第18話:悪評
昨日は、なかなか有意義な一日だった。
ちゃんと、大きな雉も仕留められたし。
無事、レイチェルの元に届いたかな?
ケルガーが気になる話をしていたけど、別に気にしない。
悪いことをしているわけじゃないし。
しかし、徐々に王都でも噂が広まっていると。
私は気にしないけど、これバレたら楽しいことになりそうだ。
そのケルガーの話の内容というのが、最近王都で人さらいが横行しているとか。
子供が強面の大人に、連れ去られる事件が頻発してるんだってさ。
それでもそこまで大事にならないのは、連れ去られるのが孤児ばかりだからって。
そもそも、王都が孤児を放置するなと言いたいけど。
王族が主導して王都の孤児ばかり保護していたら、他の町からも子供を捨てにくる親が増えることが予想されるからだとか。
だから、放置するよりほか仕方ないとか。
それでも、定期的に炊き出しとかはしているみたいだけど。
浮浪者も集まってくるし。
これも大々的にやると、王都の治安にも影響が出ると懸念されて不定期でってことだ。
いやいや、その人たちを教育して労働力にすれば、良いんじゃないかな?
と思ったけど、思うに留めておいた。
「王都の警備の兵の前でも、堂々と行ってるみたいですよ。でもって、衛兵も取り締まらないとか……この国、終わってると思いませんか? あれ? マチルダさんどうされたのですか? 怖い顔をされて」
ギルドに着くまでそんな話をしていたら、着いた途端にグレゴリーとマチルダにケルガーが連れ去られてしまった。
訓練場に。
別に、放っておけばいいのに。
ちなみに、私の仕業だけどね。
王都の近くに、職業訓練村を造る許可を陛下に頂いて。
そこに孤児たちは送り届けている。
王都に孤児院を作ることも考えたけど、それよりも本格的に鍛えられる場所がいるかなって。
面白そうという理由だけで、許可されたのはどうかと思うけどね。
人さらいのように見られているのは、孤児たちが警戒して暴れるから。
最初は優しそうな騎士達にお願いしていたけど、どうやら彼らを騙そうとする輩は総じて優しそうな顔をして近づいてくることが多いらしく警戒心MAXだった。
声を掛けた瞬間に、ダッシュで逃げられるレベルで。
だから、逆らう気も起きないレベルの強面の連中にお願いしたんだけどね。
全員、子供好きだけど。
元犯罪者率が高いけど、こういう世界だし。
金が無いとすぐに犯罪に走るのは、国がしっかりとその辺りの救済制度を認めていないから。
生活保護、失業保険、職業訓練所、職業案内所。
それらの施設が、足りていないどころか存在しないことすらある。
そのうえ、労働基準法があるわけでもない。
雇用者と被雇用者のパワーバランスが最悪に悪い。
だから、悪いことに手を染めても、国や周囲のせいにしやすいのだ。
うちの領地で捕まったら、そんな甘えを許さないレベルで根性を叩きなおすけどね。
その結果が、うちの騎士団ともいえるけどね。
その強面集団が、子供を連れ去る。
子供達も顔面蒼白で、付いて行く以外に選択肢が無いレベルの悪人面。
たまに逃げ出そうとする子もいるけど、すぐに捕まる。
そして、笑顔で説得される。
「何も怖いことは無いよ。安心して、ついておいで……悪いようにはしないよ」
と言って、ニカっと歯を見せて笑いかける。
そうすると、逃げようとした子も素直になってくれるんだってさ。
言い聞かせたら分かってくれる、本当は良い子たちなんですよだって……
たぶん、トラウマレベルで追い詰められてるだけのような気もするけど。
本人たちに言ったら、たぶんガチ凹みするだろうから言わないけどね。
ちなみにその職業訓練村。
指導員は引退した年寄り連中だから、これまた子供の面倒見がいい。
とはいえ、べらんめぇな親方あがりもいるけどさ。
案外、上手くやれているとか。
本当だろうか?
どっちにしろ、今年から始めたことだからね。
結果が出るのは、まだまだ先。
いや、ある程度の年齢がいった子たちは、すでに小遣い稼ぎ程度に仕事を手伝わされているみたいだし。
わずかばかりとはいえ、ちゃんと賃金が支払われているからか今のところ素直だとか。
衣食住はこちらが、提供しているし。
これは、この世界の仕組みに感謝だ。
大きな属性竜の鱗一枚で、子供10人の一年分の食費くらいにはなるし。
金貨10枚から30枚くらいになるからね。
日本の貨幣価値にしたら、100万円から300万円くらい?
レッサー種だとか、小型の属性竜でも5~30万円くらいだとか。
その大きな属性竜をまるまる一頭狩ったから、当面の村の運営資金にはなる。
国からも、補助金が出るし。
ちなみに王族も関与していて、貴族が様子を見に来るからね。
子供達も、必死だよ。
午前中に職業訓練、午後から基礎学習。
四則計算や、文字の読み書きは当然叩き込むよ。
たまに、私が癒しを求めていくときは、礼儀作法の授業かな?
