四章五話 竜の邂逅・異世勇者
「鬼さんこちら〜!」
「待て待てー!」
窓の向こうの公園には、子ども達が賑やかに遊んでいた。
十数年前、彼女は健やかに生まれた。毎日勉強して、両親の元で素直に育つ…はずだった。彼女は年を追うごとに体が弱くなり、もはや自分の部屋から外の風景を見ることしかできなくなっていた。
「母さん、ごめんね。私、上手く成長できなくて」
「幽希…」
「でも、勉強頑張るから」
「ええ、気をしっかりもつのよ。あなたはきっと治るから!」
父親は働きながら必死に治療法を探しているが、手がかりさえ見つからない。それでも弛まず毎日勉強した。
そんなある日。
「幽希、隣の榊原さんちの子どもを少し預かることになったから、少し相手してあげてくれる?」
「え、いいけど…そんな年じゃないよね、その子」
「あなたの三個下って、小学六年生でしょ。私もそう思ったんだけど、心配症なのね。両親二人とも出張が重なったみたいで…」
入ってきたのは利発そうな男の子だった。
「こんにちは、お名前は?」
「榊原灰人です。お世話になります」
「礼儀正しいね、とりあえずここでくつろいでおいて」
「綺麗だな…」
「え?」
「あ、いや、部屋が綺麗だなと思っただけです」
彼は周りを見回していた。
「ありがとう、この部屋の中でくらいしか動けないから綺麗にしてるの」
「動けない?」
「あ、うん…まあ暗い話なんだけど、聞く?」
「聞く」
自分が病弱で、あまり動けないことを伝えると彼は驚いた。
「それでこんなに沢山本を用意して勉強を?すごっ。普通にソンケーもんだよ」
「でしょ、治ったら社会で活躍できるよ…!」
「確かに!」
彼は優しかった。明るく振る舞えばそれを盛り立ててくれ、悲しい話になると慰めてくれた。
家にいる間、学校での話を聞かせてくれた。どうやら人気者である様子だ。
夕飯を食べると、彼は帰っていった。そして次の日。
「お邪魔しまーす!」
「え?なんでいるの?」
「暇だからきた。勉強教えてくれよ」
「いいけど…」
それから毎日彼は部屋にやってくるようになり、彼女から沢山の知識を吸収していった。
「見て、最近この動画配信者にハマってるんだよね」
「あ、出た。話題になってる人ね?名前はえっと…」
「絡繰ちはやって人だよ、この見た目が好きなんだ」
「やっぱり見た目か!」
「なんだよ!悪いか?」
「アハハ、こういう女の子が好きなんだ…」
「現実は違うし!」
彼女は出かけることすらままならなかったけれど、彼が来てくれてそれだけで幸せだった。
「治療法が見つかった?」
「あぁ、しかも貯めてたお金で足りそうだ」
その年の秋、母親と彼女の前で父親はそう言った。
皆で喜びを分かち合った。彼女はその持っていた病気を治し、一層勉強した。
そして次の年、彼女は高校に入学した。
「良かったな」
「灰人ありがとう。あなたのお陰だよ」
「そんなわけないだろ。お前の努力じゃないのか?」
「感謝は素直に受け取って!」
「はいはい、どういたしまして」
大学は一緒のところに行こうと誘うと、じゃあ二人の将来の夢がかけ離れてても大丈夫なように一番頭が良い所に行こうと言ってくれた。
(これだけ仲いいし、もしそうなったら…)
上京して大学に入り、その中でも弛まず必死で勉強。
しかし、ある日から連絡が来なくなった。
不思議に思いつつ、帰省した時に隣の家を訪れた。
(何気に初めてかな?私から行くのは)
そして家にあげてもらったが、彼の両親から聞かされたのは衝撃の事実。
「失踪……ですか?」
「そうなの。あなた何か知らない?あの子、別に思い詰めた様子でもなかったの。コンビニでエナジードリンク買ってくるって言ってここ二週間帰ってないのよ」
探した。沢山作った知り合いたちに声をかけて、自分も一緒に探した。
そして見つかったのは…死体だった。ふと覗いた道路の溝の奥に遺骨が残っていた。
警察が調べたところ、彼の死因は病気だった。
病気で倒れて溝に入り、そのまま見つからず死んでしまっていた。
それからというもの、彼女の目には光がともらなくなっていた。
なぜ自分は病気から助かり、恩人の彼は病気で死ぬのか。
空っぽになってしまった心を何かで埋めようと、就職先で働き続けた。
一人暮らしのアパートに帰り、暗い部屋で虚ろにテレビを見つめた。
(もう、無理かもしれない…)
彼女は気づいていないがその時、不思議な光に包まれていた。
そして…
「気がついた?ちゃんと自分の意識はある?」
どこか温かい雰囲気の部屋のベッドで目覚めた。
「……えっ!?」
目の前にいたのは当時彼が推していた配信者とそっくりの顔つきの女の子だ。
「何、どうかした?そんなに見つめて」
「ここは一体…ていうかあなたは…?」
「あ、そっか。じゃあまず私が自己紹介するよ?私の名前は…」
「絡繰…ちはや?」
「知ってるの!?あ、異世界の人か。って、私のリスナーだったの!?」
「は、はは。面白い夢ね」
「夢じゃないよ」
見覚えのある顔とこの状況から夢かと勘違いしていたが、ここが異世界であり、自分が召喚された勇者であることを説明された。
何度もほっぺをつねったけれど、しっかり痛い。
「だから夢じゃないって!まあ私も困惑したけどね。いきなりこんな世界で生きることになっちゃったし、現実がコンプレックスだったからなのかこの姿で生まれ落ちたしで大変だったんだよ?」
