第17話:雉も鳴かずば撃たれまい
王都から馬車で三時間ほどの場所にある、バードルの森。
通称、鳥の聖地。
ここで、ジャイアントレインボーフェザントの目撃情報が、数度となくあったとのこと。
ジャイアントということだけど、どのくらい大きいのか。
ギルドにある魔物図鑑によると、翼長が5mくらいに思える。
実際は、もっと大きいかもしれない。
地球だとアホウドリが翼長が最大の鳥で、翼を広げると黒板の端から端くらいまであるとか。
実物を見てないから分からないし、眉唾だ。
しかし、ここは異世界だから。
翼長が5mどころか、20m越えのズー系統の怪鳥がいても不思議ではない。
ただいくら翼が大きくとも、雉は雉だ。
私の知ってるそれなら走るのはめっぽう速いが、飛ぶのはへたくそだったと記憶している。
いや、見聞きした情報だから深く突っ込まれたら、何も答えられないけど。
そういえば、やたらとエビデンス、エビデンス言ってた同僚は今も言ってるのだろうか?
いまは、あっちの事情が分からないけど、何か言う度にエビデンスを求められて当時は鬱陶しくてしょうがなかったよ。
鼻で笑い続けてたら、何も言ってこなくなったけど。
未だに言い続けてたら、腹抱えて笑うかも。
テレビで言う専門家の発した言葉って、廃りが早いからねぇ。
塩味とか、マジでなんであんなに爆発的に広まったのか分からないし。
塩味が薄いとか、塩加減が足りないとか……しょっぱいとか、みんなそんな感じで、塩の加減を表現してたのに。
どこの誰が塩味とテレビで言ったのか知らないけど、テレビでやったらと耳にすることが一時期多かった。
何が気持ち悪いって中途半端な料理好きアピールしてる芸能人とか、新進気鋭の料理人って銘打った若い人ががこぞって使ってたこと。
ミーハー臭がして、私の中だけだけど塩味って言葉を使った瞬間に、その芸能人や料理人の好感度爆下げだった。
だって、それまでプロの料理人ですら塩加減って言ってたから、本当になんだったんだあれ?
しかも、大御所の人達ですら塩気が足りないとか、そんな感じだよ?
だから塩加減とかしょっぱいとか、塩がきつい、塩気がって言ってる人たちって、塩味って言ってる料理人からすれば師匠や大御所クラスなわけじゃん?
百歩譲って、しおみ……も、使ってる人はほぼいなかったけど。
それに加えて、素人でしかない料理上手なだけの人が塩味なんて言おうものなら……この世界では塩加減だから良いか。
何故か翻訳スキルさんが震えた気がしけど、気のせいだろう。
「で、なぜ当然の如く、私が連れて来られたのでしょうか?」
「ん? そりゃ、便利なスキル持ってるから手伝ってもらおうと思ってね」
私とグレゴリーの間を歩くケルガーが、ぼやいているけど。
「姉御の手伝いが出来るなんて、これほど光栄なことはねぇだろぉが!」
後ろから、グレゴリーに凄まれてるよ。
一切振り返らずに、こっちを見ているケルガーに苦笑いをしつつ森を進む。
魔物の気配が結構あるけど、本当に鳥類が多い森みたいだ。
そこかしろの木の枝に、鳥が止まっているのが気配だけでも分かる。
おっと。
嫌な気配がしたので、横に少し移動する。
直後に、大きな鳥の糞が落ちてきた。
「このクソ鳥が、お嬢に何しやがる」
あっ……
その直後に、マチルダが手に持った鎖分銅を投げつけてた。
そして、枝に留まってた鳥の身体が爆散して羽が降ってくる。
「マチルダ、無益な殺生はやめろ。食べる気が無いなら、枝を打ち抜く程度にしておけ」
「お嬢……なんと、お優しい」
ちなみにマチルダの前職は、別に女盗賊とかってわけじゃない。
ただの荒くれ冒険者だ。
良い子ちゃんな冒険者よりは、よほど腕が立つけど。
そして、私に挑んできて返り討ちにあった、血気盛んな冒険者の一人だ。
「本当に探すの手伝うだけで良さそうですね」
「もともと、戦力としては期待してないからね」
「これでも、そこそこの冒険者なんですけど」
私の正直な感想に、ケルガーが凹んでいる。
優男風のナンパ男の分際で、何を図々しいことを。
「お前でそこそこなら、俺は凄腕だな」
「間違いないね」
後ろでバカップルが何か言ってるけど、本当に変われば変わるものだ。
とくにグレゴリー。
いや、グレゴリーはどうだったっけ?
最初から、優しかったかな?
初めて会った時も、注意から始まったし。
「こんなところに、良いとこのお嬢ちゃんが歩いるとか不用心じゃねぇか?」
って、森で声を掛けられたのが彼との出会いだっけ。
「心配してくれてありがとう。注意はありがたく受け取るけど、私のことは気にしなくていいよ」
って、返した記憶が。
それから、どうなったんだっけ?
