三章一話 新生活
「でっか…」
俺達はこれから住む予定の屋敷に来ていた。首都郊外にある広い敷地だ。例えると、学校くらいデカい。
「大出世だね、アッシュ」
「まあそうだな、ここまでとは予想外だが」
「アッシュ君ー!なんで従者をみんな断っちゃったの!?」
イザベラがミスジの引く馬車に荷物を載せてやってきた。イザベラは婚約してからというもの、君付けで呼んでくれるようになった。
「アテがあったからな、ほら来たぞ」
アメリが沢山の少女を連れてやってきた。
「うわあ、大きなお屋敷ですね。アッシュ様。」
「アッシュ君、この子達は…?」
「こいつ等は先の邪教徒戦争のときに連れてきた奴隷だった人達だよ」
孤児院に預けていこうと思っていたのだが、こうなったらここで働いて
貰おうと思って連れてきたのだ。それにしてもこの少女たちはそれぞれ魔力が膨大なやつがいたり、なんかの資質がありそうな雰囲気の子が多かった。だから俺の手で教育しようとも考えている
「だからメイド服と子供用の服だけ持ってきてって言ったのね。じゃ、荷解きして部屋決めしましょう!」
屋敷は三階建てで、一階は広間、吹き抜けて二階は客室、三階には二つの部屋と執務室が二つあった。あの王様がめちゃくちゃ口出ししてイザベラの嫁入り道具として建てた屋敷だったそうだが、雰囲気がよく贅沢し過ぎていない内装でとても落ち着く。離れも建っていたので少女たちにはそこに住んでもらうことにした。アパートっぽい雰囲気で、まだ部屋に余りがある位の部屋数だ。マジで広すぎだろ、ここ。
庭の雑草を全て取り除き、魔法で地質を整えると、学校のグラウンドのようになった。
それから何日かかけていくつか必要なものを買い込んで、工房を建てたりキッチンを改造したりした。
「アッシュ君、こういうの好きなの?」
「そうだな、ワクワクするだろ?」
「アッシュ君が連れてきた子達、皆飲み込みが早くてもう働いてくれてるわ。凄いわね」
「そうだイザベラ、教室が出来たから非番のやつを連れてきてくれないか?」
「勉強させるのね?でも、メイドとして使うだけならそんなことしなくても…」
この国は教育の制度があまりない。庶民の子供はほとんど学校にいかず親に読み書きと計算だけを習い働きに出る。
「この国にはまだ才能を持った人間が埋もれてると思うんだ。だから、いつかはそんな奴らを皆勉強させて、そこ生まれ持った能力を発揮させたいんだ。そしたら国力が高まるだろ?」
「三歳くらいのくせに、色々考えているのね。」
「まあな、できる三歳なのだよ」
「そういえば部屋になにか沢山書いてある紙があったけどあれはなに?」
おそらくアレだ。元奴隷だった少女達に名前がなかったから付けようと考えていたやつだ。
「名前だよ、名前。あいつ等の呼び名を考えていたんだ」
「へえ。モノ、セノ、ラムダ、マルタ、トルニア…よくこんなに出てくるわね」
「あと二十個は要るだろうな。語感がいいものを選んでるが、それでも限界がありそうだ」
「おいアッシュ、思いついたぞ!ワンダーランドはどうだ?」
ベルがやってきてそういった。
「却下」
「何がいけないんだよ!」
「うるさい、もっと短いのを考えろよ!」
「むう、グランドピアノもワンダーランドも駄目なら何が良いっていうんだよ…」
ブツブツと文句を言いながらベルはどこかへ行ってしまった。
「ふふ、色んな人にたのんでるのね」
「一人で考えることでもないからな」
名前は決まり次第その人に手紙で伝えた。その手紙には俺の率直な考えと名前だけをしたためて、勉強用の本と共に贈った。
すると数日後から一部の子供たちは俺の所に来て学問を習いたいと申し出るものが出てきた。そして一月も経つうちにはほとんどのやつらが勉強に取り組み始めた。残るは心を病んでしまい、ベッドでじっとしてほとんど廃人のようになってしまったものだけだ。
毎週一回は会いに言って少しずつ会話をしているが、なかなかに難しい。今度心の医者でも探してみるか、わからないことをこねくり回したってわからないしな。
ーーーーー
一週間が経った昼下がり。俺は執務室で書類に目を通していると、メイド服を着た女の子が入ってきた。
「アッシュお兄さん、お客様がお見えです」
「誰が来たんだ?」
「聖騎士団長のカナデ様です。お仕事の依頼だそうですよ」
「わかった。準備するから応接間に通しておいてくれ」
「はい!かしこまりました!」
この子はモノといって元奴隷の一人だ。最初期から元気で、俺専属のメイドとして働いてくれている。なんでも、保護中に王城で見たメイドさんに憧れを抱いたと言っていた。髪型はショートで、小さいが気配りができるメイド服が板についた少女だった。
「アッシュ兄さん!後で訓練しよう!準備は出来てるんだ」
で、このドアを蹴飛ばすように入ってきたのはセノだ。モノと同じくらいの背丈だが、かなりお転婆だ。かなり。
「わかった。じゃあ今からお客さんと話してくるから、その後な」
「やったあ!」
「終わるまでに少しは勉強もしておけよ。あと部屋に入るときはノックしろ」
「了解した!勉強してくる!」
元気なのはいいことなんだが…なんていうか、落ち着いてほしい。
応接間に入ると聖騎士団長カナデがソファーに座っていた。というか転んでいた。
「え?」
「…!?」
随分くつろいでいるようだが、そんなキャラだっけ?
「今のは、その、忘れてくれ」
「で、仕事の依頼ってのは?」
「ああ、この国では奴隷は一応一定数いるんだ。我が王はそれを無くしたいと考えている。」
奴隷?そんなのがいたのか…
「俺は見たことがないけど…」
「そんな道徳的でないことはこの国では白い目で見られるからな。裏で雑用に使っていることも多い。だからその根源を絶ちたい」
「それに協力するのが仕事か」
「そういう事になる。」
俺も奴隷という概念には抵抗感がある。しかし…奴隷には奴隷になった事情というものもある。特にいうと経済的問題だ。
「カナデ、もし仮に奴隷を助けたりしたとしてその奴隷はどうするんだ?」
「幼いものは孤児院に、ある程度の年齢の者は城で雇うことになっているんだ。」
なるほど、アフターケアもバッチリなのか。
「仕事内容以外で他に質問はあるか?」
「奴隷予備軍はどうする?」
「奴隷予備軍…?」
「いまにもなりそうな奴らだよ。そいつらも気にかけないと多分…死ぬぞ」
奴隷制度を撤廃すると言うのならば、それに生活を頼るしかないものへ救済措置を取らねばならない。
「なるほど…わかった。そちらもなんとかしよう。」
「公共事業でも始めれば労働者需要が増えたりするんだよな」
「ダム建設とかか?」
む?なんかコイツ、考えが現代っていうか、ダムなんて概念がこの世界にあったっけ?そういえばこいつの名前って、ミソラ・カナデだったよな。
「お前、名前とか聞いて思ったけど、異世界の人間だったりする?ぶっちゃけた話、日本人だろ?」
「なんでわかったんだ?」
正解だったようだな。その辺の話も聞いてみたいものだ。
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