。
フィンの熱烈アピールが見どころです。
駆け出し者につき、ご容赦ください。
「明日もまた来ますから!」
なんだかフィンの声がする。
「んにゃ、いいってば。 ……?」
どうやらロゼッタは眠っていたようだ。
夢の中でフィンからラブコールを受けていた。
ーー婚約者の夢を見ていたなんてちょっと恥ずかしい。
「ふふ、今日も来るのは本当でしょうけど」
もぞもぞと布団から這い出た令嬢ロゼッタは、フィンの訪れに備えるのだった。
婚約者であるフィンはロゼッタより2つ年下の伯爵令息で、フィンとは領地が隣り合っているので、毎日のように一緒に過ごしている。
ロゼッタ一筋で、ロゼッタとじゃれる様子はさながらわんぱくな犬のようだ。
いつも金色の巻き毛をふわふわさせている。
好奇心が旺盛なために後先を考えない点が、玉に瑕か。
いつも屋敷のあちこちで事件ばかり起こしている。
先月はロゼッタの庭で池に落ちていた。
びしょびしょになったフィンに話を聞くと、
「エメラルドの蝶々が珍しかったから、一生懸命に追いかけていて……」
とのことだった。
夢中になるあまり上しか見ていなかったのだろう。
少し目を離したけで危ない行動をするやんちゃぶりに、注意しようとするロゼッタだが、
「捕まえて、ロゼッタに渡したかったです。きれいな髪飾りになると思ったのに」
純粋な好意を前には、強く出られない。
ーーやんちゃ坊主なのよね、そんなところもかわいいけれど。
結局、
「うれしいけれど、あまり無茶はしないでちょうだいね」
とだけ言った。
かと思えば、とある日にロゼッタのポニーを見せた時には
「か、かわいいポニーちゃんで……っひぁ、か、かまないでね」
と小柄な馬にビビりまくっていた。
ーー自分より大きいものは怖いわよね、そんなところもかわいいけれど。
「ロゼッタお嬢様、フィン様のご到着です」
メイドが報告に部屋までやってきた。
少し回想していた間に、フィンが屋敷についたようだ。
ーー迎えに行ってあげないと。
ドタドタと騒がしく出ていくロゼッタを見て、ほほえましげなメイドの様子である。
ロゼッタが玄関に着くやいなや、
「ロゼッタ、今日はねサプライズだよ」
と言って、フィンが小包を差し出した。
「これは何かしら」
何かが飛び出てくるのではと恐る恐る開封すると、そこにはピンクと茶色のスイーツが入っていた。
ーー初めて見る食べ物ね。
ロゼッタが不思議そうに見つめていると、フィンが
「これはマカロンと言って、城下で流行りのスイーツなのです。この間父上と訪れたので、お土産です」
と、説明を始めた。
10代の令嬢を中心に人気の高いスイーツで、わざわざ長時間並んで買ってきてくれたそうだ。
ーーやっぱりフィンは優しいわね。
ロゼッタが喜ぶ傍らで、フィンは肩を落としている。
「ロゼッタは甘いお菓子が好きでしょう?
本当は街中で食べたパンケーキをロゼッタと一緒に食べたかったけれど、持ち帰りはできなくって。
黄色くてふわふわで、まんまるなお月様みたいな食べ物なのです」
フィンの元気がないなんて珍しい。
それほど一緒に食べたいと思ったくれていたみたいだ。
ーーよおし、姉貴分のわたしがその願いを叶えてあげましょう!
いつもロゼッタを喜ばせようとしてくれるお返しに、何かしてあげたいと思っていたところだったのだ。
ロゼッタはかわいい婚約者のために決意を固め、そそくさと準備を始めた。
「料理ちょーさん、ちょっといいですか?」
やってきたのは台所だ。
おやつまでまだ時間があるので、あまり忙しくはなさそうだ。
「どうなさいましたか、ロゼッタお嬢様?」
すぐに料理長が対応してくれる。
「あのっ、黄色くてふわふわで、お月様みたいな食べ物を作ってほしいのです。
明日のおやつに、フィンと一緒に食べたくて」
ロゼッタが頼み込むと、
「お安い御用ですよ。今から試作品を作ってみましょうか」
と了承してくれた。
しばらく腰かけの椅子に座っていると、
「お嬢様、ほらできましたよ」
思いのほかすぐに料理ができた。
初めて見る料理に、ロゼッタは興味津々だ。
食べてみると、あったかくてほんのりと甘くておいしい。
ーー黄色くてふわふわで、お月様みたいな食べ物だわっ!
「これは東洋の卵焼きというレシピでして、どちらかというとお昼にお出しする料理なのですが……」
「構いません、おやつにお願いします!」
感動しているロゼッタは何も疑問を持たず、約束をした。
「もう、ロゼッタったらどこに行ってたの?」
池のそばではフィンが拗ねていた。
少し放置しすぎたかもしれない。
ーー悪かったと思うけど、明日のサプライズのためなの。
「ごめんなさいね、今から一緒にラズベリーでも探しましょう」
ロゼッタの提案に、
「はいっ、どちらがいっぱい集められるか勝負です!」
あっさり期限を直して熱中するフィンであった。
翌日になり、
「ロゼッタお嬢様、フィン様のご到着です」
メイドが報告にやってきた。
ーーおやつの時間まではサプライズは秘密にしておかなくちゃ!
いつもに増して浮足立った様子のロゼッタに、メイドはふふっと笑みをこぼしている。
日当たりのいい部屋で午前中を過ごし、いよいよおやつの時間になった。
「今日はね、珍しいお菓子なのよ」
卵焼きが乗ったプレートが運ばれてくる横で、得意げにロゼッタが説明している。
フィンの様子をじっと見守っていると、
「わあ、初めて見る食べ物です!おいしそう!」
とフィンが言っている。
ーーあら、これが一緒に食べたかった料理のはずなのだけど。
「えっと、フィンは初めて見るの?」
動揺を抑えてロゼッタが尋ねると、
「はい!」
とまぶしい笑顔で答える。
どうやら違う料理だったようだ。
ーーあちゃ~、失敗してしまったみたいね。
仕方がないので、サプライズの全貌を話すと、
「ええっ、あのパンケーキを作ろうとしてくれたんですね!
いろいろ考えてくれていて、とっても嬉しいです」
とフィンが言った。
ーーサプライズは失敗でも喜んでくれてよかったわ。
胸をなでおろすロゼッタに、フィンは
「今度一緒に食べに行きましょうね!」
と明るく返す。
「ロゼッタも、失敗なんて気にしないでくださいねっ」
作戦がうまくいかず、少しむくれているロゼッタに、フィンが声をかける。
ーーそんなかわいいとこも好き。




