五章三話 二輪の花
ダイアモンド領は阿鼻叫喚の大騒ぎになっていた。
謎のタイミングで攻めてきた邪教徒軍を倒し、疲弊したところに、衝撃の情報が入ったからだ。
ーーー純正魔族評議会にて、アッシュダイアモンドの消息が絶たれる。力をうばわれ生死不明。ーーー
開かれた緊急会議では、二つの議題が話し合われていた。
一つ目はもちろんアッシュについて。
「アッシュ君、帰ってこなかったわね…」
「ふむ……」
いつも落ち着いた態度のオロコも、少し気が動転しているようだった。
「ユキちゃんはなんとか寝かせました。あんなに取り乱すなんて思わなかったです」
「まったくだぜ、俺様特製の睡眠薬でも寝ねえんだからぶったまげちまったよ」
軽口を叩いているヘルメスも、内心焦っていた。
幹部が一堂に集まったものの、話し合いは行われず、硬直したままだった。
「ダンナ…死んじゃいねぇよな 」
「当たり前でしょ!あのアッシュ君が死ぬわけないわ…!きっと…」
イザベラも心が折れそうだ。
『そろそろ集まった頃かな』
こんな声が、幹部の脳に直接伝わってきた。
「「「ーーッ!?」」」
会議用の机のイザベラが座っている向かいのお誕生日席に突然魔法で現れたのは、白銀髪を短くまとめた女性だった。
「警戒しないで、私はコーラル。アッシュ=ダイアモンドの師匠をやっていた者だ」
常々聞いていた話な上に、司祭たちとの戦いで手伝ってもらった覚えもあるため、すぐに警戒は解かれた。
「貴方様は…」
「みんな困っているようだし、色々と情報を渡しに来たんだ 。まったく、世話の焼ける弟子だね、あの子は」
「お言葉ですが、世話を焼かれていたのは…」
「うるさいよサファイア。いま大事な話をしているんだから」
側近らしき青髪のメイドまでなんの脈落もなく現れたが、誰もがそれを流した。
「じゃあ、私から話せることを話すね。まずは一つ目。
アッシュ=ダイアモンドは生きている。」
「本当ッ!?」
「もちろん。もっとも今は力を失って帰れる状況ではなさそうだけどね」
イザベラはとりあえず一安心した。
「つかぬことをお聞きするけど、迎えに行くことって…?」
「うーん、無理かな。第一遠すぎるし、弟子がいなくなったせいでここはかなり狙われているからね。私は超強いから、ここを守ってなくちゃいけないから」
「でも…」
「だって、彼を連れ帰ったとしてあなた達がその間に死んだら彼はどんな顔をすると思う?」
「…わかったわ。じゃあ私達は全力でアッシュ君の居場所を守ります」
イザベラにできることはほとんどないが、決断を下した。
「もうひとつ聞いていいか?コーラルさん…様?」
「いいよ、ミスジ君。何かな?」
「ベルがいないんだ。勝手にいなくなるほど度胸は据わってないと思うんだが、どこに行ったか知らないか?」
「あ、言うの忘れてた。ヴェール、いやもといベルちゃんは私が少し頼み事をしちゃったからしばらく帰ってこないよ。ごめんなさいね」
「……そうか。路頭に迷ってないといいな。」
「ハハハ、ミスジ。お前はベルお嬢をなんだと思ってやがんだ?」
ヘルメスはツッコミを入れたが、ミスジは至って真面目に、
「世話のかかる自称女神のとんでも魔法使いだろ?」
と言った。
「ミスジさん、たまに思いますけど大物ですね。」
あんなめちゃくちゃな強化魔法をかけられるのは神より他にはいないだろうとちはやは暗に告げたのだが、ミスジには通じなかった。
「ミスジちゃん、アッシュ君を見習ってか賢いようで抜けてるわよね…」
「そんなことないでさぁ姉さん。俺は毎日勉強してますから、抜けてなんかいませんよ。もちろんダンナもな!」
机の一角からは笑いが出た。
防衛体制を整え、元の生活を続けることを決定し、会議は終わった。
その日の夜、先週に建て終わった新しい屋敷のテラスでユキとイザベラは夜食をしながら話していた。
「ごめんなさい、取り乱しちゃって…」
「いいのよ。ユキちゃんも心配だったんでしょう?」
イザベラはユキの杯にお酒を入れながらそう言った。
「いい香り。初めて飲みますよ、お酒」
「ふふ、じゃあ私達飲み友ね」
「そうですね、それも初めてできました」
空には三日月がちらりと見えていた。
「アッシュ君、今はどこで何をしてるのかしら」
「きっとへっちゃらでいますよ。いつも妙に明るいでしょう?」
「やっぱり妙に感じるのね。私もなのよ」
「本当ですか?」
実際ユキは違和感を感じていた。前世で関わった彼は、明るくはあったが、あそこまで人を引き付けるほどの社交性はなかったのだ。
「ええ。きっと、きっとアッシュ君も不安な時があるのよ。でも隠そうとしていると思うのよね」
知らぬ間に彼をどこか追い詰めてしまっていたのかもしれない。そんなことが頭をよぎってしまう二人。
「イザベラさん…」
彼女の真実を写す瞳は潤んでいた。
「帰って、くるわよね…?」
皆をまとめるため、アッシュの妻として必死に堪えていた感情が溢れ出た。
「帰ってきますよ、絶対に」
ユキはイザベラを抱きしめた。
「ごめんなさいね、こんなとこを見せたいわけじゃなかったのに」
「大丈夫、私達同じ人間なんですから泣きたい時もありますよ。あまり思いつめないで」
二人に、友情が芽生えた。
「一緒に頑張ろうね、イザベラ」
「ええ、ユキ。よろしくお願いするわ」
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ではまた次回の話でお会いしましょう。




