表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/81

第6話:ダリウス・ステージア

「本日は、お目通りありがとうございます。王子殿下にご挨拶申し上げます。エルザ・フォン・レオハートです」

「うむ」


 私の華麗なる挨拶に、大仰に頷き返すのは……テーブルの反対側に座る少し年上のおガキ様だ。


「余がダリウス・ステージアだ。掛けるがよい」


 偉そうだけど、陛下じゃない。

 第一王子だ。

 そして、私の婚約者……


 とりあえず、他の貴族への発表兼お披露目会の前に、2人でのお茶会が開催された。

 といっても、二人っきりではない。

 保護者はいないが、使用人や侍女の方たちが世話を焼いたり、見守ってくれたりしている。

 あとは護衛の騎士が6名ほど……多くない?

 といっても、そのうちの一人はクリントだけれどね。

 やはり他の騎士よりは背が低いけど、安心するといいよ。

 その5人だと、全員でようやくクリントを押さえられるかどうかってところだからね。

 

「ふむ、長旅ご苦労であった。疲れてはおらぬか?」


 全然会話がはずむ気がしない口調に、溜息が漏れそうになる。

 こどおじならぬ、おじこどか?


 一つしか歳が変わらないのに、なんというか……

 ガッカリ。

 ただただ、ガッカリ。

 

 レベルも11しかない。

 年齢いこーるレベルですかぁ?

 真面目にやってますかぁ?

 と言いたいところだけれども……子供にしては結構高いレベルなんだよね。

 これでも。

 王族だから、レベリングもしっかりやってたんだろうね。

 

 でも、私の周りとは比べるべくもない。


 せめてもの救いは若さだね。

 大人に変わる直前の、独特の雰囲気。

 羽化した直後の虫のような、透明感と儚さと脆さを感じさせる状態。

 正直言って、大好物です。

 恋愛対象というわけではなく、暖かな目で見守りたくなるような。

 これからを感じさせて、ワクワクさせてくれるような。


 婚約対象としては下の下ですけどね。

 王族というステータスと、王妃という玉の輿?

 元々、私は公爵家で王族なのでそこまで旨味を感じてないですし。

 

 破棄したい。

 チェンジしたい。

 という我がままが許される身分ではないので、微笑んで胡麻化しておこう。


「それで、どうだ……その、余の第一印象とやらは」

「すっごく、えらそうです!」

「えっ?」

「いや、賢そうに見えるといういみですわ」


 危ない。

 思わず本音が出てしまった。

 この苦しい言い訳に対しても、何故か嬉しそうにしているダリウス殿下を見ていると不安になる。

 大丈夫かこの子?

 周囲におだてられて、簡単に神輿にされたり。

 子供だからかな?


「そうか……賢そうに見えるか……先生には特別秀でているわけでもなく、次期国王として頼りないと言われておるからな」


 私の不思議そうな表情に、殿下は困った様子で頬を掻きながら答えてくれたけど。

 第一印象よりはマシかなと。

 ただ、挨拶もまともに出来てない時点で、評価はかなり低いんだけれどもね。


 それにしても、その家庭教師は命が惜しくないのかな?

 不敬にもほどがある。


「その先生と言うのは?」

「サンディ先生のことだ。アレキサンドラ・ステージアと言った方が分かりやすいかな?」


 なるほど。

 陛下のお姉さまですか。

 私の従伯母でもありますね。

 なかなかの傑物で、尊敬できる方です。

 そして、厳しい方でもありましたね。

 なるほど。

 納得の評価です。

 厳しい傅役を付けられているのですね。


「お前に会う前に、集中して鍛えられたしな」

「ふふ、私……自己紹介の時にオマエ・フォン・レオハートって名乗りましたっけ? それとも、殿下の聞き間違いですか?」


 いきなりのお前呼びに、思わずからかいたくなってしまった。

 突っ込むべきタイミングが来たら、その場で突っ込まないと。

 後々の軌道修正は大変だからね。


 おっと、周囲であれこれと世話をしてくれている侍女の方たちの表情が、強張っている。

 そして殿下の従者の方や、使用人の男性陣も固まってしまった。


「あっ、いや……」

「聞き間違いではないと? では、私の名前を覚えてらして?」]

「えっと、その……」


 私の言葉に対して、あからさまに狼狽える殿下を見て溜息が出そうになる。

 さきほどまでの威厳のある喋り方は、どこいった?


