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第13話:紅茶談義

「しかし、不思議な光景ね」


 お茶を飲みながら、辺りを見渡したミッシェルがしみじみと呟いている。

 うちの倉庫に、いつの間にやら見たことない子たちが大勢増えていた。


 仕切り直しということで、茶室に連れていかれたけど。 

 てっきり和風建築の茶室かなと思ったら、古典中国風の茶室だった。

 三国志とかの世界観にありそうな。


 欄干があって、二面が外になっている。

 その先には池や竹林なんかも見える。

 そして、遠くには山も。


「景色を繋いでおるだけで、実際は洞窟の中じゃ」


 驚いたことに、ここも倉庫の中らしい。

 ということは、触るとゴツゴツとした岩肌なのかな?


「空間を拡張してあるから、相当先までいかんと壁には当たらんぞ」


 なるほど……じゃあ、少しはこの景観の触感も楽しめたりするのだろうか?

 そういえば、緑の薫りもするし。 

 

「なんていう、能力の無駄遣い」

「大した労力ではない」

  

 こんなことが簡単にできちゃうなんて、サガラさんは本当に凄いね。

 そして椅子も立ち上がると勝手に下がって、腰を下げようとすると自然と前に出てくる。

 当のサガラさんは、人型の分体を作り出してそちらに意識を飛ばしているらしい。

 だからここにはいま、見慣れない男性が1人参加している。

 本体は倉庫のいつもの場所で、横になったまんまだ。

 変身したりするわけじゃないのか。


 しかし、ここにいるサガラさん自身が地球のサガラさんの、分体なんだよね。

 分体の分体って、なんかどうなんだろうという印象を受けてしまう。


「さて、改めて仕切り直すとしよう」


 そして、話の主導権はサガラさんと。

 その姿は白を基調とした昔の中国の人の着物みたいなのを纏った、初老の男性だ。

 頭には冠がのっている。

 歴史ものの中国のドラマとかによく出てくる。偉そうな人が冠っているあれ。

 皇帝とかが被る、すだれのついた冕冠(べんかん)ではなく普通の。

 えっと……諸葛亮さん? の絵にあるようなやつ。

 黒い髭が綺麗に切りそろえられているけど、竜だから髭は当然あるか。

 少し、イメージと違う。


「姿なんぞ、自由自在だからな。昔よく人の世に降りるときにしていた形だな」


 それはどのくらい昔の話なのだろうか。

 今だったら、Tシャツにジーパンスタイルとかだったりするのだろうか?

 それか、BーBOYみたいな感じだったら笑えるんだけど。


「シャツにジャケットか、スーツとかになるんじゃないかのう」

「サガラさんは冒険しない、フォーマル派と」

「格式ある竜神様だから、当たり前でしょう」


 私の疑問に対して、サガラさんは今の地球の時代に合わせた場合の服装を教えてくれた。

 面白くない……つい、言葉に出てしまったけど。

 ミッシェルさんが、慌ててフォローしてるのが笑える。

 サガラさんは寛大だから、ちょっとやそっとじゃ怒らないよ?


「だったら、タキシードとか紋付袴とか?」

 

 そして、ポーラも乗っかってきた。

 久しぶりに口を挟んで来たと思ったら、なかなか面白い発想だ。


「それもおかしいでしょう。TPOに合わせたフォーマルウェアを着るんですよね?」

「まあ……そこそこ、威厳を保てればなんでもよい」


 ミッシェルは、本当に真面目でお堅いというか。

 前世が企業研究者というのがよく分かる。

 少なくとも、マッドなサイエンティストではなさそうだ。


「なんでもかんでも、二極化しないでくれるかな?」


 それから、あれこれとこの世界について話し合う。

 改めて聞くと、なかなか言葉に出来ない状況だった。


「えっと……要は、人の願望に合わせて転生や転移で過ごすための世界を作るための神様が、人の欲望の力を集めて生まれたと?」

「信仰や思想は、時として大いなる力を生むからのう。集団ヒステリーなんかも、やもすればそういった力の終結の結果といえるだろう」

「集団ヒステリーね、うん……あれ、凄いよね? 集団でもう、なんていうかあれだもんね」

「分からないなら、分からないって言いなさいよ」


 むぅ……ざっくりとは理解してるし。

 なんか、一人が幽霊が見えたみたいなことを言いだして、パニックで皆があれになったりするやつだよね?


「集団儀式などでは、昔からよく起こっておったことだ。大勢で踊り狂い我を忘れて、幻覚を見ることも少なくなかった。それも、皆が同じようなものを見るのだ……それが、神や悪魔であるとされることも多々ある」

「でも、中には本物も居たってことですよね?」

「なにそれ、凄い」


 集団ヒステリーって凄いことだったんだ。

 よく、分からないけど。


「人の思いというのは、それだけ凄い事だ。実体を伴うことがあるくらいに……ありえないことだが、全世界の人間が世界中で今日は晴れると心から信じれば、天候すらも操ることができるであろう」


 やってみたいけど、無理だろうね。

 世界中にモニターを用意して、一人が催眠術で世界中の人間に暗示を掛けたらいけるかも?


