ネットの神様とレッド神
お姉さんは目を覚ました。両手には手錠が嵌められ、両手を上に揚げられて上から宙づりにされていた。足は床に着いていた。
前方には玉座と思しき物があり、そこに赤いローブを羽織った白い仮面を付けた男が座っていた。後ろには二本の斧が交差して置かれていた。
男は仮面を剝ぎ取った。その顔は紛れもない、元恋人、龍彦のものだった。
「千秋、何故俺をふった!」
「だって、いつも仕事が忙しい、忙しい、て言ってあたしにぜんぜんかまってくれなかったじゃない!」
「男にとっては仕事が一番なんだ!」
龍彦は食事をはじめた。
すると後方から赤いローブを羽織った鞭を持った男が2人現れた。1人の男が鞭をお姉さんの背中に振り下ろした。
「うっ!」背中に激痛が走った。
「お姉さん大丈夫ですか?」とお姉さんの左手首に嵌められたスマートウォッチくんが叫んだ。
「だ、大丈夫よ…」
もう1人の男がお姉さんの背中に鞭を振り下ろした。
お姉さんは息が荒くなった。
もう1人の男が鞭を振り下ろそうとした時、後ろでガタガタと足音がした。
利夫さんを含めた警察官たちが階段を降りてくる音だった。
「ど、どうしてここがわかった」と龍彦が叫んだ。
「千秋のしているスマートウォッチくんにはGPS機能が搭載されている。それで居場所をつきとめたのさ!」と利夫さんが言った。
「このやろう」と龍彦が斧を持って警官隊に立ち向かってきた。
警察官が龍彦に発砲した。弾は龍彦の胸に命中し、龍彦はその場に倒れ込んだ。すると龍彦の体から、赤い煙のようなものがモクモクと出だし、人の形の様な物を形成しだした。
その姿は、鬼神、雷様のような風貌だった。
「この役立たずめが、死んでしまいおったわ!」
すると利夫さんの持ってたタブレットくんから白い煙がモクモクと出だし、ネットの神様が現れた。
「おのれレッド神、お前の好きな様にはさせんぞ!」
「何を、じゃあここで勝負をつけるか!」
「おう、望むところじゃ!」
すると利夫さんが「まあまあお二人とも」と割って入った。
利夫さんは2人の間に壊れたスマホを置いた。
「この勝負はどちらかがスマホくんを支配出来るか、蘇生出来るか、という事でつけませんか?」
「おう面白そうじゃの」
「よし、わかった」
ネットの神様とレッド神は目からビームを放ち、壊れたスマホに命中させた。
スマホくんは夢心地だった。だんだん意識がハッキリしてきた。
人間なんてみんな勝手だ、お互いが自分の意見を主張し傷つけあっている。インターネットだってそうだ。人の悪口や罵詈雑言、中傷ばかりだ。人間なんて所詮エゴイストの塊なのだ。
しかし、待てよ、人間は人の心無い中傷を軸に成長していく、嫌な事があってもそれをバネにして乗り越えていく。時には嫌なことだって必要なのだ!それが試練なのだ、神様は人間に敢えて試練を与えてやっているのだ。人間は悲しみを愛に変えて成長していく。それこそに大きな意味があるのだ!
壊れたスマホに機関車トーマスのような顔が現れた。従来のスマホくんが復活した。
「フォッフォッフォッ、どうやら勝負は見えたようじゃの」
「おのれ、ここは一先ず見過ごしてやる、しかしこのままで済むと思うな!」レッド神は退散んしていった。
利夫さんはお姉さんの手錠を外してやった。
「大丈夫か?千秋」
「大丈夫よ…」
お姉さんは倒れている龍彦の方を見た。
「あの男…」
「大丈夫だ、死んでいる」
「フゥーッ」とお姉さんは利夫さんの胸に倒れ込んだ。
利夫さんはそれを優しく受け止めてやった。