サイト:「首吊りからの生還」
閲覧注意です。
気味が悪いと思うので、精神的に落ち着いている方だけ読んでください。
自殺念慮のある方は特に要注意です。
自殺を推奨する意図は全くありません。
逆にネット上にはどんな相手がいるかわからないという警鐘を感じていただきたいです。
「今日は何人死んだだろうか?」
おれはコメント欄に書き込まれた文字列を数え、その裏に思いを巡らす。
書き込みは生存者だから。
「こうなりましたが、生まれ変わった気持ちでがんばってみます」
「手順を踏んだだけでスッキリしました、ありがとうございました」
PC画面の上から下に目線を滑らせながら、画像付きをピックアップしぼやけない程度に拡大、指で愛でるようになぞる。
時刻は丑三つ時がいい。
頸が細ければ尚良し。
縄目が食い込んだ痕が、翌日、翌々日に刻々と、青赤黒の合間の色を醸し出すのが堪えられない。
きっかけは他愛のないものだった。
看護師が採血に失敗した時の自分の腕の内出血。
友人の足首のねん挫。
姉の、こたつにぶつけた脛の色。
最初はそんなものを不思議な思いで眺めていただけ。
大人になるにつれその嗜好は、おれの中で明確な輪郭を取り始める。
首フェチと融合したのだ。
女の首元に顔を埋めるのも好きだったし、キスマークや歯形もよくつけた。
鎖骨の横線、斜めに走る顎の線、その奥に透き通るように白く、縦の構造を見せる首。
美しいから斬りたいとは思わない。
痕をつければ白地に浮かび、その後刻々と変わっていく色の様相。
もっと深く強くと思ったら「絞殺」という言葉に辿り着いた。
だが、このおれが指に力を入れて相手を殺すわけにはいかない。
刑務所も殺人鬼呼ばわりも遠慮したい。
鑑賞する自分がいてこその、首の芸術なのだから。
ならば、己の意志で首を吊ってもらうのはどうか?
ついでに動画を撮ってくれないだろうか?
特に首を大写しで。
蹴とばす足台は何がいいか、縄は太めの荒縄がいいか、合成繊維か、色は何色がいいだろう?
想像するだけ想像して、はたと気が付いた。
縄は顎の直下に食い込んで、おれの好きなキャンバス部分には跡がつかないのではないだろうか?
体重に引き延ばされるだけで、異常に白く長く。
ある質問箱サイトに「首を吊ったら頸椎は折れますか?」と書き込んでみた。
返答の反響が凄まじかった。
「死ぬな」「やめておけ」「キレイに死ねない」「一緒にどうですか?」
おれは死にたいなどと一言も言ってない。
縄の痕のついた首が見たいのだ。
だから、「首吊りからの生還」というサイトを始めた。
表面上は、「死なない首吊りの方法を紹介し、一度死んだ気になって人生を立て直す」などと謳っている。
今日も画像が上がってくる。
それを見ているおれがどれほど興奮しているか、思い至りもしないで。
-了-