「この世界の成り立ちについては分かりました。それから、他にもこの世界にありながら、パラレルワールドのように分岐した世界や並行世界があることも」

「理解が早くて助かる」

「このお菓子美味しいね」

「そうですね……ただ、二足歩行のように地面を歩いてきたトングが、お皿に分けてくれるのって衛生的にどうなのでしょうか?」


 サガラさんとミッシェルが話をしている間、退屈なのでポーラとお茶を楽しむ。

 サクっとしていて、くちどけ感のある変わったクッキー。

 ちょっと塩味が効いていて、でも甘くて美味しい。

 紅茶がすすむよ。


 ただ、言われたように、これをよそってくれたトングは地面を歩いてきてたんだよね。

 お皿は回転しながら、宙を舞って来てたけど。


「あっ、一応食べ物に触れる前には、浄化魔法を使ってるらしいよ」

「でも、気分的にちょっと……」


 確かに、良い気はしないよね。

 

「ここの床は、綺麗だから問題ない」


 こちらの話を聞いていたのか、サガラさんが言葉少なめに答えてくれた。

 いや、だからそういう問題じゃなくて、気分の問題なんだけどね。

 それを言うのも野暮だと思ったから、納得したふりをして頷いておこう。


「では、私たちが転生したことに意味は無く、使命のようなものもないと?」

「強いていうならば、好きなように生きることが使命かな?」

「好きなように……ですか」


 なぜそこで、私をチラッと見るんだミッシェルさん。

 まるで、私が好き勝手してるみたいじゃないか。

 サガラさんまで、こっち見んな。


「彼女くらいチートが備わっていればいいのですが」

「ほう? エルザはチートなんぞもっとらんぞ?」

「これ見てください! 私が落とした食べかすを、箒が勝手に掃いてくれてます」

「いいねそれ。便利な箒だ! うちにも、一本欲しい」

「異世界ル〇バです」


 サガラさんたちの会話が気になるけど、私がそっちに参加するとポーラがぼっちになっちゃうからね。

 こういう時、ポーラを放っておけない自分は小心者だと感じてしまう。

 理解できない組同士、盗み聞きしつつこっちはこっちで楽しむか。


「えっ? あんな、馬鹿げた力を持ってるのに?」

「自分で努力して得たものだ。与えられたものではない」


 サガラさん、良い事言うね。

 毎日、魔物を倒し続けて手に入れた力だからね。

 この溢れ出る魔力量だって、努力とレベル上げの成果だし。

 魔法に関しても、コネを使って全力で良い先生に師事した結果だし。


「公爵家の生まれってだけでも」

「であれば、王子や王の方がチートだな。それに、その方らと違ってエルザが望んで、彼らの元に産まれたわけでもないしのう」

「私たちだって、別に望んで今の家に生まれたわけでは」

「大体の希望通りにはなっておるであろう」

「ええ……まあ」


 ほうほう、ミッシェルさんは望んでレイチェルの姉になったと。

 なんか、変わった立場を選ぶ人だ。


「レイチェルやカーラに同情的であったからこそ、今の立場なのだ。であれば……レイチェルを救うことが、その方の使命かもしれぬぞ」

「なるほど……にしても、詳しいですね」

「ああ、エルザがここに来るたびに、私の指を枕に色々と学園での生活を話してくれるからのう」

「……サガラさんと仲良くなれたのが、一番のチートだと思います」

「ふんっ……お前らは、北欧やギリシャの神の方が好きなのではないか。自己紹介して、ようやく思い出してもらえる程度の神なぞ、いなくても構わんだろう」


 そんな自虐的にならなくても。

 私なんて、サガラさんが何者かなんて知りもしなかったし。

 むしろ知ってたミッシェルの方が、良いんじゃないかな?


「この紅茶、どこかで懐かしい味ですね」

「うん、あれだよ! 紅茶華伝のロイヤルミルクティーに似てる」

「ということは、ウバ茶に似たものがここにもあるのでしょうか? 私、紅茶が好きなんです」

「へえ、そうなんだ」


 あっちの会話が凄く気になるけど、ポーラが色々と話したさそうにしてるのを放っておけない自分が憎い。

 というか、最初はミッシェルだけを連れてきたら……私が、ボッチになりそうだ。


「サガラさんは、エルザ贔屓が凄いですね」

「可愛いからな」

「まさかの、下世話な話?」

「罰当たりなことを言う。この者は、純粋にこの世界に対して邪心をもっておらん。それに、わけも分からず連れて来られた被害者だからだ」

「私もわけが分からず、ここに居ますが?」

「自分で望んだのだから、仕方あるまい」

「私に対して、冷たい」


 そうかな?

 二人が、とっても仲良くなってる気がするんだけど?


