二章七話 竜と牛
蛮族の拠点を消し飛ばした後、俺達は馬車を買って逃げるように町から出た。
「馬車はラクだなぁ」
「そろそろ御者かわれよ」
「………」
こいつ、シカトしやがった。まあいい、徒歩の時みたいに文句を言われるよりはマシだからな。
小さな森に入ったが、何やら妙な気配がする。というかめちゃくちゃこっちに走ってきている。
「邪魔するぜ!お前ら、食料を寄越せ。でないとただじゃ置かねぇぜ」
横柄な態度で現れたのは、牛頭の毛むくじゃらな人?魔物?っぽい奴だった。
「生憎お前に分ける程もってないんだ。見たところ強者に見えるし、ここには狩れる獲物もいると思うが」
「立派な角の牛だね。アッシュ、どうするんだい?」
すると牛頭の男はかなり怒った様子で
「お前ら、俺を舐めてるだろ!何が分けるだ、全部寄越せばいいんだよ!」
と叫んだ。少しムカついたので、
「牛なら草食だろ?ほら、そこに草が沢山生えてるじゃないか。食べないのか?」
と言ってやった。と、次の瞬間。
牛頭は馬車の馬を殺し、食べた。
「ハハハハハ、従って置けば許してやったのによ。渡さないなら奪うまでよ」
「うわぁ!なんてことをするんだ!」
思わずベルが叫ぶと
「お、そこの女。中々面がいいじゃねえか。俺と来るか?」
とかのたまった。いい度胸してんな、こいつ。とりあえずシメるか。
「食った分働いてもらうぞ」
「俺を働かせるなんて、百年早え!俺は俺より弱いやつの下には…グハァッ!」
馬車から降り、地を蹴って距離をつめた。そして一発ストレートを食らわせ、怯んだ所を両手で二本の角を掴む。
「井の中の蛙大海を知らずって言葉を知ってるか?お前は牛だから、森の中の牛世界を知らずってやつだな」
掴んだ角で無理矢理引き寄せ、膝蹴りを決めた。地面に倒して角を踏み抜き折った。
「俺の角が、折られた!」
「もう片方も折って対称にしてやろうか?」
「いや、わかった。やめてくれ、降参だ。アンタに忠誠を誓う、なんでもするから助けてくれ!」
動物の本能なのか、命乞いを始めた。
「アッシュ、こいつどうする?」
「馬車馬がいないし、力が強そうだからこの牛に馬車を引かせよう。おい、断らないよな?」
「勿論ですぜ!俺は旦那に忠誠を誓ったんだ。なんでもするし、どこまでもついていきますよ!」
急に従順になったな、まあいい。こいつも世間知らずだったんだ、許して仲間にしてやろう。昨日の敵は今日の友、なんていうしな。
「お前、名前はなんて言うんだ」
「なんとでも呼んで下せえ、俺は名前がねぇ。普通は親の名前を継ぐんだが俺は親に捨てられたから継げなかったんですよ」
大方、暴れん坊で手に負えなかったんだろうな。だとしてもなんだか可哀想だな。
「そうか、じゃあお前は今日からミスジな。異論は認めないから、今日から俺の配下として働けよ」
「はい!誠心誠意仕えさせて頂きます!何なりと命令を!」
「じゃあ、堅苦しくしなくていいから。馬車ひいて、ミスジ」
「はい、是非!」
綱を握って馬車を引き始めた背中は、俺の気のせいかもしれないがとても嬉しそうに見えた。親に捨てられたなんてアイツはさっぱり言ったが、本当は寂しかったのかもな。
こうして、新たな配下のミスジが旅の仲間に加わった。
三日程経ってミスジも俺達に馴染んできた。
「美味え!こいつはめちゃくちゃ美味え!」
ミスジは料理どころか火を通したものすら食べたことがなかったらしい。出したメシを器用に箸で食べてここ三日感動しっぱなしだった。
「そうだろう、アッシュの料理はうまいんだ」
「なんでお前がドヤ顔してるんだ?ベル」
「別にいいだろう!」
「食ったら行くぞ、お前ら」
俺はルートの確認をする。ベルは野営道具を片付け、ミスジは馬車の手入れをした。
ミスジは馬より機転が利くので、旅がかなり楽になった。
余裕があるのか馬車を引きながら本を読んで少しずつ勉強している。前の町でも見たが、獣人などの動物の頭を持つ者たちは力が強く重宝されていた。差別するものもいたが社会全体としては受け入れられているようだな。きっと獣人は素直なやつが多いからだろう。地図をみたら、もうすぐ着くことがわかった。今度は面倒事がないといいが…
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