「では、先ほどのことなのにもうお忘れになりましたか? 改めて自己紹介いたしましょうか?」

「す……すまない、覚えてはいる」


 覚えてはいる、ってなんて言い方なのだろう。

 そして、簡単に頭を下げるのはどうなのかと思う。

 偉ぶりたいなら、なおさら。


「その……エ……エルザ……嬢」

 

 少しはにかんだ様子で私の名前を呼んだ少年の頬が少し赤い。

 この子、マジか?

 こんなやや塩対応気味の私に対して、照れているのか?

 怒っている風には見えない。

 もしかして、マゾなのではないだろうか?

 少し……いや、この国の将来にかなり不安を覚える。

 そして、不安そうにこちらを見上げてくる青い瞳に、思わず可愛いと思ってしまった。

 やっぱり子供は可愛い。


「よく、言えました!」

「えっ?」

「ゴホン、あっ、いえ、なんでもないです」


 うつむき気味に、段々小声になりながらも名前を呼んでくれたので褒めてしまったけど、これは不敬だな。

 私の方が年下だし、立場も下なのに。


「その……エルザ嬢は、やはり強い殿方が好みなのだろう?」

「どういうことですか?」

「いや、そのような噂を聞いたことがある。貴女自身もかなり強いとお聞きしているし」


 なるほど。

 誰だ、乙女のあられもない姿をうわさ話にしてるのは。

 問い詰めて、その相手を締め上げねば


「レオハート卿が城に来るたびに、その方の武勇伝を語っておったもので」


 まさかの裏切り者は、おじいさま!

 

「その方よりも強い男を好むと……」


 まあ、それは事実なので否定はしませんが。


「私と釣り合いの取れる年齢の方は、またまた未来がありますので。今は私の方が強くとも、結婚までに私を守れるくらいに強くなっていただければ」


 私の言葉に視界の端で、クリントが首を振っているのが見える。

 うん、クリントは私を守るために騎士見習になって、私を越えるために厳しい鍛錬を続けている稀有な存在だ。

 あと2年もすれば、一緒に学校に通うことになるだろうし。

 それまでには護衛騎士として、十分な実力を付けたいらしい。


 そもそも同じ学校に通うことになるかどうかは、分からないけれど。

 私は王都の学園への入学が確定しているけど、彼なら辺境領の騎士学園の道もあるし。


「そうか……そうだな。私も頑張らねば」


 あれ? 

 余って言わなくなった。

 そっちが本来の口調なのか。

 気合いが空回りしたパターンかな。


「しかし、そこまでの強さが必要なのか?」

「最後に自分を守るのは、自分自身ですからね。であれば、とりあえず人類最強になっておけば町では安全ですし、生物最強になればどこにいても安全です」

「言葉でいうと簡単に聞こえるが、すごいことを考えるのだな」


 そうですね。

 そして会話の内容が、婚約者の初顔合わせのそれでないと思いますよ。

 もう少し相手のことを知る質問をするとか……

 まあ、趣味が戦闘方面に偏ってますが。

 料理の方も、それなり以上だと自負してますし。

 (まつりごと)にも多少は明るいですし。

 

 あと口調や態度だけでなく、会話の中身で自己アピールした方が。


 ほら、侍女の方々が微笑ましいものを見る目から、変なものを見る目に変わってきてますよ。

 残念なものを見る目の方もいらっしゃいますね。


「竜の鱗というのは、手でめくれるものなのか?」

「コツと膂力でなんとかなりますよ。素材採取の際には、手でめくって隙間をあけてナイフを奥まで刺し込まないと、途中で割れてしまいますし」

「いや、そうなのか……」

「奥まで差し込めば、あとはてこの原理で簡単に根元が取れるの、その後ゆっくりと水平に引き出せば綺麗な鱗が取れます。このときに隙間を上手くあけられなかったりすると、鱗同士がこすれて表面に傷が入ったりします。武器や魔法で簡単に傷が付かない鱗も、鱗同士がこすれる割と簡単に線傷が入ったりしますよ」

「べ……勉強になるな」


 周りの人たちが、それは違うと表情で言っているのが分かる。

 敢えて、スルーさせてもらうね。

 その後も、私だけが楽しいお茶会の時間がただただ過ぎていったのだけは、確かだと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