「アッサムと、ダージリンだと、私はアッサムの方が好きですね。濃厚な甘みがミルクと相性抜群で」

「そうなんだ……でも、この世界って茶葉の種類ってどうなんだろう?」

「セイロンはよく見かけますね。何故か、地名由来のものが多い茶葉なのに、この世界でも名前が一緒なんですよね」

「それ、ポンコツ翻訳能力のせいかもしれないよ」

「えっ? 私たちの翻訳機能ってポンコツなのですか?」

「うん、なんか妙に、絶妙な翻訳力が発揮されて、本当にあってるのか不安になるときない?」

「あぁ……確かに。ギャグとかそうですよね。言葉遊びもそうですし」

「回文とかも、普通に使えたりするし」

「むしろ翻訳機能じゃなくて、この世界自体が日本語主体だったりするかもしれないですね」


 おお、なんかあれだ。

 転生者っぽく、言語の謎を追求する話題にもっていけた。

 これで少しは賢い会話ができるかも。


「そんなことよりも、ウバはメントールがほのかに香るんですけど、分かります? フレバリーシーズンが短いから、一番美味しい時期に飲めるのって幸せですよね? そのシーズンのものに近い香りが、この紅茶からはしますよね?」


 話題変更失敗……

 また、紅茶の話に戻ってきてしまった。

 そして、言ってることが全然分からない。

 メントール感……するかな?


「そ……そうですね」

「なぜ、急に敬語に?」

「ん? なんでもないよ」


 とりあえず盗み聞きした話の中で一番重要だったのは、使命なんかなくて好き勝手したらいいと。

 なんて、素晴らしい世界。


「でも、好き勝手出来るだけの素質と材料を持ち合わせてるのは、チートといえるのでは?」

「お主らほどではなかろう? それに、エルザはどのような状況でも、ああであっただろう……あれで、身分がもしも平民とかだったりしたら」

「クーデター待ったなしですね、封建主義に真っ向から喧嘩を売って、王国を混乱と破滅に導きそうです」

「であろう? であれば、公爵家令嬢というのはエルザにとっては、足枷みたいなものだ」

「ものは、言いようですね」


 そっか……確かに、私がもし平民だったら……全て、腕力で解決してただろうね。

 軍隊すらも、相手にしてそうだ。

 レベル上げって、凄く重要だもんね。

 レベル100程度の兵を揃えただけで調子に乗れるんだから、500もあればそこそこやれそうだし。

 現時点で1000を超えてるから、本当に本気を出したら……


「スリランカはセイロンの名産地なんですけど標高が結構重要なんですよね。似たような環境の場所がこの世界にもあるのでしょうか? だとしたら一度、是非行ってみたいですね? そう思いませんか?」

「そうだねー」

「公爵家の力を使えば、行けるんじゃないですか?」

「そうかもねー」

「紅茶を飲んでる時だけは、あっちに居る時と変わらないような気持で過ごせるんです。エルザ様もですよね?」

「どうかなー」


 凄い喋るじゃん、この子。

 というか、よく考えればこういう子だった。

 妙に押しが強いと言うか。

 ダリウスに、グイグイいってたのを思い出してきた。

 それも、なかなかに手強いポジティブさを発揮して。


「茶器にも色々と……あっ! ボーンチャイナ! あった! まだ、誰もやってない内政チート! そうでした! ボーンチャイナだったらいけるかも」

「へぇ、骨中国? なんか凄そうだね、中国の武器か何かかな?」

「食器ですよ。それと、中国じゃなくてロンドンで発明された磁器です」

「なんで、チャイナ?」

「当時は、磁器といえばチャイナだからです」


 よく分からないけど、なんか良いものなのだろうきっと。

 ボーンの意味が分からないけど。


「作り方は分かるの?」

「材料は分かりますけど……」

「じゃあ、委託しないといけないんだ。私のとこの研究者使う? 利益は8対2で」

「えっ……それは、ちょっと酷くないですか?」

「ええ? じゃあ、9対1?」

「なんで、もっと条件が悪くなるんですか!」

「ん?」

「ん?」


 いや、もしかして私が取り分8って思われた?

 私って、そんなにあくどく思われてるの?

 なんか、かなりショックなんだけど。


「いや、そっちが8割で、こっちが2割だったんだけど?」

「はあ? 私は情報を出すだけで、研究から製造までエルザさんがやられるのに? それは貰いすぎですし、だったらもう5対5で良いですよ」

「いや、別にいいよ。私はお金なら腐るほどあるし」

「……やばいレベルのブルジョワが居る。私も言ってみたい」


 事実だからしょうがない。


「嘘でしょう!」

「本当だと思うがな……まあ、主神のやつに直接聞いたのだが、信用は出来んな。一応、神であるから心を読むこともできぬし。やろうと思えば出来るが、確たる証拠も無くやるわけにはいかんのだ」


 えっ? 

 なんか、向こうで気になる展開を迎えてるっぽいんだけど。


「お茶の方面から攻めれば、私でもお金を集める方法が見つかるかも」

「あっ、うん……頑張って」


 もう、あれだ。

 解散したあとで、ゆっくりとサガラさんに聞こう。

 こうなったら、全力でポーラと話をすることにしよう。

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