四章九話 首都防衛作戦
広い海、青い空、その向こうに見えるのは、軍勢。
「来たわね…総員警戒態勢に移行しなさい。奴らは宣戦布告の瞬間から襲ってくると思って対応して」
高らかにそう命令したのは、父である国王に今回の防衛の最高司令官に任命された王女、イザベラ=シルヴァ=ダイアモンドだった。
神聖魔法師団は防御魔法の構築を、聖騎士団、竜騎士団も武器を取り、静かに戦いの始まりを待っている。すると、魔法で拡声された声で、
『私は八魔将の一人、ロザムンデ。これより敬愛する魔王ゲーテ様に代わり、只今より我が国と貴国の戦争開始を宣言する』
と宣戦布告した。
「は、始まったよ!イザベラ!」
「いいからビビってないで強化魔法を展開してちょうだい?」
「むう…言われなくてもわかってるよ!水神魔法:常勝軍」
個々の地面に輝く魔法陣。とんでもない勢いで供給される身体強化。
魔人たちは強化された王国軍の予想外の抵抗に、上陸早々鼻っ柱を挫かれた。
「なんだ?急に力が増したぞ!」
「こんな貧弱な兵に負けるなど…ぐぁ!」
戦場は大混乱の渦に包まれた。
「僕にもフィードバックが来た、この力があれば戦えるぞ!」
流れる大河の水のように力は循環し、水神に力を与える。
これが水神魔法に付与された新たな効果、"信仰循環"である。
ベルは敵に向けて水で創った飛行する大量の剣で攻撃を繰り出した。
「天雨剣!」
それを食らった魔人たちは必死で対応するも、あえなく刻まれてしまった。
「何者だ…?」
ロザムンデは驚愕した。
「ご機嫌よう、指揮官殿。私の名前はイザベラ=シルヴァ=ダイアモンドです」
空中で綺麗な礼を決めてそう話しかけるイザベラ。
「この私と戦うというのか?」
「違いますわ」
「では降伏か?」
それを聞いて、彼女は首を横に振り…笑う。
「知ってますか。戦とはね、程度が同じ者との間でしか起きないのですよ?」
「は?」
「ふふ、やはり戦にはならないでしょう。愚かな貴方達とはね」
「魔王様を侮辱するか!」
イザベラは遠くからロザムンデを観察して、勝てると踏んだ。しかし、普通でなく狡猾な聖女イザベラは…
「侮辱?事実ですわ、お馬鹿さん」
「死ねぇ!炎剣舞踏!」
「天雷罰」
完全に攻撃態勢に入った瞬間、聖なる力を纏った雷がロザムンデの全身を貫く。
「グッ…貴様、狙っていたのか」
「何のことだかわかりませんわ。皆、拘束しなさい」
ロザムンデへの攻撃はギリギリ死なない威力で留められていた。
「知り合いになるべく殺さないでって言われてるの。投降してくださる?」
「クク、そうか…私はエレーナ様に助命していただいたか。」
「貴方、仕える一族を間違えてないと思うわ。かの魔王も何かに操られているんじゃないかしら」
「そうだといいがな…戦争など、馬鹿げている…」
そこでロザムンデは気を失った。
敵軍の攻撃も止んだ。
カナデが歩み寄ってイザベラに指示を仰ぎに来た。
「どうする、これからあちらに向かうか?」
「いいえ、ここで防衛に徹しましょう。よかった、魔王が来てなくて」
戦は三十分にすら満たず終了した。
「僕の勝ち!やったぞ、英雄だ!」
ベルも誇らしそうに勝鬨をあげた。すると他の兵士も同調した。
「すげぇぇぇ!」
「今の強化魔法、アンタのだったのか!」
「名前を聞かせてくれ!」
彼女はかなり勿体ぶってから答えた。
「君たちをサポートしたのはこの僕、ベルだ!崇め奉れ!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
その後、ベル親衛隊という謎の組織ができるのだが、彼女はそれを知る由もない。イザベラとカナデは顔をしかめていたが、士気が落ちるよりはマシだと割り切った。
「さて、両騎士団を除く王国軍は総員臨時の捕虜滞在所を設営しなさい」
こうして、首都防衛はいとも容易く完遂したのだった。
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だだ広い平野を港町に向けて進軍する魔王軍。しかし、その歩みが止まる。
「魔王様、何やら使者と名乗るものがやってきました。いかがいたしますか?」
「…通せ」
目の前に現れたのは黒髪に緑の蛇のようなメッシュの入った妖艶な女性だった。腰には細く長い太刀が提げられており、その足取りは本物の武人そのものだった。
「素性と要件を言うがいい」
「妾はシルヴァー王国公爵アッシュ=ダイアモンドが配下の一人、オロコと申す。そなたらの軍事行動について警告しに来たのじゃ、心して聞くが良い」
魔王ゲーテは黙って続きを促した。
「まず、この軍事行動は聖シルヴァー王国に対する進軍行為ということで良いのか?」
「勿論だ」
「では警告する。これ以上の進軍をした場合、こちらから貴様らを攻撃させてもらう」
ゲーテは少し考えた後、こう言った。
「愚問だな、その者は消せ」
そう言い放った瞬間、使者オロコは姿を眩ませた。
側近の兵の攻撃は空を凪いで終わった。
「それが答えか?ならば後悔するがいい。貴様らが相手するのは…規格外の存在じゃからの」
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