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もう起きないとなと思いつつ、前日の酒が残って、頭痛がしている。まだ寝てようか、トイレ行って、水分を取ろうか瀬戸際にいる。ふと目を開けると、福ちゃんの姿が見えた。そうか、このまま2人寝てしまったのか。気持ちよさそうにブタが寝てるなぁと10年ぶりの変わらぬ姿にほっこりして、しばらく眺めていた。しれっと近くに近づいていく。隣に横たわってみる。この人が僕を受け入れるゲイだったら、どんなによかったか。突然スマホのバイブが揺れて、驚いて、逆を向いて、スマホを見ると、LINEが入っているが、もうしばらく、眺めたい気持ちが強い。なんせ10年ぶりに幸せを噛み締めているのだから。振り返ると、福岡と思い切り目があう。起きたらしい。おっとと思い寝返りをもとに戻す。
「おはようございます」
「おはようございます」
気まずい雰囲気が流れる。すると、背中を触れられてるのが、わかった。心臓がバクバクしている。福岡も緊張しているのが伝わってきた。無理をさせてはいけないと、我に返った。背中を触れる手がなかったかのように、起き上がる。
「さてと、いい加減起きるか」
「はい」
福岡もなかったことのように、起き上がった。結城はLINEを見ると、香山からだった。スマホを操作し、耳にあてる。
「もしもし、おはようございます」
「おはよう。ごめんな。休みんとこ」
「いえいえ。どうされました?」
「いや。まだけーへんのやけど」
「あっ。店長あれから、僕、会ったんですよ」
「はぁ。なんで会うのん?」
「なんでって」
「遥ちゃん、純のアホが、福ちゃんと昨日会ったらしいで」
電話の奥からえーっという嘆きが聞こえてきた。福岡はもう福ちゃんと呼ばれる程、あの店に馴染んでしまっているのかと思うと、福岡の力をまた改めて知ることができた。
「どうせ、会わん思うたから、福ちゃんが来るもんと思っとったのに。アホ」
「そんな言い草あります?昨日は迷惑やから会えって言ってたじゃないですか?」
「ゆうたけど、福ちゃんに私ら用があんねん。もう帰ったんか」
「いや、いますけど、かわりますか?」
結城はぶっきらぼうにスマホを福岡に渡した。
「社長から」
「おはようございます」
「おはよう。よかったな。会えて」
「はい。ありがとうございます」
「連絡先もちゃんと交換できたか?」
「はい。ちゃんとしました」
「そっか。あんな私らな、今日も福ちゃんがおるもんと思っとって楽しみにしとったんよ」
「そうでしたか」
「そやからな。あんたら、今からここに来なさい」
「ここに来なさいって言ってます」
「えーっ」
「社長命令です。じゃあ待ってるからな」
一方的に電話を切った。結城はため息をついた。休みだというのに、とても面倒だが、今回は迷惑をかけたので、命令は逆らえないと思い、支度を始めた。