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 大阪には何度か来たことはあるが、天満周辺は初めてだった。事前に調べておいた地図を見ながら、あすか文具店に向かった。約束の時間は午後2時だが、40分近く早く着いてしまった。店は商店並ぶメイン通りから、右に入る路地の少し進んだところに、スッキリした雰囲気の店構えだった。この通りも小さいわけでなく、商店は並びの少し先にはコンビニもあり、人通りはあるようだ。店を確認したものの、この場にそのままいるわけにもいかず、一度戻って、近くのカフェで時間を待つことにした。席に着いて、もう一度履歴書に不備がないか確認した。

 10分前には、店について、店員さんに事情を話すと、店舗スライド扉で仕切られてる奥の応接室のようなところに通された。店内も温かい雰囲気で、置いている文具も色を意識して、レイアウトされていて、文具好き色好きとしては心踊らされる雰囲気で、一気に気に入った。少しすると、一人の30代後半から40代前半くらいの少し膨よかな女性が、お茶を持って入ってきた。立ち上がり、お辞儀をした。

「こんにちは。どうぞ座って」

といい、女性も向かい側の椅子に座った。どうやらこの人がこの店の主人のようだ。

「えっと、結城純平さん」

「はい。本日はよろしくお願いします」

「はは。硬い硬い。前勤めてた大企業と違うから、そんな構えんどいて。私はこの店をしてます。香山といいます。とりあえず、履歴書見せて貰おうかな」

「はい」

履歴書を取り出し、香山に差し出した。しばらく、目を通して、こちらを見て、笑いかけてきた。

「いつから来れる?」

「へっ?」

「うちはいつからでも来て貰ってええねんけど」

「いや、あの、私は」

「商品開発をしたいんやろ」

「経験ないですし」

「そんなんゆうたら、どこも採用してくれへんで。とりあえずやってみたらええやない」

「商品開発にもセンスがあるのか、どんなアイデアを持ってるのか」

「センス、アイデア大事やな」

「ですよね」

「ないの?」

「わかりません」

「わかりませんか。自己分析できてないのに、なんで商品開発したい思おたん」

「自己分析できる場がないので、自分に実力があるかどうか正直わかりません」

「なんの根拠もなく、ただやりたいだけなん?」

「全く何も考えてないわけではないです。ただ、ここで求められてることか、できることなのか」

「たしかに小さな会社やし、設備も整ってるわけやあらへんからできるわからへんな。」

「ちなみにどういったものを作ってらっしゃるんですか?」

「持ってこような」

まだ、大阪で働く覚悟もできてないし、どういう形態で働くことになるのか。給料は?などまだまだ知るべきことはたくさんあるのに、こんなにあっさりと決めていいのか。会社側も自分も。と思ってしまっていた。

「ちなみに、こういったものを製作してて」

「いいですね」

「実はセレクトショップから始めてたんやけど、自分らのオリジナルも売り始めたらどうやってなってな。私ともう一人が作ったものなんやけどな。私らには限界があんねん。ペンケースや、小物入れ、実際、文具ってなると技術がなくてね。行き詰まってて、本当に一からになってしまうねんけど、一緒に考えてくれへんかな思うんやけど」

「一からですか」

「となると、店をしながら、いいものを探して、店に置かせてもらって、さらに開発を進めるって、結構大変ではあるから、もし来て貰えたら助かる」

「でも自分ができるかどうかもわかりませんよ」

「せやな。わからん。けど、あんた見てたらできるような気がしたんよ。見た瞬間」

「見た瞬間」

「そう」

「少し考えさせてもらってもいいですか?」

「ええよ」

「ここで働くとなると引越してこないといけませんし」

「そやな」

「今日は、東京帰るの?」

「いえ、せっかくなら、関西旅行して帰ろうと思いまして、帰る日は特に決めてないです」

「そうか。よかったら、今から手伝ってくれへん?」

「はい。私でよければ」

「よっしゃ。じゃあついてきてくれる」

香山について、店舗から事務所を通って、2階に上がっていった。一階店舗に比べて、広さがあり、裏側の窓が大きくかなり明るい空間になっている。一人の女性が作業をしていて、店はこの2人と、バイトパートの4人で6人でしてとのことだった。メモ帳のデザイン部分で悩んでいるようで、意見を求められた。まずどういったテーマで作っているのか、対象年齢はいるのか、他との差別化はあるのか、紙の材質や色、使い方など、細かく聞かないと分からず、そこからもう一度一緒に考えることになった。この作業をしていると、わくわくしている自分がいた。作るという作業が楽しくてしょうがなかった。全部が煮詰まらない間にあっという間に6時を過ぎてしまっていた。

「今日はありがとうな」

「いえ、楽しかったです」

「漠然といいものを考えて、作ってたけど、一つ一つ確認しながら進める作業が必要なんやな」

「どのやり方が正解かわかりませんが、お互いにどうしたいか、意見の歩み寄りや、値段との兼ね合い、どこを削るかとか明確になって作業が進みやすいと思うんですよ」

「勉強になったわ。また明日も来てくれへんかな。ホテル代出すから」

「ホテル代は結構です。でもまた明日来ていいですか?」

「もちろん」

「では明日、開店くらいに伺います」

「ありがとう。待ってるわ」

久しぶりに充実した1日を過ごした感じがした。やっぱり、働くのは自分は好きなようだ。何もないことから作り上げられるのも、楽しいなと感じていた。久しぶりの大阪で、串揚げとビールを飲むのが最高だろうなと思いながら、ホテルへチェックインしに向かった。


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