「あっしが、俺たちみたいな輩に攫われても、知らねえぞって仲間を呼んだんですよ」
「ああ、で自己紹介してもらったんだっけ?」
「ええ、俺たちゃ人身売買も厭わねえ、根っからの悪人集団だってね」
「嘘をつくな! その時は、悪人集団じゃなくて悪鬼羅刹天誅極悪団とかって、名乗ってたよな?」
私が彼の所属していた野党のグループの名前を言ったら、グレゴリーが地面に寝そべって顔を両手で覆って転がりながら足をバタバタさせ始めた。
恥ずかしいなら、最初からそんな名前にしなければいいのに。
「二つ名は……疵顔悪魔のグレゴールだっけ?」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
おい! 勝手に走ってどこかに行かないで。
戻ってこーい!
彼が当時名乗った二つ名を言ったら、どこかに走り去ってしまった。
すぐに戻ってきてたけど。
そして、嫁さんの方がよっぽど疵顔だけどね。
「当時は、若かったんです」
「ん? 出会った時点で30前だったよな? 拗らせるには、歳いきすぎじゃないか?」
「そんなんだから野盗なんかしかできなかったんだよ、あんたは」
「嫁と主が、人の古傷を容赦なくえぐってくる」
今じゃ、立派な旦那さんだけど。
本当に当時はね……色々と酷かった。
「で、まあうちの盗賊団は、姉御に壊滅させられたわけですわ」
「あー、ありがとうございます」
それからの紆余曲折を、ケルガーに話していたけど。
ケルガーが困ったようにお礼を言ってた。
半分、愚痴のようなものか。
人は殺してなかったし、人身売買も実際には村の口減らしの子を仲介して、街や村に丁稚として送り出してた程度だった。
勿論、契約年数の給金を前払いで受け取って、中抜きして村の両親とかに渡してたから黒だけどね。
労働の対価は、本人が受け取るべきだし。
なぜ私に声を掛けたかというと、身代金目当てで他所に売るつもりは無かったと。
そもそも貴族の子供を売りつけるような相手に、繋ぎがない。
そういったのは、街を拠点としたプロがやることだって言ってたし。
そっちは壊滅させて、強制労働組に送り込んでるけどね。
野盗団とかで一線を越えてなければ、鍛えて領軍に就職を斡旋することも少なくないわけさ。
なんせ森で集団生活を送ってるような連中だからね。
団体戦や、野営なんかのスキルは元からあるわけだ。
教育の手間が、省けてちょうどいい。
しかし、あれだな……グレゴリーといい、ケルガーといい、自分たちで私に絡んできた結果がこれだもんな。
しかも、自ら望む能力やら状況を教えてくれたわけだし。
リアルに雉も鳴かずば撃たれまいという言葉を、送りたくなるよ。
「あちですね」
「ああ、私も聞こえたが……あれは、雉の鳴き声なのか?」
「いや、鳥の鳴き声の判別は、特徴が無い限りは分からないですけど」
「姉御、今のはフェザントで間違いないと思いますぜ。ただ、フェザントの種類までは分かりませんが」
とりあえず、鳴き声のした方をケルガーが、遠視のスキルで確認した。
結果……
「なんかやたら大きな七色の翼と、尾羽を持った鳥がいます」
そして見つけてくれたらしい。
「これは、ピーコックとは違うのか?」
「孔雀? とは、頭の形が違うねぇ」
「顔を見る限り、フェザントだと思うのですが」
うん、巨大なうえに、ド派手な尾羽を持ってるからね。
とりあえず鑑定を掛けると、オオナナイロキジと出てきた。
翻訳スキルさん?
「とりあえず、狩るか……」
「ですね」
死闘といえば、死闘だった……
私から逃げようと必死に走り回る巨大な雉に、ケルガーが轢かれたり。
木に激突して目を回したかと思ったら、凄い勢いで跳躍してちょっと飛んで逃げたり。
しかも、肉を確保するために威力を抑えた飛び道具系は、全て羽に弾かれる始末。
マチルダじゃないけど、爆散させるほどの魔法を叩きこもうかと思ったよ。
ちなみに七色の翼は、魔法を跳ね返すユニークスキル付きだしさ。
マチルダがブチ切れて剣で斬りかかったら、片方の翼を犠牲にして消えた時にはびっくりした。
どうも翼のうち、一部の羽に転移の魔法が込められているらしい。
ギルドに戻って、図鑑を見たらしっかりと記載してあった。
そして、かなりの高額素材だった……
そう遠くにはいけなかったようだけど、一瞬何が起こったのかと全員が固まってしまった。
だって、文字通り消えたわけだ。
マチルダが、顔面蒼白になってたのは笑えたけど。
一度捉えた気配を覚えていた私からすれば、発見は容易かったけどね。
ただ違う森とかに転移されてたら、詰んでたよ。




