五章二話 竜と侍の国
「ぐ…ここはどこだ?」
目覚めると、そこは砂浜だった。
どうやら海に落ちて海流に運ばれてきたようだな。
身体に目立った外傷はない。魔力は依然回復していなかった。どうやら力は魔力を溜める器ごと奪われたらしい。
あたりを見渡すと、人がいたような痕跡がちらほらと見つかった。少し歩き回ると、道を見つけた。
「仕方ない、とりあえずここがどこなのか調べるか。」
俺は生きて帰らねばならない。それも早急に。いつ仲間たちがあのバカ評議会に襲われるか分かったもんじゃないからな。
空間収納は起動できなかった。だから今の持ち物は指輪2つにイヤリング一つ。一つはイザベラとの結婚指輪、もうひとつはベルのくれたもの、最後にイヤリングだが、これには連絡機能がある。まあ遠すぎたのか使えなかったけどな。
「だれかお助けをーーーっ!!」
何か声がする。聞いたことがあるような…
ーーーーー
アッシュが去った評議会の会場では、皆が衝撃を受けていた。
「クソッ!使えないではないか、なんだこの炎の結界は!」
「あの外部からの攻撃、凄まじい威力だったというのに、こんな効果まで有していたとは。誰の力なんでしょうね…?」
魔女はそういって愉快そうに嗤った。
「そういえば、アッシュ=ダイアモンド、奴の姓は聞いたことがある気がする」
「太古の昔、邪神様との戦争で大活躍した憎き神の名前にあった気がするわ」
「神の加護を受けていたのか?」
「仮にそうとするならば、敵対にはもう少し準備時間が必要か」
「その通りだね、私も手伝ってあげる〜!」
悪巧みはつづく…
ーーーーー
「お助けをーーーっ!!」
悲鳴が聞こえたと思ったら、女性が走って来た。
「大丈夫か〜。何に追われてるんだ?」
「賊です!助けて!殺されるーー!」
後ろから追ってきたのは変な髪型のやつら。
髪を後頭部でまとめ、それを結って頭に戴いた…髷頭。
「まさか…侍!?」
いや間違いない、あの恰好、ちょんまげ、刀。明らかにお侍さんだ!
「とまれ!とまれ!身ぐるみ全て置いてゆけ!」
「野蛮だなぁ…武士の誇りはないのか?」
「何者だ。裸の男!」
……?
……………!!!
俺、素っ裸じゃん!
空間収納はないし、誰もいなかったから気にしてなかったけど…俺、何も着てなかった!
「追い剥ぎにでもあったか、男のくせに軟弱な!」
追い剥ぎにそれを言われるとは思わなかった。
「なんで裸なんですか!」
「海から流れ着いたからだけど?」
「え…ええ!余計意味がわかんないですよ!」
確かに。なんで服がないんだ?
「ええい!早くその女を渡せい!」
「くしゅんっ!」
おっと…少し寒いな。なんだか身体の性能が下がったからか、これ以上裸だと風邪を引きそうだ。
「無視するな!たたっ斬るぞ!」
「いい服持ってるな、追い剥ぎの方々?」
俺はいきなり侍に対して向かっていった。
思うように身体は動かないものの、突然のことで狼狽した侍に俺は右ストレートをお見舞いした。そのまま武器を奪うと、その横にいる武士を斬り捨てて、勢いで最後の一人も斬ってしまった。
「え…強っ!」
「オラ、お前のふんどし以外の服全部よこせ、でないとお前も斬っちまうぞ?」
最初に殴った追い剥ぎ侍は仲間二人を背中に乗せて、自分の服を脱いでそそくさと逃げだした。
「待って待って、ふんどし無しで服を着ないで!汚いですよ!」
助けた女性は自分の服の片袖をちぎって加工し、ふんどしを作った。
女の服でできた下着…なんかいかがわしいな。
「うん、ありがとう…」
「なぜそっちが引いているんですか、なんかこっちまで恥ずかしくなってきたでしょ!」
運動して、服を着た俺はかなり身体が温まった。
「さて、自己紹介しようか。俺はアッシュ=ダイアモンド。シルヴァー王国で公爵をしている。よろしくな!」
「はっ、拙者は武家藤田平蔵の長女、藤田ややと申す。窮地から救ってくださりありがとうございました!」
なんか口調にぎこちなさを感じるな。というか、武家?どうやらここはシルヴァー王国ではないようだな。どこか遠くの異国の地か。日本みたいだけど、どんなところなんだろうか。
「おう、よろしくな。ところで、普通に喋っていいよ?」
「え…でも恩義のある人には然るべき対応をですね…」
