危機‼
日が暮れ、夜になった。白石親子はスマホくんに釘付けになった。
「わぁ~、面白い、ちゃんと顔もあるし手足も付いてる」と娘の方が言った。
「お嬢さんお名前はなんていうんですか?」
「ゆかりよ、白石ゆかり、ていうの」
「ゆかりさんは何年生なんですか?」
「中二よ」
「へぇ~、幼くみえるんですね」とスマホくんと白石ゆかりは語り合った。
「でもレッド・ドーンで拷問の餌食にされそうになったのは怖かったでしょう」
「怖かった、あんな宗教団体イカサマよ!」
「そこから逃げて来たのは正解です」
その時インターホンが鳴った。
「あれ、誰かしら」
「迂闊に出ない方がいいかもよ」
ゆかりの母親はインターホンの受話器を取った。
「どなたですか?」
「すみませせん、お届物です」
親子は顔をあわせた。モニターに映ったのは眼鏡をかけた配達員の若い男だった。
「利夫さんに何か届け物なのかも知れない、一応出てみるわ」
ゆかりの母親は玄関のドアをおそるおそる開けた。すると玄関は強引に開け放たれ、外から男達がドカドカと入って来た。全部で3人いた。
「神妙にしろ」と男の一人が言った。
男たちは白石親子をねじ伏せた。
「あなたたち、もう警察や利夫さんには通報しました」とスマホくんがいった。
「ゲッ、スマホが喋った!」
「もうすぐしたら警察が来ますからね」
「何を、こうしてやるっ」
男の一人がスマホくんを掴むと床に叩きつけた。スマホくんの液晶画面にひびがはいり、顔が消え、手足は引っ込んでしまった。
「ああ、スマホくんが、スマホくんが…」ゆかりは叫んだ。
「お前たちにはまた戻ってもらう」
白石親子を縛り上げ、外に出そうとした。その時警察官が玄関からドッと押し寄せ、男たちに掴みかかった。
男たちは手錠を嵌められ、白石親子は解放された。
「間に合ってよかった」
利夫さんが警察官たちに紛れ込んで出てきて、白石親子を宥めるように言った。
「利夫さん、スマホくんが死んじゃった」
ゆかりが泣きながら壊れたスマホを利夫さんに差し出した。
「ああ…」利夫さんは残念そうに壊れたスマホを受け取った。
レッド・ドーンと思しき男たちは、次々と警察によって連行されていった。
「どうもご苦労様です」と利夫さんは警察官に頭を下げた。
「友人から聞いたのですが、そちらの川野さんていう方にも捜査のご協力をされているとか」
「川野、誰ですか?それは、うちの署にはそんなものはおりませんよ!」
「エッ!」
利夫さんの顔は引きつった。
「ちっ、千秋が危ない!」
お姉さんは洗い物をしていた。するとインターホンが鳴った。
「はーい」お姉さんは受話器を取った。
「夜分遅くにすみません、川野です」
お姉さんは玄関のドアを開けた。すると缶ビール2本を持った川野が立っていた。
「すみません、近くを通りかかったものですから」川野はお姉さんに缶ビールを差し出した。
「一杯やりましょう」
「ありがとうございます」とお姉さんは礼を言った。
川野はテーブルに置かれている花を見て目を丸くした。
「綺麗な花ですね、お仕事は何なさってるんですか?」
「フラワーショップに勤めています。
「どおりで。フラワーアレンジメントの心得がおありでしょう」
「資格を持っています」
「素晴らしい!」
お姉さんと川野はテーブルに座った。お姉さんはコップにビールを注ぎ、グーっと飲んだ。
「花への憧れは子供の頃からあったんです。あたし成績は良くなかったけど、美術だけは得意でした。綺麗な色彩を見ていると、なんだか心が吸い込まれそうで…」
「でもあなたは立派に夢を叶えていらっしゃる」
「いえいえ、あたしなんかはまだまだ修行中ですよ」
その時お姉さんは急激な眠気に襲われ、テーブルに顔を伏せて眠ってしまった。