脱出
お姉さんは気が付いてみると、両手を縛られ、口には粘着テープを貼られていた。顔を上げると、赤い服を着た30代くらいの男が中腰になり、こちらを見つめていた。
「気が付いようだな」と男は言った。
「動画やサイトで我々を攻撃するのはやめてくれないか」
男は立ち上がった。
「あんたの動画はモザイクで隠していたようだが、我々の情報網を使えばすぐにあんただって特定できる」
さらに男は言った。
「我々のしている事はまやかしじゃない、勘違いされては困る。ところが我々にとってやばい情報を毎朝新聞の記者に撮られてしまった」
男はポケットに手をつっこみ、横を向いた。
「殺しはしない、あんたには当分ここにいてもらう、あんたの私物は別室に置いてある、じゃあな!」と男は去っていった。
お姉さんは周りを見た。倉庫のようなところだ。周囲に段ボール箱が置かれていた。
腕に嵌められんていたスマートウォッチくんが言った。「お姉さん、大丈夫ですよ、すぐに隣の部屋にいるスマホくんを呼びます」
しばらくすると段ボール箱の隙間からスマホくんが現れた。
「お姉さん、すぐに僕とスマートウォッチくんとで縄をほどきます」
スマホくんとスマートウォッチくんは協力して細い手で手足に縛られていた縄をほどいてやった。お姉さんは自由になった手で口に貼られていた粘着テープを貼ぎ「スマホくん、スマートウォッチくん、ありがとう」と言った。
「お姉さん、今です、今なら誰もいません、今すぐここから脱出しましょう!」
「スマホくん、一つ気がかりなことがあるの、あの男は毎朝新聞の記者から弱みを握られた、ていってたわ、毎朝新聞て利夫さんの勤めている新聞社よ!」
「そのことは後で、とにかくここを脱出しましょう」
お姉さんは段ボール箱をどかし、倉庫から逃げようとした。入口のシャッターは重かったが、渾身の力をいれて持ち上げた。
お姉さんは外に出た。ところが角から赤い服の男が現れ「どこへ行く!」といった。
お姉さんは反対方向に逃げた。ところが反対方向からも赤い服を着た男が二人現れ、立ちはだかった。
お姉さんは3人の男に取り押さえられてしまった。ところが背後から黒い影が現れ、男たちにタックルしてきた。よく見ると黒い影の正体は利夫さんだった。利夫さんと3人の男たちはもみあいになった。しかし多勢に無勢、利夫さんは3人の男達に取り押さえられてしまった。
「あなたたち、今の状況を一部始終動画に撮らさせてもらいました、その男性の手を放さないと動画を拡散させますよ」とスマホくんが言った。
「ゲッ、スマホが喋った!?」
「スマホくんが言っている事は本当だ」
利夫さんは言った。
男達は手を放した。
お姉さんと利夫さんはその場から去り、向かい側の交差点に出た。
ちょうどタクシーが通りがかり、利夫さんは手を挙げた。タクシーは急停止し、お姉さんと利夫さんを乗せた。
「千秋、詳しい事は君のマンションに着いてから話す」
お姉さんは怪訝な表情で利夫さんを見つめた。