「私は園田幽希、何のためにこの世界に私は呼ばれたの?」
「えっと、実はあなたを呼んだ人が国家転覆を企んでて、私達に殺されちゃってるの。事前に止められなくて申し訳ないって今仕事に行ってる私達のリーダーのアッシュさんが言ってた」
「そっか…」
「何かあっちで未練があった?」
そう聞かれた幽希は哀しげな顔をして
「いえ、もうないの。私…」
今までのことを詳しく話すと、ちはやと名乗るその少女はとても感情移入して聞いた。
「そんな…そんな悲しい話あっていいの!?」
「だから私、色々と辛くなっちゃって…」
お互いに身の上話をしていると、ドアが開いて長身の男が、入ってきた。
「起きたか、勇者さん」
「アッシュさん、お疲れ様です!この子、ソノダユキって言うそうです!」
ユキじゃなくてユウキだが、もうそれで良いと思った。自分には勇気がないと思うからこの名前は内心好いてはいなかったのだ。
「よ、ちはや。ありがとな、俺も話したいことがあるから一度退出してくれるか?」
「わかりました、失礼します」
ちはやは幽希に目配せをしてその場を去った。
ーーーーー
俺が開拓予定地の測量をしているうちに勇者は目覚めたようだ。
あれだけの力を持つ人間がこれからどうするか。これを聞かなければいけないだろう。ちはやが部屋から出ていって、俺はベッドの横の椅子に腰掛けた。
「ユキさんか。俺はアッシュ=ダイアモンド。この国で公爵という地位を預かっている者だ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「ある程度の状況は飲み込めているか?」
「えっと、まあ大体は…」
「異世界に来てしまったのはとても不本意だったと思うけど、俺は貴方に知っておいて欲しいことがあるんだ。結構重要でショッキングな話なんだけど、聞く覚悟ある?」
ここで無理なら、とりあえずこれからのことを聞こう。
「じゃあ、お願いします」
「本当に大丈夫か?」
「…多分」
「実はあなたがこの世界に呼ぶためには、その魔法を発動するために膨大なエネルギーを必要とするんだ。」
「魔法…あ、はい。続けて、ください」
「そこで利用されるエネルギーっていうのは人の魂で、つまり…」
「私が呼ばれるために沢山の人死んでしまった、みたいな話ですか…?」
「そういうことなんだ。だから貴女には申し訳ないけど…」
「償って死んだ方が良いですかね」
何だと!?とんでもないことを言い出したぞ、この人。
「違うよ、そうなったら犠牲の後に何も残らなくなるだろ!」
「じゃあ何が言いたいんですか!」
「彼らの死に意味を持たせて欲しいって、思ったんだ。」
「え…」
「貴女は勿論望んで呼ばれたわけじゃないし、何も罪はないんだ。なんだったら事前に止められなかった俺達に責任はあると思う」
「そんな、そんなことは」
「いや、あるね」
俺の魔法への知識がもっと深ければ防げていた事態だった。
「でもそんな俺達が今から彼らにできることなんて一つもありゃしないんだよ」
「……」
「だから、貴女には生きて欲しいんだ。彼らの、犠牲者の心が少しでも救われるようにね」
無責任なことを言っているのはわかっている。これが俺のエゴだってことも。
「目を見たらわかる。貴女は何かに絶望してるだろ」
彼女の顔色が変わった。
「昔、俺の周りにはこんな人がいた。自分がこれから生きられるかもわからないのに、ずっと自分がどこかで輝く日が来ると信じ続けていた人がな。しかも聞いたらそれは自分の為じゃなくて、他人の為っていうんだ。貴女や人間が感じる絶望は、乗り越えられないものじゃないと、俺は思う…」
何故か俺は前世で身近だった名前や顔は思い出せないけど、あの人はとても強かった。
「貴方は…その、異世界人ですか?」
ばれた。まあばれたからどうということもないんだけどな。
「ああ、何でわかったんだ?」
「ちはやさんの名前…」
「え、まさかそういうことか?」
「私も知ってたので。昔知り合いに教えてもらったんです」
そうなのか。こんなところにリスナーがいたとは。
「マジで?俺は知り合いに教えたけどあまりウケが良くなかったからな…」
待て、話が脱線し過ぎている。って、ん?泣いてる?
「なんだ、どうしたんだ急に!」
「いえ、少し昔のことを思い出したの。それよりも私、貴方に付いていきます」
そんなに俺に親近感が湧いたのか。
「わかった。頼むから貴方は幸せに生きてくれよ」
「はい。きっとそれが私が呼ばれるために亡くなった人達へのせめての手向けになると思うから」
言いたいことは言ったし、彼女の瞳に光が灯った。良かった、あの雰囲気だと自殺とかしそうな勢いだったからな。
アッシュが部屋から出ていった。
「そっか。こんなところにいたのね」
ぽつりと、泣き笑いのような顔をしてそう言った。
彼女もまた、数奇な運命を歩む者。
不可思議な力や意志の渦巻くこの世界でどのように生きていくのだろう。
こんにちは、一介です。報告が遅れましたが、この作品のタイトルに、サブタイトルを付けました。
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ではまた次回の話でお会いしましょう。