「いいよいいよ、気にしないでくれ。というか俺、遭難しちゃってさ、ここがどこかもわからないんだよね」
夜になれば星が見えるのでそれでわかるかもしれないと
思ったが、地図がなければ天文学の心得もない俺には無理な話だった。
「なんと…聞いたことがない国名だとは思ったのですが、まさかあの龍嵐を越えてきたのですか?!」
「龍嵐?」
「この列島の周りには他国の侵入を阻むように謎の嵐に囲われているんです、でござる」
謎のござるはさておき、そんな都合の良い嵐があるのか。魔法かな…
「だから別にござる口調じゃなくても…」
「はあ、そうですね。苦手なんですよ、この言い回し。なんならこの敬語も…嫁にいけません」
敬語を使えないと嫁に行けないのか。男尊女卑なところも日本そっくりだな。
「まあ別に気にしないけど、訓練のつもりで敬語だけは続けたらいい」
「はい、わかりました!遭難したということは、今日の宿がないでしょう、私の家に案内しますね」
ここまで話したが、まだここの正確な位置がわかっていない。ここはとりあえず一宿一飯の恩に与って、態勢を整えるとするか。
歩いているうちに色々と質問をしてみた。この列島は複数の大名が治める国から成っており、都には天上王という神の末裔がいて、この国を元首として守っているそうだ。
それぞれの国は天下統一を狙って争ってはいるものの、一応国としての連帯はあるという。変な国だな。他の国の制度と比べると、かなり不思議な感じだ。
今は前代の幕府が斃れ、新たな将軍を決める争いが起きているという。まさに戦国時代といった様相を呈しているな。
ややの家に着くと、ややの父母は俺を快く迎えてくれた。
彼女の父である藤田平蔵は義理堅い人物で、俺の事情を知ると、下女に命令して旅の装備を整えてくれた。
「お心遣い、痛み入ります」
「いえ、娘を助けてもらった恩人に向かって素っ気なくするは無粋なことでありましょう。して、これからどう立ち回るのですかな?」
「実は俺はここから遠く離れた国の貴族をやってまして、すぐ帰らなければならないのです。だからここを出たら出国の仕方を調べて回ります」
「なんと…海外からいらっしゃったというのか。いや、これ以上は聞くまい。ただ困ったことになりましたな…」
「何か不安要素が?」
「龍嵐はご存知でしょう?実はあの龍嵐、昔からあるものではなく、ここ数十年でできたものなのですよ 」
む?それが何か関係が…って!?
「龍嵐って、隙間とかないの?」
「ありません。ですが通る方法はあります」
平蔵さんがいうことには、龍嵐は国が乱れているときに現れ、安定したときには消えるという。つまり、この戦国時代を終わらせない限りは出られないということだ。
「えーっと…もうすぐ誰かが統一したりとかは…」
「まだ先は長いでしょうな」
本当に困ったことになった。竜の力さえあればあのくらいの嵐はものでもないのだが、今の俺の力は多くても末端の聖騎士団員くらいだ。
こうなったら…
「なるほど、貴重な情報をありがとうございます。じゃあ俺は誰かしらの天下統一を手伝ってきますね。」
「は、はあ!?」
それまで落ち着いた態度をとっていた平蔵さんが目を見開いた。
「だって、早く帰りたいじゃん」
「そんな無茶な!」
ややもかなり驚いている。
無茶を言っているのは確かだが、俺にはこれしか道がない。
「明日には発ちますけど、いいですか?」
「はあ…そうですか」
呆れたような顔をして、平蔵さんは俺を寝室に案内した。
大変なことになりそうだ。みんなのことは不安だが焦っていても仕方がない。ユキやイザベラがいるし、きっと大丈夫だろう。明日に備えて今日は眠るとしよう。
こんにちは、一介です。前話をもって新章に突入しましたが、これから本格的に"武士の国脱出編"が始まります。ここからはノートの書き溜めがないので更新が少しばかり遅くなると思いますが、平にご容赦を。
自分が納得できる作品創作をこれからもしていくので、ぜひブックマークなどして温かい目で見守っていただけると幸いです。もちろん、アドバイスや感想も大歓迎ですので、ぜひ書き込んでいってくださいね。
では、次の話でお会いしましょう。




