最強に飽きたからバカな人格を作って人生やりなおし
書きたいから書いたというより、読みたいものを書いてみた。
「……ここは、どこ?」
ここは汝の夢。
「僕の、夢……僕は、誰?」
汝の名はシロ。14歳になる男の子だ。
「えっと、じゃあ……あなたは?」
我は汝の創造主である。
「……神様ってこと?神様は僕に、何か用ですか?」
案ずるな。
我は別に、汝に勇者となり魔王を討ち取ろうとも、賢者となり廃れていく人の世を救おうとも言わん。
我はただ、汝に自分の人生を生きることのみを望む。
「それだけ、ですか?」
ああ。
記憶もない、知人もない、まっさらな人生を、ゼロから生きてもらう。
「……よく、わかりません」
わからないことを恥じる必要はない。
汝は、ただ汝が思うがままに生きるがよい。むしろそれだけが、汝の創造主である我の唯一の願いと言えよう。
「そうですか……やっぱりまだよくわからないけど、神様が言うなら、そうしてみます」
うむ。
それでは、汝の人生の終着点でまた会おう。
どうか心の赴くままの、良き人生を。
………………
…………
……
ふぅ、慣れない口調は疲れるぜ。
「――あ、目が覚めました?」
見知らぬ部屋のベッドで目を覚ました少年が最初に聞いた人間の声は、優しい女性のものだった。
「……ここは、どこ?」
「ここは、貿易都市『ショバイ』の冒険者ギルドです。あなたは郊外の街道で倒れていたのを、うちの冒険者たちが発見して、ここに運んでくれたのです」
「……僕は、誰?」
「え」
「そうだ、僕の名前はシロ――シロ、のはずだ」
「……まさかとは思いますが、念のためちょっと確認させてもらってもよろしいでしょうか」
「はい?」
「シロさんは、どうして自分が倒れていたか、覚えていますか?」
「えっと……あれ、何も思い出せない……」
「では、シロさんはどちらの出身ですか?」
「出身……うっ、わかりません……」
「ジーユー共和国ってわかりますか?セイント教や冒険者法を聞いたことは?」
「……ジーユー共和国は、貿易都市『ショバイ』の所属する国……セイント教は、かつて勇者が魔王を討ち取った年に創られた宗教……冒険者法はセイント教が創立そた3年後、ジーユー共和国が立案、そして実施した冒険者関連の新法、でしたっけ?」
少年あらため、シロは脳裏に浮かんだ知識を、本を読むがごとく口にした。
「よかった……ということは、シロさんは自分に関することだけ、なんらかの原因で記憶喪失をしているようですね」
シロを介護していた女性はほっと一息をつくも、すぐに不謹慎だったと思い直した。
「ギルド長を呼んで参ります、そのままベッドでお待ちください……あ、口が渇いたり、お腹が空いてたりしませんか?よかったら食事をお持ちしますが」
「えーと、お腹は大丈夫です。でも水はいただければ……」
「かしこまりました」
女性が丁寧にお辞儀をして部屋から出た。
一人になったシロはもう一度記憶を取り戻そうと試みたが、結局自分に関してはやはり何も思い出せなかった。
思い出せる記憶をそもそも用意してないから当然だが。
その後、シロの事情を聴いたギルド長のウェスターは、行く当てのないシロをしばらくギルドで暮らすことを許可した。その間に、シロもただウェスターの好意に甘えず、自分の常識と知識を確かめつつ、ギルドの事務仕事を手伝うようになった。
「すみません、シロくん。今日はこちらの書類をギルドの南門支部に届けてくれる?」
「もちろんです、アリナさん」
自分を介護してくれたあの優しい女性、受付嬢のアリナから分厚い書類の詰めたリュックを背負い、シロは今日も仕事のためにギルドを出た。
貿易都市『ショバイ』は広い。貿易都市と冠されるだけあって、四方の門のうち、三つの門は国外に向けて開かれており、建物も通行人もさまざまな様相をしているため、半月もの配達活動で道に慣れて来たシロをいまだに楽しませてくれる。
しかしだからと言ってシロは寄り道せず、いつもの最短ルートで南門支部へ向かった。
「――待ちな、坊主」
狭い裏路地に入って間もなく、シロは前後に挟まれる形で呼び止められた。
「これまでの借り、今日こそこのディボル様に返してもらおう!」
「またですか?いい加減、仕事中は止めて欲しいのですが」
「はっ、やめて欲しけりゃ、一回はこっちの気が済むまで殴られろや!」
「それは嫌です。だってその太い腕で殴られたら、絶対痛いんだもん……」
シロの進路を塞ぐように仁王立ちするのは、このチンピラ集団のリーダー格であるディボルという大男。
記憶のないシロにとって、色んなモノコトを覚えていくのが楽しいと思える中、その男の名前と顔だけは覚えたくなかったが、度重なるエンカウントと相手勝手の名乗りですっかり記憶してしまっていた。
「野郎ども、かかれ!」
――の号令がくだされて1分もたたないうちに、ディボルの手下4人は仲良く重なるように地べたで眠りについた。
彼らを上手に寝かしつけたのは当然、シロである。
「くっ、貴様、また強くなりやがったな!」
「いえ、あなたたちがずっとワンパターンだったから、体が慣れてしまっただけですが」
「でもこっちだって強くなってんだ、舐めんな!」
「だから話を聞いて……ってば!」
「ぐわぺぷし!」
前回より速く突進してきたディボルを、しかしシロはいつものように横へ避けるついでに、片足で相手の足をひっかけ転倒させた。
確かに前回より幾分速くなってはいるが、所詮真正面からの直線的な動きでしかなく、俺の動体視力を受け継いだシロからすれば、避けるのも反撃するのも朝飯前だ。
「せめて仕事が終わった後にしてください。それなら、ちょっと殴られてあげてもいいですよ。最初の時、確かに加減を間違えて、吹っ飛ばしたのはよくなかったと反省しているし……」
あれは町を散策して、最初にディボルに絡められた時だった。
シロはまだ自分(俺)の力を把握しておらず、ただ歳相応でがむしゃらな拳でカツアゲしてくるディボルに抵抗しただけのつもりが、まさかの威力でディボルを手下もろとも吹っ飛ばしたのだ。
あれ以来ことあるごとに、ディボルにつき纏われるようになった。
「ちっ、殴られてやる、だと?んなお情けのサンドバッグ、こっちから願い下げだ!」
鼻をダイレクトに地面に打ちつけたディボルは、鼻血と涙と土埃にまみれた顔でジロリとシロをにらみつけた。その漢らしい意地に、シロは素直に尊敬な念を抱いている。だからこそお詫びに殴られることを提案したのだが、ディボルが納得しない以上、もうこれ以上どうすべきかわからなくなった。
「……ごめんなさい、仕事中なので失礼しますっ!」
シロは一抹の後ろめたさを胸に、脱兎のごとくこの場から走り去った。
その後、ギルドの仕事を手伝っていくうちに、シロはギルドの受付嬢たちと仲良くなったり、それで冒険者たちに嫌われたり、アリナの男避けとして偽の恋人を演じたり、その効果から他の受付嬢とも偽の恋人になったり、冒険者から呼び出しを食らったり、あっけなくそいつらを撃退してギルド長にスカウトされたり、冒険者育成学校でディボルと再会したりーーうん、自分で書くの面倒だから、誰か書いてくれ。