四章一話 光の中で蠢く野望
ここは聖地の大聖堂の一室。
老いた大司祭たちが集まり、円卓を囲んでいた。
「首尾はどうかね?」
「計画は順調だ。地方の民の籠絡ももうすぐ終わる」
「新しい公爵は不審な動きを見せているようだが…」
「取るに足らぬ。我々の計画が発動したとき、あの駄竜も滅ぶだろう」
「聖女がまだ手中にあれば楽だったというのに、主神の弟子だからと、図に乗りおって!」
そんな会話をしていると、扉が開き、一人の女性が入ってきた。
赤い宝石が散りばめられたドレスに、金剛石のあしらわれたイヤリング。
「おお、歓迎いたします」
「我々の計画には貴方が必要だ」
「………」
篤い歓待を無視し、黙って円卓の一席に座る女性。
「頼りにしておりますぞ、ガーネット様?」
「…知るか。貴様らが何を考えているのか知らんが、義理を果たす為だ。」
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俺の姿もすっかり元に戻り、さらに活気づく屋敷。
「我々も貴方様の傘下に加えていただけませんか!」
案内した応接間でそう言ってきたのは、龍人の里の姫、小咲さんだった。いきなり訪問してきたかと思うと、いきなりそんな事を言い出したのだ。
「近頃、多人種との均衡が崩れ始めています。争いが起きる前に貴方様の下に仕えれば、お力になって頂けるのではないかと」
なるほど、牛人族が俺の傘下に入り、大幅に勢力を強めたことによって北の方に住む亜人種の村々の均衡が崩れたのか。
そういえば国王も、北方の管理が大変で困っていると言っていたな。北と言うと師匠の住む森がある。それも影響してか、俺に統治を任せたいなんて話も挙がってたっけ。
「アッシュ君、色々と考えてるのは良いけど、小咲さん、緊張でおかしくなりそうよ」
隣に座るイザベラに言われて見ると小咲さんはストレスからか顔をしかめていた。
「おお、悪いな。少し考えるからここで待っててくれ。イザベラ、相談しよう」
「ええ、わかったわ」
「どうする、この前お義父さんから持ちかけられた北の統治の話を受けて俺が亜人種たちをまとめるか?」
「私は良いけど、大変じゃない?」
「領地開拓は楽しそうだな、街を作って、畑をつくってだな…」
「皆にも意見を聞かなくちゃね、私たちだけじゃ決められないわ」
小咲さんはしばらく王都に滞在するらしく、宿に戻ってもらった。
そしてお昼を挟んで仲間たちを集めると、北の地へ転居したいということを発表した。
「反対のやつはいるか〜?」
皆ざわざわと会話しているが、異論はないようだ。
「北方の亜人種を支配下に置き、争いをなくすということか、俺様も手伝うぜ」
「私も大学で学べることはもうほとんどありませんし、付いていきます!」
ヘルメスやアメリもやる気があるのか、そう発言した。
「じゃあ反対もいないようだな。二ヶ月後に引っ越しを始めるから、ここに友達がいる奴はしっかり知らせておくんだぞ?」
意外とみんなドライだな。ここに特に思い入れもないのか?
「アッシュ様、教会より招待状が届きました」
教会、俺を敵視してる教会が俺に招待状とは、どういう風の吹き回しだ?
