1話 兄とは、妹が好きな生き物である。
過去に書いたラノベです。ゆるく見ていってください。
急に妹の態度が変わった。
中学に上がる前くらいからだ。
俺、星野輝雪と、妹、星野瑠李は、仲のいい姉妹だ。
そりゃあもう、他人が羨むくらいに仲良しだ。こよしでもある。いや、こよしどころではない。仲良し大好である。
父さんが、朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくるから、俺は妹を生んで亡くなった母さんの代わりに小学校低学年の頃から、学校の帰り道に保育園に妹のお迎えにいって家に一緒に帰宅していた。
「おにいにい、だいすき」
そういって俺の手を握る妹を見て、この天使をどこぞの馬の骨に嫁に出したくねえ……と思ったのは、俺が中学1年の頃だった。しかし、そう感じたときの俺と同い年である、13歳。中学一年生になった瑠李の様子がおかしい。
まず、おにいにいと呼んでくれなくなった。いやこれは小学校3年の5月20日くらいから言ってくれなくなっていた気がする。そして、俺が部屋に髪の毛を乾かすように言いにいくと、「ノックして!」
というようになった。瑠李の髪の毛はつややかな金髪で、これは死んだ母さんの遺伝からだ。いつもピンクのリボンでツインテールにしてから中学校に行っている。
毎朝俺は妹の髪の毛をむすんであげようとくしやヘアアイロンドライヤーをスタンバって待っているんだけど、
「別に一人で髪くらい結べる!」
と怒られてしまっている。毎朝怒られてしまっている。
そんなことより、妹、妹の様子がおかしい。
俺は検索した。なんで妹の様子がおかしいのか知りたかったからだ。スマホでの検索履歴はもはや、妹。妹、兄、おかしい。妹、かわいい。兄妹、なんで、おにいにい。と妹のことで埋め尽くされている。
(完全に嫌われているでしょう)(こんなことを検索する兄の妹だけにはなりたくない)(そういうところ)
ぐはっ……。
いや、いやいやいやいや。俺はここ最近嫌われるようなことを何もしていない。何もした記憶がない。いつものように朝妹を起こして一緒に御飯を食べて、一緒に登校しようとしたら断られたから変装して裏道から中学校までついていって送り届けて、その後休み時間こっそり抜け出して望遠鏡で屋上から妹の中学校を観察。妹は部活があるから俺はそのまま帰宅して母さんの仏壇に挨拶をし、着替えて妹を中学校に迎えにいく……が、来るなと言われるから変装して家に送り届け、そのまま裏口から家に入り、トイレに入っていたフリをして何食わぬ顔で妹の前に現れ、一緒に俺の作った夕食を食べ、前みたいに一緒にお風呂に入ろうという……が、腰に一発蹴りを入れられるので、お風呂は別々で入り、その後髪の毛を乾かしてやろうとドライヤーとタオルを持って風呂の前でスタンバる……が、タオルをムチのようにして腹をばしんばしんと叩かれるので、仕方ないから、歯磨きをしてやろうかと歯ブラシセットを持って会いに行くが、今度はピースした手を俺の目に突き立てようとしてくるからそれを避けておやすみのキスを子供の頃みたいにお願いするが、腹にボディーブローを一発いれられ、俺が苦しんでいる間に部屋に入ってしまうからお互いおやすみといって一日を終える毎日だ。
こんなに仲がいいのに、え?嫌われているはずがない。
むしろスキンシップが多くて、あれだろ。仲が良すぎるっていうか。全日本仲良し兄妹コンテストがあったら俺たちが余裕で優勝できるっていうか。
絆を繋いでいる。兄妹との絆は誰であっても切れないのだ。
「次」
カチッとマウスをクリックした。
(好きな人ができた)
嗚咽がした。
この8文字にここまで不快感を抱かされることになるなんて思わなかった。
ひどすぎる。この記事を書いた人間には人の心がないんだ。
妹に好きな人ができたかもしれないなんてことを、兄に考えさせるなんてネット怖い。
そもそも。そもそも、だ。
ない。これはない。断じてない。まだ妹は中学に入ったばかり。中学生に恋愛なんてまだ早いに決まっている。おかしい。しかも妹だぞ。瑠李だぞ。金髪ツインテールのサファイア姫みたいな目を澄んだ綺麗な目をした俺のお姫様だぞ。妹だぞ。そんな大事な妹が好きな人ができて、え?俺への態度が変わった?
は?無理なんですけど。そんな馬鹿な。俺はそんなことになったら現実逃避をするためにガソリンをストローで吸って入浴剤を食ってやるよ。
次だ、次。
(反抗期)
「子供が大人になる過程で、他人の指示に対して拒否、抵抗、反抗的な態度をとること……」
なるほど。
ふむ、なるほど。反抗期か。俺まだじゃあきてないじゃん反抗期。まだ子供だってことなのか、それとも、もう俺は大人になったのか。
子供が大人になる過程で、他人の指示に対して拒否、抵抗、反抗的な態度をとることって……めちゃくちゃかわいいじゃないか。ただそういう時期だってことでしょ?
なんだ、な、なーんだ。俺は大きく安堵のため息をはいてベットにばたりと体を預けた。
心配したー、よかった。よかったー。はー。かわいい。妹、イヤイヤ期ってやつでしょ。ああ、瑠李は小さい頃から手のかからないいい子だったからな。そうだよな。良いこすぎたんだ。
そういう時期があっても仕方ない。仕方ない。
はっはっは。
コンコンコン。
ノックの音がした。夜10時だぞ、こんな時間に妹が兄の部屋に訪ねてくるなんて、そんなの、あれしかない。
「どうぞ」
「兄さん、あのさ」
「添い寝だな。前みたいに一緒に寝よう」
さっとベットの隣を開けてぽんぽんと叩いて誘ったが、瑠李は俺の部屋に入ってくるどころか一歩下がってしまった。