貴族を接待するという技術を、学んでもらわないと。
この国には、奴隷制度もあるにはある。
借金奴隷。
これ、別に悪い事じゃないんだよね。
やむを得ない事情ならともかく、お金にだらしなくて借金苦に陥る人には。
お金を完全管理されて、無駄遣いをさせられることなく借金を返せるんだから。
返し終わったら、綺麗な体で社会復帰できるわけだし。
……お金にだらしないと、またすぐに奴隷落ちだけどさ。
解放されて奴隷に落ちるまでの期間は、贅沢な暮らしをしてるわけだ。
借金をして。
メリハリのある良い人生だと思うよ……結婚は、絶望的だけど。
そうじゃないやむを得ない人は、当座の急場を凌げたうえで一からやり直せるわけだし。
あー……ご奉仕系の奴隷はいないかな?
そういった、尊厳を踏みにじるようなことは奴隷相手でも禁止されている。
表向きは。
でも……強要されたら、断りにくい立場ではある。
そのうえ、特別手当でも出されようものなら。
……そういう、区画もあるんだけどね。
奴隷になる段階の前に、そういった場所で働く人もいるから。
奴隷よりも自由だからね。
好きで働いている人もいるよ?
その、特殊なシチュエーションが好きな人もいるわけで。
女王様的な。
需要もあるわけで……
しかも、悪いことにこの世界には回復魔法まである。
平民の女性に足蹴にされて、罵られたい貴族もいるとか……
驚いたことに、身分至上主義派の貴族の中にも……
話が、脱線した。
本来なら、そうなる前に国が対応を考えるべきだと思うんだよね?
なら、まずは私がそれを主導して、学園卒業までに成果をあげると。
そしたら、それを国の施策として発表して、私を責任者にする予定らしい。
王妃としては、相応しい仕事だとかなんとか。
そして、子供達を集めていただけなんだけどね。
その噂が広まるのは、本当になんともいえない速度だったよ。
あっという間に広まったわけでもないけど、気が付けばって感じかな?
「どうも、人さらいの組織の後ろにはそれなりの家がついているみたいですよ」
なんて声が、廊下ですれ違う子から聞こえてきた。
うん……それなりの家というか、王家だけどね。
「なぜ、陛下はそのような悪行を、放っておくのでしょうか」
悪行じゃないからね。
あと、陛下も噛んでるからだよ。
と教えたくもなるけど、敢えて何も言わない。
どうせいつか、私がやらせてるってバレるだろうし。
そしたら、楽しそうに尾びれ背びれをつけて悪しざまに噂を広げてくれるだろう。
……真実ならいいけど、そうじゃなかったら王家とレオハート公爵家に対する不敬罪が成立してしまうこととなる。
それはそれは、良いカードになるはずだ。
うん、ダリウス殿下に釘を刺して、口止めしておかないと。
この噂を聞いたら、きっと否定して真実を喋ってしまうだろうし。
その前に、陛下と王妃に口止めをしておくべきだった。
二人が私の提案を褒めちぎって、ダリウスに言ってしまったから。
「貴方より年下のエルザ嬢が、こんなにも国の将来を思って行動しているというのに」
「本当に、少しは婚約者を見習ったらどうだい?」
と王妃と陛下に言われたダリウスは、またまたはっちゃけてやらかしそうになっていたし。
私からすると、二人が煽っているとしか思えない。
そろそろ、王族親子には学習してもらいたいとしか思わないんだけど。
「最近、街で流行ってる人さらい……エルザ様ですよね?」
あっ……レイチェルの様子を見に行ったら、すぐに廊下の角に呼び出されて問いただされてしまった。
正直に答えるしかない。
「そうだよー」
「でしょうね……子供達を集めて、何を考えているのですか? 自分だけの楽園を作ろうとでもしているのですか? 子供のこと、大好きですもんね」
「名分は、そんな利己的なことじゃないよ」
なんともレイチェルからの信用がないなー、私って。
でも、立派な大義名分を抱えて行っている、立派な事業なのだよ!
だから、堂々としてられるんだ。
「名分はでしょう? 本音は、子供たちが可哀そうでどうにかしたい。ついでに、子供たちが恩義を感じて私をチヤホヤして、懐いて囲まれる楽園を築けると」
「そだね……」
うん、バレてる。
でも、子供達をしっかりと教育して、将来この国の役に立つ人材を増やすっていうのも本音。
このままダリウスと無事結婚できるかは不明として、私たち世代と共に歩む優秀な人材を今から育てることで私たちが国政を担うときに、きっと心強い存在になってくれるはず。
そういった、打算もちゃんとあるんだよ。
「対外用の、言い訳スピーチのための原稿内容っぽいですね」
どれだけ、信用無いんだ。
これも、本音だって。
人は育てて、鍛えたら何者にでもなれるってね。
「そんなことよりも、雉は美味しかったかな?」
「なんで、知ってるんですか? こわっ」
なんでかなー?
その理由は言うつもりはないけどさ。
ジャイアントレインボーフェザント、なかなか手強かったよ。
「あっ、この間のお休みの日、珍しく一人で行動されてましたよね? もしかして」
「あははー」
「冒険者ギルドに行ってたんですね」
レイチェルって、最近私のこと分かりすぎじゃないかな?
やっぱり、私のこと好きなんだね。
「いや、そうなんですけど。放っておけない理由は好きだからではなく、エルザ様の行動に色々な種類の不安があるからですよ」
なんと……
そんなに、私の行動はおかしかったかな?
まあ、気にしないけど。
「気にしてください!」




