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4話 兄とは、妹の日記をつけているものである。

 今日の瑠李日記を開いた俺は、一行目にこう書いた。

 妹の様子がおかしい。

 いつものように朝妹を起こして一緒に御飯を食べて、一緒に登校しようとしたら、


「ひとりじゃないから大丈夫。変装もしなくていいよ」


と言われてしまった。気づいていたのか。もし瑠李のいうことを聞かずについていったら嫌われてしまうかもしれないと思った俺は、今日は瑠李についていくのをやめ、おとなしく一人で登校した。不安とイライラで、いつも食べている口臭を消すミントガムを噛み潰していた。


なんだか登校という行為自体意味のないもののように感じた。瑠李の登校を見守るのは、俺のルーティーンにかっちりとはめ込まれていた為か、普通に一人で学校に登校することが、なんだかすごくいけないことをしているような気さえしてしまった。


「お、おはよう!きょろきょろして、どうしたの?」

「うわああああ!!」


 振り返ると、いつも人気者で3,4人の女子たちと一緒に登校しているはずの幼馴染。

 白糸姉華しらいあねかが向日葵が咲いたような笑顔を浮かべて立っていた。


「そ、そんなにびっくりしなくてもいいじゃない」


 黒髪のつやつやしたショートカットが、朝日を通して後光がさしているように見えた。泣きぼくろのあるぱっちりとした目を俺に向けながら、いつも笑顔を崩すことのない姉華が不思議そうに首を傾けた。


「どうして今日は妹ちゃんのストーカーしてないの」

「いいがかりはよしてくれ、俺は妹を変なヤツから守ろうとだな」

「はいはい、あはは、いいお兄ちゃんだ」

「大体俺なんかと話していて良いのか」

「え?」

「目立つだろ」


 俺が耳打ちすると、周りの男子が俺を羨望の眼差しで見つめていた。視線が痛いとはこういうことか。


「別に関係なくない?周りのことなんて。私と輝くんが仲良しなのは、昔からでしょ。最近は避けられてて、全然話してくれなかったけど」


 笑っているが、怒っているような、寂しそうな表情に俺はバツが悪そうにうつむいた。


 姉華は家が近いからよく遊んでいた幼馴染で、同じ妹を持つ長女としてたまに相談に乗ってくれていた。

 しかし、中学まで貞子のような見た目でいつも一緒に御飯を食べていた姉華が、高校に入って急に高校デビューをした。

 幼馴染の高校デビュー。急な。どうして、何故。俺はまたパジャマのポケットに入れていたメガネをかけて考察する。


「そうか、彼氏がほしかったんだ!」


 きゅぴーん。間違いないと思った。姉華も高校に入ったら少女漫画の主人公のように恋愛をし、華の高校生活を送りたいんだ。


「だったら俺は……」


 俺は中学の時休み時間や弁当の時間を姉華と過ごしていた。 

姉華は、すごく優しかったから、気の強い女子たちと馴染めなかったんだ。俺は付き合っていると言われても、気にしなかったし、女子にからかわれている姉華が泣いているのを見て、「俺の大事な幼馴染をいじめるな」と助けに入っていたこともあるから、一緒にいてよかったと思っている。


 しかし、高校デビューした姉華は、すごく可愛かったし、入学式の頃から羨望の眼差しで見られていた。男子たちも綺麗な蝶々に目を奪われる子供のように魅了されていた。

 この調子ならすぐ彼氏ができるだろう。


「ねえ、輝く……」

「高校に入ってからは、別々に過ごそう。そのほうがいい」


俺は邪魔をしてはいけないと話しかけることをあえて避けたし、話しかけられてもあえてよそよそしくした。姉華が彼氏を作る邪魔をしたくなかったからである。


 高校デビューした姉華は、元々地味に運動神経がよく、俺が勉強を教えていたせいで成績もよく、スタイルもよかったし、地味に見えて本当はすごく可愛い顔をしていたのが、髪をばっさり切ったことでクラスの皆にも知れ渡り、いちやくクラスのマドンナになった。


 俺はというと、ブレなかった。

 変わらず妹のために勉強し、変わらず妹と違ってハーフなのに金髪のきの字も遺伝されることなく、非常に賢く普通に運動ができなくて、普通にモテない俺は高校にいっても変わらない。

 いつも変わっていくのは周りだけだ。

 妹も変わった。何かあったのだろうか。


「あのさ、姉華」

 俺はぐいっと姉華に詰め寄った。

 周りから悲鳴が上がるのに気づかず、俺は必死で姉華の顔を真剣な眼差しで覗き込んだ。


「な、は、はい」

「昼休み、大事な話しがあるんだけど」

「えっ!?」

 姉華は、持っていたスクールバックを抱きしめるように胸元に引き寄せた。


「だ、大事な話って」

「お前にしか話せない大事な話なんだ。すまないが、よろしく頼む」


「あっ……ううん。あの、そんな、えへへ、全然いいよ」

「ありがとう、恩にきるよ」


 姉華は、無理に笑顔を取り繕うとして、顔がこわばっている。ああ、俺とここで話すと目立つからな……はたと俺は妹のことに必死過ぎて周りが見えていなかったことに気づく。

 俺は壁際に姉華を追い詰め、詰め寄っていた。あれ、振り返ると周りの同じ制服のヤツラ(主に男たち)が、俺を恋敵とでも言わんばかりに血走った目を向けていた。


 何人いるんだ。周りにいる男子皆俺を睨みつけているじゃないか。

 ああ、ルーティーンが崩れると整った毎日が崩れてしまうんだな。俺ははっきりと自覚した。

 姉華は既に学園のアイドル的存在なんだと。

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