「ありがとう、モノ。後で目を通すよ」
どうせ何かの集会だろう。そんなことより領地開拓だ!楽しみだな、木を切って、家を建てて、畑を起こし、貿易とかをするのだ。ワクワクするとは、まさにこういう気分の事をいうのだろう。
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転居決定から三日後の夜。
「アッシュ様、ご無沙汰しておりました。報告したき事がございます」
うお、びっくりしたぁ。最近寝られるようになったので寝ようと思っていたら、窓からブラックオパールが入ってきた。
「割と久しぶりだな。何かあったのか?」
「左様、教会にて不審な動きが起きております。どうやら大司祭の者共が何かを企んでおるようです。聖結界の影響で詳しくはわかりませんでしたが、次の集会で何か事を起こすようです」
この前届いた招待状には、神の生誕記念式典と書いてあったが…
「まあ、なんとかなるだろ。道理に合わないことが起きたら俺が止めるよ」
「流石は金剛を受け継ぐ御方、ですがこの作戦には"宝石"が関わっています。柘榴石も義理を果たすため嫌嫌従っているようですが、お気をつけ下さい。では、私は調査を再開します。集会の前日もどこかで報告いたします」
柘榴石…つまり、紫水晶、蛋白石と同じ、コーラルの配下だ。
確かに彼らには油断できない実力と智謀がある。多分何かあったら協力してくれると思うが、少しは警戒しておいたほうがよさそうだな。
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「引っ越し計画はまあこんな感じか。」
「ここまで大所帯だと、移動も大変じゃのう」
「まあそこは仕方ないな。流石に全員俺の背中に乗せるのは無理だし、そもそも荷物もたくさんある」
次の日、仕事を終わらせた昼下がりにオロコ、ミスジ、マルタをつれて外に飯を食いにいくと、なにやら騒ぎが起きていた。
「おいババァ、この店はメシにゴミを入れるのか?」
「滅相もない、そんなことは絶対にありません!」
「事実入ってんじゃねぇか!ぶっ殺すぞ?」
とんでもないいちゃもんを付けている。今明らかに懐からゴミを取り出した。
「止めますか、ダンナ?」
「そうだな、止めてこ…」
「わははは、わははははは!」
ミスジが動こうとすると、テーブルの席に座っていた男が突然笑い出した。
「あ…?何笑ってやがる」
「……」
「おい!聞いてんのかジジイ!」
「身共かな?」
「お前に聞いてんだよ!何笑ってんだこの野郎!」
「やけに大きな声をだすやつよ。自ら懐に仕込んだ塵芥を飯の種に使うとは、面白いではないか、ウフフ」
「なんだと…てめぇ殺されたいのか!」
「身共かな?」
完全におちょくられている。それよりも気になるのはその男の容姿だ。その洗練された肉体を包んでいるのは、和風の着物だ。そして、一本の日本刀。
「これ以上バカにするんなら死ね!」
ゴロツキは斧を取り出して斬り掛かった。
「無属性魔法:電磁誘引」
見ているだけも良くない気がしたので斧を魔法で引っ張り強奪した。
「おい、他人の店で騒いでんじゃねぇ。しょっ引くぞ」
「あ、アッシュ様だ…」
「スゲェ、あれは上位魔人を一振りで討ち取ったというオロコ様か?」
俺が来たことに気づくと、ゴロツキは逃げていった。
「じいさん、不思議な恰好してるな。お侍さんか?」
「ほう、身共の素性が分かる者はこの世界には少ないと思うたが」
俺も勿論生の侍は初めて見た。古風な言葉遣い、その隙のない所作、豪胆な笑い方、本物だろう。
「名前を聞いていいか?」
「良かろう。身共の名は早乙女水之介、エド三百万石直参旗本じゃ」
エド…?コイツ、まあまあすごいやつ…っていうか、教科書に載るレベル
の有名人じゃねぇか!
「諸翼流皆伝の使い手、額から頬にかかる三日月傷、民衆から愛された名物侍"退屈水之助"…ね」
「そこまで知っておるとは、よもや貴様、日本の知識があるのか」
こんなとこで会えるなんて、サインが欲しいところだ。
「異世界に来ても諸国漫遊という訳か」
「無論、同じところに留まったとて何があるということもない。退屈払いに旅をしているだけよ」
とりあえず会えた記念に宿を紹介して、奢っておいた。
側近が二人いたが、おそらく有名な妹の菊姫と腹心の鏡夜と見られる。
もし彼らが言っていることが嘘でないならば、この世界と異世界にはあまり時空間の関係がないようだ。
となると…特定の時代に人を帰すことはほとんど不可能っぽいな。
俺は別に前の世界に未練はないけど、ある人は可哀想だな。
「ダンナ、飯食い忘れてますぜ」
「屋敷に戻ってきちゃったよ、もう一回いくか?」
「いや、もうこっちで済ませましょう」
「そうだな」
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