二章一話 竜、逮捕さる。
風が木々の間を抜け、葉がサラサラと音を立てた。そんなに音を聞きながら一人の男は森の中を歩き続けている…
―――――コーラルの家から旅立って三日が経った。
昼夜問わず歩き続けているが森から出られない。おかしいな、ちゃんとコンパスを見ながら進んでいるというのに森に終わりが見えてこない。
まぁまぁでかい森みたいだな、どうにかして楽に出られない
だろうか。飛行機に乗って飛ぶとか、飛ぶ?
「そうだ!俺、飛べるじゃん!!」
しばらく人間の姿で生活していたから忘れていたが、俺は元はドラゴンなのだ。少し開けたところに出たので竜形態に戻ってみた。
翼に軽く力をいれて羽ばたいた。飛べないな、試行錯誤の末、身体を魔法で軽量化してもう一度やってみた。
いとも簡単に飛ぶことができた。翼で姿勢を制御して飛び回ってみたが、割と簡単に速度がでる。
顔に当たる風が気持ちいい。俺はその感覚を噛み締めながら
一日近く良い心地で飛んだ。気づいたら森の終わりが見えてきた。
いやあ、疲れた気がする。森の側で野営した。
風呂を作って入ってみたがこれが案外心地良い。
なんか水光ってるけど…
見なかったことにしてテントのベッドで寝た。
「そこのテントの中にいる者!大人しく出て来い!!」
何か外が騒がしい。テントから顔を出してみると、甲冑を着込んだ騎士たちがテントを取り囲んでいる。
「なにか用ですか?」
「用も何もあるものか!貴様を聖水窃盗容疑で逮捕する!」
「誰を?」
「貴様だ!」
え、俺を逮捕?俺が何をしたというのだろうか。
「えーっと、僕は無実です。何処の聖水が盗まれた話ですか?」
「黙れ、もう証拠はあがってるんだ。投降しろ」
困ったな…
「じゃあとりあえずテント片付けていいですか?」
「いいわけ無いだろ!……我々が片付けて押収しよう。まだ有罪とは決まっていないし、貴様が万が一無実だったら無くしてしまっては申し訳ないからな」
何か話がわかるやつだな。仕方ない。お尋ね者は御免だし今は捕まっておくか。
「じゃ、裁判所までお願いします」
そう言って俺は騎士に手を上げて近づいた。
「なんだ、やけに潔いな」
俺は手錠をかけられた。すると魔法が使えなくなった。
これが魔道具というやつか、すごいな。
騎士団に連れられて俺は人間の町に連れて行かれていた。
あまりに抵抗しなかったからか外が見える席に座らせてくれたので、外を見ていた。一週間ほど経つと、町が見えた。
騎士に別れ際に、
「ありがとうございました」
といってみた。
「ふん、もう二度と会うことはないかも知れんが。もし貴様が無実だったら酒でも奢らせて貰おう」
この町の騎士たちには人情深い者が多かった。
裁判の日がやってきた。
「被告人アッシュ=ダイアモンドの裁判を始める。」
俺と裁判官が正面で対峙し、俺から見て右には眼鏡をかけた男が席に座っていた。検事みたいな感じだろうか。
「被告人は一週間前、聖水を盗み町から逃亡しました。証拠として被告人の野営地には聖水が残っていました。これは不死者の出現が多発するこの町の民の安全を大いに害する行為で、極めて卑劣です。裁判長、私は被告人に死刑を求刑します。」
「被告人、罪を認めるか?」
「いいえ、裁判長。私はやっていません。」
「では発言を許す、弁明せよ」
「まず一つ、私はこの町には護送されて初めてきました。それはおそらく町への入場記録から証明できます。町に入らなければ盗むことはできませんよ。それこそ聖水というくらいだ、どこか厳重に警備された所にしまってあるのでしょう?」
「むう、確かに聖水は騎士団が昼夜問わず警備を続けているが…」
「それなら騎士に見つからず収納場所に侵入できるような者の犯行と見たほうが辻褄はあうのではないですか?それこそ高位の魔人とか」
「なるほど、邪教徒に雇われた魔人が町の滅亡を狙って盗みを働いた可能性があるということか」
なんとか優勢になったようだ、有罪は避けたいところだな。
すると他の裁判官と話し合っていた裁判長は
「新視点の捜査の必要性が出た。また、被告人の所持していた聖水については近くの村で上位の神官が大規模魔法で邪教徒と交戦したから近辺が神聖力に満たされていて、水魔法の発動時に聖水が精製された可能性もある。本人の供述では風呂だと言っていましたし、一概に有罪とは判断できない。」
「では?」
「現時点では判決を見送る事とする。これにて閉廷。」
とりあえず死刑は回避したか。聖水を盗んだ真犯人が見つかることを祈るばかりである。
その日は地下牢に入れられた。ただ、何故かきた夕飯は他のやつより豪華だった。
む?なんか…味が少し変だな。とりあえず残すのは料理人に申し訳ない、我慢して食べるとしよう。
飯を食べ終わって少し寝ていると、足音がしてきた。
おかしいな、今は消灯中で看守は入り口を守っているだけのはずなのに。
「い、生きてるっ!?」
「はあ?」
「テメエあの量の毒を摂取してなんで死んでねえんだ?!致死量の三倍だぞ!」
あの飯、毒が入ってたのか。
「お前のせいで俺の完全犯罪が揺らいでんだぞ、どう償うつもりだ?下等種族が!」
うーむ、とりあえず…
「うわあああああああああああ!!!助けてくれえええ!
変なやつが来たぞおおおお!」
と全力で叫んで、看守を呼ぶと同時に牢屋から手を出して腕を掴んで捕まえた。
「おい、余計なマネすんじゃねえ、って放せコラ!こいつ、力強え!?」
「何だ貴様は!ここは侵入禁止…って魔人!?」
衛兵も流石にビビるか。
「こいつは抑えとくから早く援軍呼んでこい」
「わ、わかった!待ってろ!」
焦り過ぎて誰に言われたか分かってなさそうだったが数分で援軍が来て魔人は拘束された。
俺が嫌疑をかけられていた事件の真犯人はアイツだったらしい。空間移動の魔法で犯行に及んでいたようだな。
その後何事も無かったかのように無罪になり、慰謝料を渡され釈放された。ここからは人間のいる領域だ、騒ぎを起こさないように徒歩でこの国を見て回るとするか。
こんにちは、一介です。今回からかなりボリュームアップしました。少し読み応えがついたかな、と思います。
初めての作品なので探り探りですがまだ続くので読んで行ってもらえると幸いです。