5話 兄とは、妹のことを友達に相談しがちである。
さて、姉華に相談する前にもう一人。
「あはは、災難だったなあ」
「あはは、じゃない」
俺は高校で姉華意外の友達ができた。俺のすぐ前の席に座っているのでよく喋っている。俺の友達ということは、とんでもなくいいヤツなのだ。
淺木理人は、頭は悪いが運動神経バツグンで、顔もよく、根っからのポジティブだ。姉華を男にしたようなヤツだと思っていたが、最近意外とコイツも闇を抱えているんだということを知る。
「ユッキーが妹ちゃん意外の人と関わるからそんなことになったんだよ。女は皆クソなんだから」
理人は、末っ子で姉が3人いるらしいのだが、3人共理人いわく、凶暴で凶悪らしい。女の嫌なところを煮詰めたような性格をしていて、理人は女というものを信じられなくなったんだと前に語ってくれたが、女の嫌なところを煮詰めたような性格の3人のお姉さんがどんな人なのか、俺は少し気になった。しかし、姉の深い話をすると体の震えが止まらなくなるらしいので俺はあえて話題に出さない。
理人は顔がいいからモテている。しかし、生半可な蟻地獄じゃ、ありは登ってくるかもしれないと、酷い振り方をしている為にクラスの女子全員から嫌われている。もう少し俺にするみたいに優しく対応できないのだろうかと思う。
「理人の友達の雪輝が、白糸さんを呼び出したらしいよ」
「あの女のことを馬のクソ以下だと豪語している淺木の大親友の雪輝が」
周りになんといわれても、俺は理人のことが好きだ。
「いつも一緒に屋上で妹ちゃん観察に付き合っているけど、今日はあのマドンナにユッキーとられちゃうんだ」
「ごめん、ちょっと聞きたいことがあって」
理人は不服そうに口を尖らせた。
「それって俺じゃだめなこと?」
「ああ」
「なにさ、聞きたいことってなんなのさ。親友の俺にも言えないことなのかね」
理人は椅子から乗り出して俺の頬を両手で掴んで責めるような視線で俺の目に照準をあわせた。
「いや、理人が答えてくれるなら」
「ああ、俺はなんでも答えるぜ。答えられるぜ。愛するユッキーのためならば!」
どんと胸を張る理人に、頼られなくて不服そうな理人はなぜかどんどん俺に唇を近づけてくる。
「きゃーっあの二人、そういう関係よ」
「そうよ、やっぱりそーだよ。おかしいよ!」
外野がうるさくなってきたし、力が強すぎて逃げられないんだけど。待って、俺のファースト・キッスは、瑠李のためにとってあるんだ。いやいやおかしいだろ朝からなんで俺は親友にキスされそうになっているんだよ!そもそもそんな雰囲気では一ミリもなかっただろ!
焦る俺に、ぽっと顔を赤らめる理人は、憂いを帯びた目を濡らして整った顔で妖艶に微笑んだ。
「周りの声なんて気にするなよ……俺になんでも話してくれればいいんだ」
「お……女心がわからんって話なんだ!」
「……」
反論するような勢いで俺は叫んだ。
理人はきょとんとした顔で俺を見つめ、ぱっと手を離した。
「女心?」
「あ、ああ」
「女の心は皆うんこみたいな色をしていて、男を奴隷のように扱いたいと思ってる。常に男を金と見た目で判断し、愛しているといっても、別の男のちんぽがよければそっちに行く生きた発情動物、常に自分が上じゃないと我慢できず、連絡を返さないと手首を切った報告と写真を送ってくる、意味不明摩訶不思議害獣……」
「待て待て待ってくれ理人」
理人の目が真っ黒な闇に染まり、急性女性嫌悪呪術発作に陥ってしまった。こうなるとしばらく戻ってこない。だから言いたくなかったんだ。
「おい、理人、理人くん、大丈夫か」
がくんがくんと机に突っ伏して呪詛を吐きまくる理人を揺さぶるが、それでも呪詛は止まらない。どんだけ女のことが嫌いなんだ理人は。いつもにこにこして優しい理人が豹変してしまう姿はなるべく見たくないものだ。きっと豹変している今も心に負荷がかかっているに違いない。
「ユッキー、女心をしってどうするのさあああああ」
「妹の様子が最近おかしいから、知りたいんだ。女心」
「……妹」
パッと顔をあげた理人は、にこっといつものように微笑んだ。
「妹、そうか妹か!あはは、だよな。ユッキーは妹意外に勃起できないもんな」
「妹に勃起したこともないけど!?」
理人の家では日常的に下品な言葉が飛び交っているらしく、理人曰く「女は下ネタとおちんちんが大好き」ということを小学生の時に学んでしまったくらいなんだそうだ。女大嫌いモードになると、いつも控えていた下ネタが、湯水のように出てきてしまうといっていた。
「でも、ユッキーの妹の女心は、白糸さんにはわかんないでしょ。だって違う人間じゃん」
確かに、理人のいっていることはそのとおりだ。そのとおりなんだが……。
「久々に幼馴染と話したいとかじゃないよね」
「そういうんじゃない」
「だよね」
俺は姉華と話したいから昼休みに呼び出すんじゃない。
「妹のことなんだけど」
「……」
俺は人気のない屋上に姉華を呼び出した。
妹のことを相談するためだ。